第52回:「フィアット500」のLPG仕様車登場! これからは「エコかっこいい」の時代
2008.08.02 マッキナ あらモーダ!第52回:「フィアット500」のLPG仕様車登場!これからは「エコかっこいい」の時代
ガススタンドが3000か所
先日イタリアでは、新型「フィアット500」のLPG仕様車が登場した。
これは、LPG/メタン仕様の改造キットメーカーで、23%の業界シェアをもつ「ランディレンツォ」社がプロモーション用に製作したもの。背景にあるのは、ここのところイタリアで再燃しているガス仕様車への関心である。
イタリア人ドライバーへのガス仕様車の浸透は、昨日今日に始まったことではない。
この国では、遠く1960年代から一般車にも広く普及し始めた。
燃料費は今日イタリアでガソリンやディーゼルが1リットルあたり約1.5ユーロのところ、ガスは0.7ユーロ前後と、半分以下だ。
公共交通機関が発達していないイタリアで、クルマは日々の暮らしの重要な足である。またヴァカンスにも8割の人が自動車を使う。したがって、燃費低減は重要な課題なのだ。
そして、ガスの充填インフラが早くから整備されたのも人気を後押しした。日本ではなかなか見つからないが、イタリアではメタン用も合わせてガススタンドは全国に3000か所もある。
その割合は、スタンド総数の10%以上となる。欧州でも屈指の数字だ。
CO2の排出量が少ないことによるエコ奨励金が出ることも普及に拍車をかけた。州や県によって違いがあり、予算がなくなり次第毎回制度が一旦終了してしまうものの、円にして25万円くらい出ることがある。
いちばん身近なハイブリッド
LPG仕様に乗る方法はふたつある。ひとつはメーカーのカタログに載っているLPG/メタン仕様を購入する方法。もうひとつは、自分のクルマ(構造上ガソリン車に限られる)を指定工場に持ち込み、改造してもらう方法である。
改造費用はLPGが円にして約30万円で、メタンはそれより若干高い。
なお日本のタクシーと違い、カタログバージョン、改造物ともにガソリンタンクはそのままにガスタンクを追加してある。したがって近隣にガススタンドがなくても普通のガソリンを入れれば走り続けることができる。いわばイタリアでいちばん身近な「ハイブリッド」と言える。
写真の「オペル・アギーラ」オーナーのアドリアーノさん(56歳)も、ヒッピー的放浪のときに愛用していた「フォルクス・ワーゲン・タイプ3」以来、ずっと好きなクルマを購入してはLPGに改造して乗ってきた。
ボク自身も、燃費の悪いガソリン車に乗っているとき、本気でガス仕様に改造しようと考えたときがあった。しかし、一旦ガス仕様にすると、あとでガソリン仕様に戻すことは容易ではないし、中古に出すときも査定価格はガクっと下がってしまうのだ。
また、以前出した著書の中で、「ガス仕様車に改造することは、ボク自身にタトゥーをするのと同じような勇気が要る」と書いた。さらにLPGの場合、地下駐車場に入れなかったり、フェリー予約にも事前告知が必要なのである。
もしボクがガス仕様車のユーザーだったら、プールや温泉ランドに「タトゥーのある方お断り」と書いてあるのと同じ心境に陥るに違いない。
ちなみに、空気より軽いメタン仕様にすればそうした規制は受けない。だが、搭載するタンクはLPGよりかなり重くなり、またメタンスタンドの数はLPGに比べて少ないので、見知らぬ土地では困ることが予想された。
同時に、その頃ちょうどディーゼルがブームとなり、月間登録台数の半分以上を占めるようになった。いくら前述のようにLPGスタンドの数が多いからといって、普通のガソリンスタンドの数には敵わない。人々はより給油所を見つけやすいディーゼルに乗り換えていったのだ。
それに合わせて、ボクのガス仕様車への関心も薄らいでいったのを覚えている。
ガス仕様車が盛り返した理由
そんな経緯があるなか、ふたたびガス仕様がイタリアで人気を博し始めた。2008年上半期のガス仕様車の登録台数は、前年同期比で2.83倍も増えている。
より詳しく知るべく、この道30年ガソリン/LPGスタンドを営むティータおじさんのところに赴いた。
おじさんいわく、1日の売り上げでは「ディーゼル2500ユーロ、ガソリン1500ユーロ、LPG1500ユーロ」なのだそうだ。ディーゼルは観光バスやトラックが大量に給油することを考慮すると、3種の売り上げはほぼ同一らしい。
ガス仕様車がふたたび盛り返してきたのには理由がある。まず何よりも燃料高騰である。すでに本連載で書いたが、イタリアの多くのスタンドでは春からガソリンとディーゼルの価格差がなくなってしまった。
そして、近年各都市で実施され始めたロードプライシング制、つまり街に乗り入れるクルマへの課金制である。大都市ミラノでも2008年1月から実施され始めた。
こうした規制においてガス仕様車は、前述のようにCO2排出量が少ないことから、大抵いつでも無料で通行可能なのである。
さらなる理由は、自動車メーカーのカタログモデルにおけるガス仕様車の充実である。
実はティータおじさんは、ガス仕様の現状について知りたいというボクに、「これで勉強しなよ」と雑誌を10冊ばかりドーンと貸してくれた。直訳すれば『エコ車 ぜんぶガス』というその業界誌の巻末には、メーカー自体が用意しているガス仕様車のラインナップがズラッと載っていた。
あの高級車さえもLPG!
それによると、フィアットでは「パンダ」「プント」「ムルティプラ」そして多目的車の「ドブロ」にメタン仕様がある。オペル、GMDATのシボレー、プジョー・シトロエン、ルノーにもLPGやメタン仕様が用意されている。
日本車ではダイハツの「シリオン(ストーリア)」と「テリオス(ビーゴ)」、スバルの「フォレスター」「インプレッサ」「レガシィ」「アウトバック」にLPG仕様がある。
しかし何より驚くべきは、今やプレミアムカーでもガス仕様が結構選べることである。アウディは「A3」と「A4」にLPG仕様が、メルセデス・ベンツは「E200」にBI-POWER EVOというメタン仕様がある。
さらに思わず「うォーッ!」と声を上げてしまったのは、なんとこの国ではキャデラックでもLPGが選べるという事実だ。「エスカレード」「SRX」とったSUVはもちろん、「CTS」や「STS」にも設定されている。
まあ、燃費が悪いデカいクルマほどLPGにするメリットは大きいのだろうが、LPG=タクシーというイメージが浸透した日本からすると、インパクトを通り越して痛快でもある。
節約すべきところは節約し、かつバチッとスタイルをきめる。
もちろん、背景にはあらゆるエネルギー代が欧州一高いという、切羽詰まった実情もある。だが大きな邸宅に住みながらも、ひたすらまめに電気を消すイタリア人を見ていると、そうしたガス仕様好きは、彼らの美意識の鏡と捉えることもできる。
日本の一部雑誌における、虚飾に満ちたイタリア特集に騙されてはいけない。この国のクルマ選びにおける最新キーワードは、「エコかっこいい」なのだ。
(文=大矢アキオ/写真=LANDIRENZO、大矢アキオ)
拡大 |

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
-
第963回:ベスパで家族円満! ローカルイベントをのぞいてみた 2026.5.28 2026年は「ベスパ」の誕生80周年! 地元イタリアでは、各地で記念イベントが催されている。そのひとつである「キャンティ&ヴェルナッチャ100km」を、現地在住の大矢アキオがリポート。イタリアならでは、ベスパならではのファンの交流に触れた。
-
第962回:路上の伏魔殿? イタリア式パーキングチケット発給機のワナ 2026.5.21 ちょっとした駐車に便利な路上パーキング。イタリアでも広範に採用されており、アプリ決済も可能となるなどシステムも進化しているのだが……。イタリア在住の大矢アキオが、かの地のパーキングチケット事情と、日々の移動に潜むささやかなワナ(?)を語る。
-
第961回:海賊エンツォ・フェラーリ 敵に取り囲まれる 2026.5.14 F1における、フェラーリとイギリスのコンストラクターの戦いにフォーカス。「トリノ自動車博物館」でスタートした企画展「ドレイクの敵たち—エンツォ・フェラーリと英国のチーム」を、イタリア在住のコラムニスト、大矢アキオがリポートする。
-
第960回:レクサスは欧州人のマナーを変えた? 「ミラノ・デザインウイーク2026」の自動車ブランド出展から 2026.5.7 イタリア・ミラノで世界的なデザインの祭典「デザインウイーク」が開催された。アウディ、レクサス、ルノー、イタルデザイン……と、自動車関連の出展も数多く見られた会場の様子を、伊在住の大矢アキオがリポート。今回はどんな展示が注目を集めていたのか?
-
第959回:「うすらデカいフィアット」がもたらしてくれたもの 2026.4.30 11年にわたりモデルライフを重ねてきた、フィアットのCセグメント車「ティーポ」が、ついに生産終了に……。知る人ぞ知る一台の終売の報を受け、イタリア在住の大矢アキオが、“ちょっと大きなフィアット”の歴史を振り返り、かつての愛車の思い出を語る。
-
NEW
レクサスES350h(FF/CVT)/ES350e(FWD)/ES500e(4WD)【海外試乗記】
2026.6.3試乗記「レクサスES」がフルモデルチェンジ。シャシーがFFベースというのは歴代モデルと同じだが、新型ではボディーサイズがググッと拡大。「LS」の6輪ミニバンコンセプトが登場したこともあり、今後のレクサスセダンの総代を担うことになる。北米で乗った印象をリポートする。 -
NEW
ミドシップ化で運動性能はどう変わる? 「GRヤリスMコンセプト」の現時点での完成度を体感
2026.6.3デイリーコラム「GRヤリス」をベースとしたミドシップ4WDとして市販化を目指す「GRヤリスMコンセプト」。現在もスーパー耐久に投入されるなどして鍛えられているが、その開発車両をドライブできた。普通のGRヤリスとの運動性能の違いや、新開発エンジンの印象などをリポートする。 -
NEW
第115回:メイク・アメリカ・グレート・アゲイン!(後編) ―デザインもサイズも規格外! 魅惑のアメリカ車はなぜ“主役”になれないのか?―
2026.6.3カーデザイン曼荼羅トヨタ&ホンダが発表した、米国生産車の日本導入計画。しかしアメリカには、規格外に面白いクルマがまだたくさんあるのだ! カーデザインの識者とともに魅惑の日本“未”導入車を探すとともに、魅力的なアメリカ車が、それでも主役になれない理由を考えた。 -
どうしてピアノブラックの内装材は多用されるのか?
2026.6.2あの多田哲哉のクルマQ&Aよく目にするピアノブラックの内装材は、「キズや脂汚れが目立つ」などネガティブな評価もしばしば。それでも多用されているのはなぜか? 車両開発者の多田哲哉さんに聞いてみた。 -
BSAゴールドスター650(5MT)【レビュー】
2026.6.2試乗記かつて一世を風靡(ふうび)した英国の名門、BSAが復活! 新生第1号モデルである「ゴールドスター650」は、クラシックで優雅なお散歩バイク……と思いきや、ツインカムの大排気量シングルで、ライディングも前のめりに楽しめるマシンに仕上がっていた。 -
レストモッドがイメージ 特別なオニツカタイガーの魅力に迫る
2026.6.1オニツカタイガーの新作ドライビングシューズを知る<AD>オニツカタイガーが、“レストモッド”と呼ばれるクルマのレストア&カスタム手法に着想を得たドライビングシューズを発表。4タイプ製作された、「MEXICO 66 DRIVING」のスペシャルバージョンの魅力に迫る。





























