レクサスLS460 バージョンS(FR/8AT)/バージョンU “Iパッケージ”(FR/8AT)【試乗速報】
ときめきよりも、やすらぎを 2006.10.05 試乗記 レクサスLS460 バージョンS(FR/8AT)/バージョンU “Iパッケージ”(FR/8AT) ……930万500円/1155万9950円 レクサス日本導入から1年を経て、ようやくフラッグシップの「LS」が上陸した。ブランド像の確立のために重要なモデルは、新しい高級車の姿を提示することができたのだろうか。
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「世界初」が目白押し
待望の、「LS460」の登場である。LSが登場するまでのつなぎとして「GS」を買った人がかなりの数あったと言われていて、やはり「レクサス」ブランドを体現するのがフラッグシップたるLSだという期待感があった。ユーザーだけではなく、当のレクサスにとっても待望のモデルだ。「GS」、「IS」、「SC」の3車種での船出というのは本命不在の印象をぬぐえず、販売成績の低迷という形で準備不足が如実に現れてしまった。これでようやく本格的にプレミアム市場に漕ぎ出す体制を整えたのである。逆に言えばこれで駄目なら言い訳が利かないわけで、相当に気合いの入ったモデルなのだ。
それは、新たに盛り込まれた技術に表れている。エンジンは新開発の4.6リッターV8「1UR-FSE」で、筒内直接噴射とポート噴射を併用した「D4-S」を採用している。可変バルブタイミング機構の吸気側にモーター作動の「VVT-iE」となっていて、従来の4.3リッターエンジンに比べて最高出力を約37%アップさせながら燃費を改善し、排出ガス基準でも四つ星を獲得している。また、トランスミッションは一気に2段増やした8段AT(8 Super ECT)が与えられている。「世界初」が目白押しである。
ハイテク方面もぬかりなく、車両姿勢制御の「VDIM」、ミリ波レーダーを使った「プリクラッシュセーフティシステム」、「レーダークルーズコントロール」、「レーンキーピングアシスト」、「インテリジェントパーキングアシスト」など、安全性、利便性の向上のためふんだんに盛り込まれている。今回の短い試乗ではこれらの機能をすべて試すことは不可能だったので、まずは骨格についての印象を記すことにしよう。
室内はプレミアムな佇まい
富士レクサスカレッジのロータリーに並べられたLSを見て、不思議なことにあまり新鮮な印象を持たなかった。さんざん写真で紹介されているのを見ていたせいもあるのだろうが、先行していたGS、ISの姿に接しているうちに、なんとなくレクサスのデザイン傾向というのが刷り込まれていたようにも思える。これといって派手さがあるわけではないスタイリングは「個性が弱い」などと評されてもいたが、だんだんレクサスらしさのようなものが見えてきたのかもしれない。ただ、よりエッジの立っていたGS、ISから見ると鷹揚さが全体を包み込んでしまい、デザインの志向はわかりづらい。少々保守的に過ぎ、ガツンとくる明瞭な高級感は一見しただけでは伝わらなかった。
室内に収まったほうが、プレミアムな佇まいを感じやすい。ことに、メローホワイトの内装色は華やいだ雰囲気を横溢させ、いいモノ感が高い。本革と本木目で緻密に構成される空間は、高級車としての文法を確実に手に入れたことを示している。しかし、厳めしさはさほどではなく、全体を軽みが覆っている。「Iパッケージ」に与えられるセミアニリンレザーならばさらに風合いがしなやかで、肌に当たる感覚が柔らかい。シートの形状はとりわけサポート性を重視したものではないが、きめ細かい調整で万全なフィット感が得られる。
居心地のいい高級感が横溢しているだけに、モニターに表示される画像が興を削ぐのが惜しい。レクサスのロゴが映されている時はいいのだが、メニュー画面や情報画面のデザインがトヨタのものと同工の雑駁なもので、まわりとそぐわないのだ。和のプレミアムとハイテクの生み出す利便性の融合にレクサスの意匠が支えられているのだとすれば、意識的に力を入れるべき部分であるように思う。
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あくまで上品で、軽やか
ステアリングコラムの左にあるスタートボタンでエンジンを始動させると、レクサスからの挨拶のように短いサウンドロゴが流れる。マッキントッシュの起動音が機種によって微妙に異なっていたのには倣わず、どのレクサスでも同じ音である。運転者がレクサスオーナーであることを自覚する仕掛けなのだ。電動パーキングブレーキを解除すると音もなくLSは滑るように動き始める。床までアクセルペダルを踏み込んでも、加速感やエンジン音からは過剰な力感が丁寧に取り除かれていて、暴力性やガサツさはみじんも感じられない。あくまで上品な、俊敏で軽やかな動きなのだ。2トンという重量なのに、身軽さときびきびした動きが印象づけられる。
エアサスペンションの動きは滑らかで、柔らかく路面からの入力を受け止める。ISのデビュー時に驚きをもって迎えられた若々しい硬さは影を潜め、大人の振る舞いをする。軽やかさと柔らかさが合わさって、中空に浮かぶような感覚が得られる。ただ、19インチホイールと専用サスペンションが与えられたバージョンSでは、明らかにスポーティな方向へのしつけが感じられた。
VGRS(ギア比可変ステアリング)機構を組み込んだ電動パワーステアリングは、素直なフィールをもたらしている。スポーティさと安心感をバランスさせるポイントを探して磨き上げられた制御は、短時間の試乗ではまったく難点を見つけることはできなかった。ハンドリングの味付けをするには自由度の高いシステムで、それだけに開発者のセンスが問われることになるわけだ。LSに関してはレクサスの標榜する「ときめき」と「やすらぎ」のうちでは「やすらぎ」に重きを置いているようである。
まだまだ「レクサスの味」という統一性が明確になったとはいえない気がするが、それは各モデルの開発担当者がまだトヨタ時代の過去を背負っていて、どうしてもそれぞれの主張が出てしまうという事情があるらしい。このLSは、デザインにおいても走りにおいても、「やすらぎ」をドミナントとして意識した方向性が感じられた。「日本のプレミアム」を作り上げる端緒が、そろそろはっきりしてきたのかもしれない。
(文=別冊単行本編集室・鈴木真人/写真=荒川正幸/2006年10月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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