ダイハツ・コペン アクティブトップ/ムーヴX【試乗記(前編)】
タイム・トゥ・セイ・グッバイ(前編) 2012.02.01 試乗記 ダイハツ・コペン アクティブトップ(FF/4AT)/ムーヴX(FF/CVT)……169万5000円/122万円
最新の低燃費エンジンを搭載した「ムーヴ」と、モデルチェンジがうわさされる2シーターオープン「コペン」。軽自動車のなかである意味新旧ともいえる2つのモデルに試乗し、軽自動車の進化と可能性について考えた。
圧倒的な狭さに驚く
狭い。本当にミニチュアカーに乗っているみたいだ。6、7年ぶりに乗る「ダイハツ・コペン」は、何よりもその圧倒的な狭さで驚かせてくれた。自動車に限らなくても、こんなミニマムなスペースは長らく経験していないような気がする。電話ボックスだって、何年も入っていないし。あまりの閉所感に、息苦しい感じさえしてきた。
ダッシュボードの面積も極小だから、メーターとエアコン、オーディオで埋まってしまう。カップホルダーもないのかと思ったら、センターコンソール後方の四角いくぼみがその役を担っているようだ。ドアミラーを調整しようとしたら、スイッチが見当たらない。探すこと数分、ステアリングホイールの陰で見えなくなっている場所にようやく発見した。宝探しのようだ。ちなみに、トランクオープナーはセンターコンソールボックスの中、エンジンフードオープナーはグローブボックスの中にある。
今回乗り比べた「ダイハツ・ムーヴ」のような背高グルマが、現在の軽自動車の主流である。大スペースのハイトワゴンか、さもなければ燃費に特化したモデルでなければ勝負にならない。2005年には“てんとう虫”のスピリットを受け継ぐ「スバルR1」が登場し、翌年にはダイハツが「ソニカ」、スズキが「セルボ」を売りだした。デザイン優先で“軽スペシャルティ”のジャンルを開発しようとしたが、現在はすべて消滅してしまった。コペンにも、そろそろさよならを言わなければならない時期がきている。
月に1000台売れる人気者
コペンがデビューしたのは、さらにさかのぼって2002年6月である。まだ10年たっていないが、運転席に座って感じる印象ははるかにクラシカルだ。感覚的には、今の軽自動車よりも、40年以上前の「ホンダS600」などに近い乗り物に思える。黒一色のインストゥルメントパネルには、スポーツカーの文法にのっとって3連メーターがあしらわれている。表皮には柔らかい素材が使われていて、軽自動車としてはずいぶんぜいたくだ。でも、その質感やデザインのディテールが、今どきのものじゃない感を濃厚に発している。
「ホンダ・ビート」や「スズキ・カプチーノ」以来のオープン2シーター軽ということで注目を集め、月に1000台以上も売れる人気だった。当時僕が所属していた自動車雑誌『NAVI』編集部では、長期リポートカーとして数台のクルマを保有しており、その中の1台がコペンだった。「日産フェアレディZ」や「アウディS3」などの豪華なラインナップの中で、編集部員の支持は常にコペンが一番だった。純粋に走りが楽しいという点では、抜きんでていたのだ。
ただし、直接の担当者であるT君は180センチを超える長身で、アタマが天井にぶつかるといってむくれていた。このクルマに乗るときだけは、自分が短躯(たんく)であることに感謝したものだ。それでも、屋根を閉じたまま乗り込む時は苦労してカラダを折りたたまなくてはならない。
絶滅危惧種の4気筒エンジン
トランスミッションは2種類あるが、試乗車はATモデルだった。薄くガッカリしながら発進させる。軽自動車では今や絶滅危惧種の4気筒エンジンである。「スバル・サンバー」の生産が終了すると、コペンと「三菱パジェロミニ」だけになる。ターボの力を借りて64psを搾り出すが、低回転でのトルクは少々心もとない。早くスピードに乗ろうと、ついアクセルを踏み込んでしまう。
さらに力強い加速を得ようとして、マニュアルモードで高回転を保ちながらシフトアップしていった。巡航に移ろうとして5速を選ぼうとしたのだが、反応しない。壊れているのじゃなくて、このクルマのATは4段なのだった。7段8段のATが平気で流通しているからうっかりしてしまうが、ちょっと前までATは4段が普通だった。
しばらく走るうちに、タイト感が身になじんできて心地よい空間になってくる。路面の悪いところではガサツな震動に見舞われることもあるが、すぐに収まってそんなに不快ではない。2230mmの短いホイールベースながら、ピッチングはさほど気にならなかった。
調子に乗ってスピードを上げると「速度に注意してください」とクルマから声がした。速度違反はしていないが、急加速すると叱られるらしい。以前はこんな機能はなかったはずだ。後でムーヴに乗ったら同じ声で叱られたから、現在のダイハツ車の標準なのだろう。懐古的な気分に浸っていたのに、一瞬で現在に引き戻された。(後編につづく)
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。