第20回:『生まれてくるのが早すぎた』ホンダライフ・ステップバン(1972〜74)(その1)
2006.09.13 これっきりですカー第20回:『生まれてくるのが早すぎた』ホンダライフ・ステップバン(1972〜74)(その1)
1972年に新しいタイプの軽商用車として発売された「ホンダライフ・ステップバン」。商業的には成功作とは言いがたかったが、そのコンセプトは今日のミニバンの源流ともいえるものだった。
![]() |
![]() |
■クラブのある軽商用車
新車で販売されていたときはパッとしなかったのに、生産中止になってから人気を博したクルマというのがときおり存在する。今回紹介する「ホンダライフ・ステップバン」は、そうした例の最右翼といえるだろう。
軽自動車規格が360ccだった時代の商用バンであるステップバンが発売されたのは1972年9月で、それから2年と3カ月後の74年末には早くも生産中止。その間の生産台数は2万台に満たなかった。
しかし、それから30年が経とうという今日でも複数のオーナーズクラブが存在し、そのうち最大規模のところの登録メンバーは約150名を数えるというのだ。そもそもワンメイククラブが存在する軽商用車など、ステップバンをおいてほかにはないのだが、この事実からもステップバンの人気ぶりがおわかりいただけるだろう。
ステップバンについて紹介する前に、当時の軽商用車市場について簡単に説明しておくと、ごく大まかにわけて軽乗用車ベースのボンネット型バンとキャブオーバー型のワンボックスバン/トラックがあった。前者はたとえば「スバルR-2バン」や「ホンダライフ・バン」であり、後者は「スバル・サンバー」や「ダイハツ・ハイゼット」「スズキ・キャリイ」などである。すべてのモデルがこのいずれかに属していたわけではないが、そうした例外もまたこれらの延長線上にあったと言っていいだろう。
そんななか、前述したように72年9月に発売されたライフ・ステップバンは、それらのいずれにも属さない新しいタイプの商用車だった。パワートレインやサスペンションなどのメカニカルコンポーネンツは、車名のとおり前年の71年6月にデビューした軽乗用車、ライフからの流用であるが、そのボディはボンネット型でもキャブオーバーでもない、セミキャブオーバー・スタイルの1.5ボックスともいうべきカタチをしていた。わかりやすくいえば、ちょうど今日のミニバンのような姿だったのである。
![]() |
![]() |
![]() |
■画期的だったFFの導入
発表時のプレスリリースの冒頭には、次のような文句が謳われている。
「当社では、この度、まったく新しいタイプの軽商用車〈ホンダライフ〉ステップバンを新発売いたします。ホンダライフのすぐれた駆動力と足まわりを備え、ゆったりとした居住性とかさばる荷物も無理なく積める大きな荷台スペースを確保した近代感覚あふれるスタイルのユニークな車です。〈ホンダライフ〉ステップバンは、実用性のなかにも乗用車的感覚が取り入れられており、乗降頻度の多い集配業務からレジャーまで、大きな機動力を発揮して巾広い用途に応えます。」そして、主な特徴として以下の2点が掲げられていた。
●乗用車なみの快適な乗心地
●積みやすく、乗りやすくアイデアあふれる商用設計
このうち前者の「乗用車なみの快適な乗心地」は、既存のワンボックスバンがトラックベースであるのに対して、前述したように乗車であるライフのコンポーネンツを流用していることからの産物である。ライフの水冷2気筒SOHCエンジンは、日本初となるコッグドベルト、およびバランサー機構の導入により、静粛でスムーズとの定評があった。
駆動方式がFFだったことも、商用車では非常に珍しかった。ライフバンなど軽乗用車ベースのボンネット型バンを除くと、当時の日本で前輪駆動の商用車といえば、同じ年の4月に発売された小型トラック「いすゞエルフ・マイパック」のみ。前例としても、60年代初頭に日野自動車がリリースした小型ワンボックスバン「コンマース」があるだけだった。
乗用車の世界でも、日本はヨーロッパに比べFF化が遅かったこともその理由のひとつではあるが、そもそも商用車は貨物を積載すると前輪荷重が小さくなってしまうため、FFは適していないのだ。その証拠にステップバン以降も今日に至るまで、ワンボックスあるいはそれに準ずるスタイルの商用バンにはFFは採用されていない。
ステップバンの場合は、絶対的なサイズからいってあまり重量物は積まない(最大積載量は2人乗車時300kg、4人乗車時200kg)ことを前提にFFが導入されたのだろうが、おかげで低くフラットなフロアが生まれた。
そのフロアと高いルーフ、開口面積の大きなドアなどによって実現したのが、後者の「積みやすく、乗りやすい」という特徴。また「アイデアあふれる商用設計」とは、車内で伝票処理などが行えるデスクタイプのダッシュボードなどを指しており、総じて非常に機能的な設計がなされていた。(つづく)
(文=田沼 哲/2003年8月30日)

田沼 哲
NAVI(エンスー新聞)でもお馴染みの自動車風俗ライター(エッチな風俗ではない)。 クルマのみならず、昭和30~40年代の映画、音楽にも詳しい。
-
第53回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その4「謎のスプリンター」〜 2006.11.23 トヨタ・スプリンター1200デラックス/1400ハイデラックス(1970-71)■カローラからの独立1970年5月、カローラが初めて迎えたフルモデルチェンジに際して、68年に初代カローラのクーペ版「カローラ・スプリンター」として登場したスプリンターは、新たに「トヨタ・スプリンター」の名を与えられてカローラ・シリーズから独立。同時にカローラ・シリーズにはボディを共有する「カローラ・クーペ」が誕生した。基本的に同じボディとはいえ、カローラ・セダンとほとんど同じおとなしい顔つきのカローラ・クーペに対して、独自のグリルを持つスプリンターは、よりスポーティで若者向けのムードを放っていた。バリエーションは、「カローラ・クーペ」「スプリンター」ともに高性能版の「1200SL」とおとなしい「1200デラックス」の2グレード。エンジンは初代から受け継いだ直4OHV1166ccで、「SL」にはツインキャブを備えて最高出力77ps/6000rpmを発生する3K-B型を搭載。「デラックス」用のシングルキャブユニットはカローラとスプリンターで若干チューンが異なり、カローラ版は68ps/6000rpm(3K型)だが、スプリンター版は圧縮比が高められており73ps/6600rpm(3K-D型)を発生した。また、前輪ブレーキも双方の「SL」と「スプリンター・デラックス」にはディスクが与えられるのに対して、「カローラ・クーペ・デラックス」ではドラムとなっていた。つまり外観同様、中身も「スプリンター」のほうがよりスポーティな味付けとなっていたのである。しかしながら、どういうわけだか「スプリンター1200デラックス」に限って、そのインパネには当時としても時代遅れで地味な印象の、角形(横長)のスピードメーターが鎮座していたのだ。
-
第52回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その3「唯一のハードトップ・レビン」〜 2006.11.15 トヨタ・カローラ・ハードトップ1600レビン(1974-75)■レビンとトレノが別ボディに1974年4月、カローラ/スプリンターはフルモデルチェンジして3代目となった。ボディは2代目よりひとまわり大きくなり、カローラには2/4ドアセダンと2ドアハードトップ、スプリンターには4ドアセダンと2ドアクーペが用意されていた。このうち4ドアセダンは従来どおり、カローラ、スプリンターともに基本的なボディは共通で、グリルやリアエンドなどの意匠を変えて両車の差別化を図っていた。だが「レビン」や「トレノ」を擁する2ドアクーペモデルには、新たに両ブランドで異なるボディが採用されたのである。カローラはセンターピラーのない2ドアハードトップクーペ、スプリンターはピラー付きの2ドアクーペだったのだが、単にピラーの有無ということではなくまったく別のボディであり、インパネなど内装のデザインも異なっていた。しかしシャシーはまったく共通で、「レビン」(型式名TE37)および「トレノ」(同TE47)についていえば、直4DOHC1.6リッターの2T-G/2T-GR(レギュラー仕様)型エンジンはじめパワートレインは先代から踏襲していた。ボディが大型化したこと、および双方とも先代ほど簡素でなくなったこともあって車重はレビン930kg、トレノ925kgと先代より60〜70kg前後重くなった。
-
第51回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その2「狼の皮を被った羊(後編)」〜 2006.11.10 トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■違いはエンブレムのみ1972年3月のレビン/トレノのデビューから半年に満たない同年8月、それらを含めたカローラ/スプリンターシリーズはマイナーチェンジを受けた。さらに翌73年4月にも小規模な変更が施されたが、この際にそれまで同シリーズには存在しなかった、最高出力105ps/6000rpm、最大トルク14.0kgm/4200rpmを発生する直4OHV1.6リッターツインキャブの2T-B型エンジンを積んだモデルが3車種追加された。うち2車種は「1600SL」と「1600SR」で、これらはグレード名から想像されるとおり既存の「1400SL」「1400SR」のエンジン拡大版である。残り1車種には「レビンJ1600/トレノJ1600」という名称が付けられていたが、これらは「レビン/トレノ」のボディに、DOHCの2T-Gに代えてOHVの2T-B型エンジンを搭載したモデルだった。なお、「レビンJ1600/トレノJ1600」の「J」は「Junior(ジュニア)」の略ではないか言われているが、公式には明らかにされていない。トランクリッド上の「Levin」または「Trueno」のエンブレムに追加された「J」の文字を除いては、外から眺めた限りでは「レビン/トレノ」とまったく変わらない「レビンJ/トレノJ」。だがカタログを眺めていくと、エンジンとエンブレムのほかにも「レビン/トレノ」との違いが2点見つかった。
-
第50回:「これっきりモデル」in カローラ・ヒストリー〜その1「狼の皮を被った羊(前編)」〜 2006.11.6 誕生40周年を迎えた2006年10月に、10代目に進化したトヨタ・カローラ。それを記念した特別編として、今回は往年のカローラおよびその兄弟車だったスプリンター・シリーズに存在した「これっきりモデル」について紹介しよう。かなりマニアックな、「重箱の隅」的な話題と思われるので、読まれる際は覚悟のほどを……。トヨタ・カローラ・レビンJ1600/スプリンター・トレノJ1600(1973-74)■スパルタンな走りのモデル型式名TE27から、通称「27(ニイナナ)レビン/トレノ」と呼ばれる、初代「カローラ・レビン1600/スプリンター・トレノ1600」。英語で稲妻を意味する「LEVIN」、いっぽう「TRUENO」はスペイン語で雷鳴と、パンチの効いた車名を冠した両車は、2代目カローラ/スプリンター・クーペのコンパクトなボディに、セリカ/カリーナ1600GT用の1.6リッターDOHCエンジンをブチ込み、オーバーフェンダーで武装した硬派のモデルとして、1972年の登場から30余年を経た今なお、愛好家の熱い支持を受けている。「日本の絶版名車」のような企画に必ずといっていいほど登場する「27レビン/トレノ」のベースとなったのは、それらが誕生する以前のカローラ/スプリンターシリーズの最強モデルだった「クーペ1400SR」。SRとは「スポーツ&ラリー」の略で、カローラ/スプリンター・クーペのボディに、ツインキャブを装着して最高出力95ps/6000rpm、最大トルク12.3kgm/4000rpmを発生する直4OHV1407ccエンジンを搭載したスポーティグレードだった。ちなみにカローラ/スプリンター・クーペには、1400SRと同じエンジンを搭載した「1400SL」というモデルも存在していた。「SL」は「スポーツ&ラクシュリー」の略なのだが、このSLに比べるとSRは装備が簡素で、より硬い足まわりを持った、スパルタンな走り重視のモデルだったのである。
-
第49回:『唯一無二』日野コンマース(1960-62)(その4) 2006.9.13 新しいコンセプトのトランスポーターとして、1960年2月に発売された日野コンマース。だがそのセールスははかばかしくなかった。
-
NEW
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。 -
航続距離は702km! 新型「日産リーフ」はBYDやテスラに追いついたと言えるのか?
2025.10.10デイリーコラム満を持して登場した新型「日産リーフ」。3代目となるこの電気自動車(BEV)は、BYDやテスラに追いつき、追い越す存在となったと言えるのか? 電費や航続距離といった性能や、投入されている技術を参考に、競争厳しいBEVマーケットでの新型リーフの競争力を考えた。 -
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】
2025.10.10試乗記今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。 -
新型「ホンダ・プレリュード」の半額以下で楽しめる2ドアクーペ5選
2025.10.9デイリーコラム24年ぶりに登場した新型「ホンダ・プレリュード」に興味はあるが、さすがに600万円を超える新車価格とくれば、おいそれと手は出せない。そこで注目したいのがプレリュードの半額で楽しめる中古車。手ごろな2ドアクーペを5モデル紹介する。 -
BMW M2(前編)
2025.10.9谷口信輝の新車試乗縦置きの6気筒エンジンに、FRの駆動方式。運転好きならグッとくる高性能クーペ「BMW M2」にさらなる改良が加えられた。その走りを、レーシングドライバー谷口信輝はどう評価するのか? -
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】
2025.10.9試乗記24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。