スマート・フォーツー・クーペ(RR/5AT)【ブリーフテスト】
スマート・フォーツー・クーペ(RR/5AT) 2008.08.08 試乗記 ……193万3250円総合評価……★★
7年ぶりのフルモデルチェンジで「クルマらしさが増した」と評される「スマート」。大胆な発想で衝撃を与えたコンセプトは、2代目となってどう進化したのか。
ライバルが、スゴすぎる
スマートが登場した時には、何よりその割り切ったコンセプトに感心したのだった。自動車の要素として必要と考えられていた項目を精査し、ミニマムな構成を探り出してカタチにした力業には恐れ入ったものだ。
だから、弱点として取りざたされた部分には、ある程度目をつぶってもいいと思っていた。短いホイールベースからくるピッチング、思うに任せないギアチェンジは、“愛嬌”としてむしろ魅力を増すアイテムだと好意的に見ることもできたのだ。
2代目となって、自動車としての完成度は格段にアップしたと耳にしていた。たしかに、そのとおりなんだと思う。弱点の克服に努力が重ねられ、その成果が出ていることは認めなくてはならない。しかし、期待が大きかったせいか、満足したとは言いがたいものがある。
7年を経て改めて世界に問うには、アピールするものが感じられない。“自動車らしく”なったのは間違いないけれど、その代わりにガタイは大きくなり、愛嬌は失われた。初代の「コンセプトが走っている」といったピュアな成り立ちと比べると、どうしても中途半端なものという印象が生じてしまう。
あるいは、日本で見るからその魅力が薄らいで見えるのかもしれない。日本には、軽自動車という素晴らしい達成がある。この7年の間に、軽自動車は長足の進歩を遂げた。スマートがデビューした頃とは別物と言っていいほどのクオリティを獲得している。価格、乗りやすさ、実用性などを総合すると、スマートを選ぶには相当の言い訳がいる。
そして、インドでは「ナノ」などというとんでもないクルマが登場してきたし、日本からはトヨタが近々「iQ」を世に問うことになる。スマートが牙城を守るためには、“改良”だけでは厳しいものがある。
もちろん、コンセプトの素晴らしさは今も色あせてはいない。だからこそ、2代目には新たな提案を加えてぶっちぎりの未来を見せてほしかった。エコをアピールするオシャレなアイテムとして受け止められてしまうのは、スマートの本意ではないはずである。
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【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1997年のフランクフルトショーで初代がデビュー。スマートを手がけるMCC(Micro Compact Car)社は、もとはスウォッチで知られるSMH社とメルセデス・ベンツの合弁会社だったが、デビュー当初の販売不振からSMH社が撤退、名実ともにスリーポインテッドスターの子会社となった。2007年に2代目となり、日本では2008年に発売が開始された。ラインナップされるのは、「フォーツー・クーペ」と「フォーツー・カブリオ」の2種で、エンジンは1リッター直列3気筒、トランスミッションは5段マニュアルモードつきの「ソフタッチ」のみの組み合わせ。カブリオは、本体205万円。
(グレード概要)
日本で販売されるのは、右ハンドルのモデルのみ。外装色は6色、内装色はファブリック3色、本革(オプション)1色が用意される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
インテリアのポップなテイストは影を潜め、至極まっとうな風景が目の前に広がっている。チープさも払拭され、内装の質感は確実に向上している。拒否感を持つ人は減少したはずだが、オンリーワンの魅力はそれに比例して薄くなった。
恐ろしく目立っていたハザードランプのスイッチも、ごくまっとうな場所に落ちついた。センターコンソールが隆起したような形状で、エアコンの吹き出し口がピョコンと飛び出していた初代のインテリアは生き物のようなイメージだったが、今度のは無機質な雰囲気である。スッキリとした水平のラインが強調され、わかりやすいセンスの良さを手に入れた。
スピードメーターはあいかわらず大きく、視認性は良好である。シフトインジケーターが、ギアの上げ下げをうるさく指示するのもよく見える。今や必需品となった感のあるドリンクホルダーが備わらないのも受け継がれている。
(前席)……★★★
ボディの小ささからすると、シートのつくりは立派。座面長、背もたれは大柄な人にも十分なサイズで、座り心地は上々だ。長時間の運転でも疲労は少なく、シートの出来はこのクルマの大きな魅力だといえるだろう。ただし、シート生地のプリント模様は好みの分かれるところ。
前方の眺めは広々としていて、これは先代から引き継がれたもの。インテリアがシンプルになった分、さらに開放感は高まった。
気になったのは、高速走行での風切り音の大きさ。せっかくのiPod対応オーディオなのに、よほどボリュームを上げなければ楽しめなくなるレベルである。
(荷室)……★★★
容量の大きさは期待するべくもないのだが、意外にもそこそこの量の荷物を飲み込む。カタログ値ではVDA方式で220リッターという数字だ。
長尺ものを積むには、助手席を倒せばよい。テールゲートの上下分割式が継承され、利便性のよさは先代そのまま。小さなものは上のガラスハッチを開ければ出し入れできるし、下のリッドを開ければ大きなものの積み込みが楽にできる。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★
エンジンは0.7リッター(発売当初は0.6リッター)のターボから、ノンターボの1リッターに代わった。当然、パワー、トルクともに向上しているが、乗ってみるとそれほど活発になったとは感じない。車重も100kgほど重くなっているので、相殺されてしまったのだろうか。
特に、発進時はトルクの乏しさが気になる。“ふんわりアクセル「Eスタート」”なんてやろうものなら、1時間経っても出発できないだろう。上り坂でも力不足を露呈する。シフトダウンをサボったりすると、途端に喘ぐような息をすることになる。
得意なのは高速道路だ。ある程度のスピードに達してしまえば、スムーズに走らせることができる。加速時には3気筒エンジンが騒がしくなるのは致し方ない。
最大の弱点であるトランスミッションは、改良のあとが認められる。街中でシフトアップのタイミングをミスると、感覚的には2秒も3秒も回復するまでに待たされた初代のようなことはない。
ただ、これは相対的な印象であって、やはり快適な変速が行われているとはとても言えないのだ。言うことを聞かない器械をどう手なずけるかということに意欲を燃やすタイプでない限り、意気を阻喪(そそう)させるものであることは変わっていない。
売り物のひとつであるはずの燃費は、高速走行が多かったにもかかわらずリッターあたり13.13kmにとどまった。悪くはないが、期待したほどではない。
(乗り心地+ハンドリング)……★★
ボディの大型化は、安定感の増加に貢献している。少なくとも、倒れそうな不安感というのは一切持たずに済む。高速コーナーでの振る舞いは、このサイズにしては見事なものである。
不整路面は、やはり不得意科目だ。全長が160mm伸びたとはいえ、ホイールベースの延長は55mmにすぎない。不快なピッチングが生じるのを完全に押さえ込むのは難しい。
大きくなったとはいえ、小回りが利くという利点は十分にアピールポイントとなっている。日本の狭い路地を走る場合には、これは大きなメリットとなる。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:鈴木真人(別冊単行本編集室)
テスト日:2008年6月17日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2008年型
テスト車の走行距離:4407km
タイヤ:(前)155/60R15(後)175/55R15(いずれもコンチネンタルContiEcoContact3)
オプション装備:パッケージオプション<アルミホイール、本革巻ステアリング&シフトノブ、フロントフォグランプ、電動調整ヒーテッドドアミラー、グリーブボックス、ラゲッジルームカバー>=10万5000円/メタリックペイント=4万2000円/ETC車載器=2万6250円
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(8)
テスト距離:312.0km
使用燃料:23.77リッター
参考燃費:13.13km/リッター

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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