フォード・マスタングV8 GTクーペ プレミアム(FR/5AT)【ブリーフテスト(前編)】
フォード・マスタングV8 GTクーペ プレミアム(FR/5AT)(前編) 2006.12.20 試乗記 ……460.0万円 総合評価……★★★★ アメリカン・マッスルカーの代表格「マスタング」。1964年の初代を彷彿とさせるルックスに最新メカニズムを組み合わせたクーペは、見かけのみならず、乗り味も“マスタング”だった。あのマスタングそのもの
エンジンを始動するべくキーをひねると、V型8気筒ユニットのジュオーンという重々しい響きが大音量で響き渡る。その瞬間、身体で思い出したのは紛れもなく初代マスタング。正直、乗る前には見た目だけかと思っていたのだが、この新型マスタングはそれだけではなく、走りのテイストも濃厚に、あの頃のマスタングの雰囲気を再現しているのだ。
外観や内装のイメージを往年のモデルに近づけるのは、簡単だと言ってはデザイナーに失礼かもしれないが、それでも何となく出来そうな仕事ではある。その点でも、新型マスタングの仕事のレベルは高い。
しかし、走りの手触りでそれをやってのけるのは、決して簡単なことではないはずだ。何しろ初代マスタングは40年以上も前のクルマである。あの頃と今では技術レベルに大きな大きな開きがあるのはもちろん、動力性能や快適性、安全性に環境性能など、自動車に求められる要素が格段に増加し、また要求レベル自体も上がっている。
実はアメリカでのデビューから2年も待たされたわけだが、ともあれ2006年に我々の前に姿を現したマスタングは、当然今の時代のクルマとして求められる要件をすべて満たしている。単純に性能だけ見たって、あの頃と同じわけがない。
それなのに、エンジンの適度に重く、でもキメの細かな吹け上がりの感じといい、細身で大径のステアリングの、軽く繊細な手応えといい、ついでに言えば思わず足がこわばるほどのブレーキの効きの甘さといい、これがもう、あのマスタングそのものなのだ。これには驚かされたし、何より嬉しい気持ちにさせられた。
たとえるならこの新型マスタング、過去の名曲のリメイクなんてと半ば馬鹿にしながらレコードに針を落としたら、聞こえてきたのは思いのほか痛快なセルフカバーだったといったところだろうか。
次のアルバム、もとい次のモデルでは、それを踏まえた上でまた新たな展開を見せてほしいところだが、とりあえず今これを味わうのも案外悪くないかなという気にさせられるのも、また事実なのである。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1964年に初代がデビューした元祖スペシャルティカー。最新型は2006年秋に上陸した。確固としたブランドが確立できないでいる日本におけるフォードの、イメージリーダー的存在といえる。
ロングノーズ&ショートデッキや3連テールランプ、フロントグリルに取り付けられた“ギャロッピングホース”エンブレムなど、従来までのマスタングのデザインキューを踏襲した“アメリカン・マッスルカー”らしいフォルムを纏いつつ、中身を最新のメカニズムとした。
全長×全幅×全高=4765×1880×1385mm、ホイールベース=2720mmのボディに、4リッターV6SOHC(213ps/5300rpm、33.1kgm/3500rpm)あるいは4.6リッターV8SOHC(304ps/5750rpm、44.2kgm/4500rpm)いずれかを搭載。エンジンはどちらもオールアルミ製で、V8ユニットは従来より34kg軽量化を図りながら、出力は40ps高められたという。トランスミッションは全車5段ATだ。
サスペンションは、フロントがマクファーソンストラット式、リアは横方向の安定化を図るパナールロッドを採用した3リンク式。高剛性のブッシュと柔らかいブッシュを適所に配置し、クイックなステアリングレスポンスと乗り心地の両立を謳う。
(グレード概要)
日本仕様は、エントリーモデル「V6クーペ プレミアム」と、「V8 GTクーペ プレミアム」、そして電動コンバーチブルトップを持つ「V8コンバーチブル プレミアム」の3種類。テスト車はクーペの上級版にあたる。
V6クーペと比べると、リアスポイラーやデュアルエグゾーストパイプ、2インチプラスの18インチアルミホイール、フロントアクセサリーランプが外観上の違い。装備面では本革スポーツバケットシートが奢られるほか、万一エンジン冷却水が少なくなっても短距離であれば走行を継続できるという「フェイルセーフクーリング」がV8モデルに備わる。(中編につづく)
(文=島下泰久/写真=荒川正幸(A)、高橋信宏(T))

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
NEW
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】
2025.10.17試乗記「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。 -
NEW
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する
2025.10.17デイリーコラム改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。 -
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。 -
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか?
2025.10.16デイリーコラム季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。 -
BMW M2(後編)
2025.10.16谷口信輝の新車試乗もはや素人には手が出せないのではないかと思うほど、スペックが先鋭化された「M2」。その走りは、世のクルマ好きに受け入れられるだろうか? BMW自慢の高性能モデルの走りについて、谷口信輝が熱く語る。