キャディラックXLR(5AT)【試乗記】
新しい革袋に熟したワイン 2004.03.09 試乗記 キャディラックXLR(5AT) ……1150.0万円 伝統ブランドの老化に危機感をおぼえ、「日欧車に真っ向勝負!」を打ち出した新世代キャディラック。4ドアセダン「CTS」に続いて、ラクシャリーロードスターたる「XLR」を、わが国でもリリースした。『webCG』コンテンツエディターのアオキが乗った。CTSと同じ
海のむこうの空が明るくなってきた。夜明けとともに起き出して、冬の冷たい雨が降るなか、神奈川県は小田原まで走ってきたあとだったから、ヤレヤレ、と嬉しくなる。
今日の試乗車は「XLR」。デトロイトの巨人ゼネラルモーターズが、前世紀の1999年にコンセプトカー「エボーク」を発表し、4年後に市販モデルを披露した、21世紀キャディラックの2シーターオープンである。先行してリリースされた4ドアセダン「CTS」に続いて、“アート&サイエンス”を謳う直線基調の斬新なデザインを身にまとう。
車体の大きさは、全長×全幅×全高=4520×1850×1290mmだから、メルセデスベンツの「SL」にほぼ等しい。センターコンソールのスイッチを押し続けることで開閉可能なハードトップを、XLRも備える。
造形のモチーフ同様、クルマの開発コンセプトおよびその使命も、ジャンルは異なるけれど、CTSと変わらない。「キャディラック」を、アメリカ内のドメスティックなブランドから、ワールドワイドに通用する高級車に押し上げること。そして、北米国内で、日欧からの輸入車(または日欧ブランドのクルマ)に奪われた顧客を奪還することである。XLRの場合は、特に「ウルトラ・ラクシャリー・ロードスター」セグメントにおけるお客さまを。
日本でのお値段は1150.0万円。SL500より135.0万円安い価格設定が採られた。
XLRのメカニズム
2685mmのロングホイールベースと、短い前後オーバーハングがモダーンなXLR。かつてのホンダ車のような、エンジンフードの低さが印象的だ。
ドア後端に隠されたタッチボタンを押してドライバーズシートに座る。革とウッドパネルがゴウジャスな室内。インストゥルメントパネルはイタリアの宝飾メーカー「ブルガリ」と共同で仕上げたという。260km/hまで印字された速度計を半円に飾る「・BVLGARI・」の文字はご愛敬。
エンジンは、ブレーキペダルを踏みながら、インパネ右端のボタンを押す。ブレーキを踏むのはもちろん不用意な誤作動を防ぐためで……と確認していたら、クルマの横からGMスタッフの方が、「走行中は、絶対にスターターボタンに触らないでください」とおっしゃる。エンジンがカットされるからだという。当然、ブレーキのサーボもキャンセルされるわけで……。製品製造者の責任に厳しい北米製にして、ちょっと考えづらい仕様である。
搭載されるエンジンは、FR(後輪駆動)レイアウト用にリファインされた4.6リッターV8“ノーススター”エンジン。吸排気両バルブに可変タイミング機構を得て、324ps/6400rpmの最高出力と、42.9kgm/4400rpmの最大トルクを発生する。ちなみに、FF(前輪駆動)セビルSTSのそれらは、304psと40.8kgmである。
組み合わされるトランスミッションは、フランスはストラスブルク製の5段AT。リアのデファレンシャル直前に置かれる「トランスアクスル」レイアウトを採用、前後の重量バランスに配慮された。プロペラシャフトは、エンジンとトランスミッションを結ぶアルミチューブのなかを通される。
キャディらしさ
ATシフターを動かして、「オッ」と思った。足踏み式のパーキングブレーキが自動で解除されたからだ。V6“キャディ”たるCTSでは省略された機構である。
海沿いの道を走りながら、「なるほどなァ」とひとり感心していた。
XLRが先進的なのは、見かけにとどまらない。新しいキャディの2シーターは、頑強な内部ストラクチャーに、樹脂またはポリウレタン製の外板を貼ることで形成される。車重は1670kg。
ボディは外観通りソリッドな感じで、しかし乗り心地はいい。XLRの足まわりには、「マグネチックライドコントロール」と名づけられた興味深い可変ダンパーがセットされる。これは、モノチューブのなかに電気粘性流体を詰めたもの。ボディに対する4輪のホイール位置を常時センシングして、4本のダンパーに送る電流を制御、液体の粘性をコントロールすることによって、1秒間に最大100回、減衰力を変化させるという。先端のアクティブサスペンションだ。
パワーステアリングにも磁力を利用している。速度感応式「マグナステア」は、速度に合わせてドーナツ型磁石の磁力を調整する非接触型のシステムでだ。初期の電動パワステに見られた不自然さは、陰をひそめた。
「ABS」「トラクションコントロール」はもちろん、両者を統合したアンチスピンデバイス「スタビリトラック」の進化版も装備する。
XLRに乗ってオモシロイと思ったのが、ハイテックなデザインと先進の技術を満載しながら、ドライブフィールに“キャディラックな”部分を色濃く残していること。大きめのステアリングホイール。軽くスローなステアリングギア。ほどほどのサイドサポートを提供するたっぷりした安楽なシート。力のいらない操作系。余裕のエンジンとスムーズなAT。
リポーターはキャディフリークではないので断言はできないけれど、でも、XLRは、昔からのキャディラックオーナーが、(内心、その姿にギョッとしながらも)ひとたび運転を始めれば、「ああ、キャディラックだ」と納得するんじゃないでしょうか。余談だが、前後サスに、最新コーベット同様、横置きの板バネ(コンポジット製)を使っているのもいいハナシだ。
そんなことを考えながら、雪のハコネをオープンで走っていたワタシはバカでした。あ、環境に左右されにくい安楽さも、キャディラックらしさのひとつですな。
(文=webCGアオキ/写真=清水健太/2004年2月)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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