フォード・フォーカスST (FF/6MT)【ブリーフテスト】
フォード・フォーカスST (FF/6MT) 2006.07.01 試乗記 ……325.0万円 総合評価……★★★★ レースカーを手がける「フォード・チームRS」が作り上げた、フォーカスのハイパフォーマンス版「フォーカスST」。見た目の派手さと“スポーツ”から想像されるモノと、乗った印象は大きく違うらしい。快適ハイパフォーマー
モータースポーツなどにも関わる「フォード・チームRS」が仕立て上げたクルマということで、走らせるまでは気構えていた。
そもそも、見るからにヤル気満々である。WRカーばりのフロントグリルや大きく口を開けたロワーグリル。リアからの眺めもまた雄々しく、リアスポイラーや2本出しのエギゾーストパイプ、そして、低く構えたフォルムが実にスポーティである。
しかし、実際に運転してみると、想像とはずいぶん印象が違っていた。“スポーツ”の名のもとに、我慢を強いられるクルマは世の中にたくさん存在するが、このフォーカスSTは正反対。これほど快適に、これほど簡単にスポーツモデルが扱えていいのだろうか、と唸ってしまうほど、洗練されたクルマだったのである。
その仕上がりの高さ、バランスの良さには感服! そのうえ価格は十分リーズナブル。「ゴルフGTI」と真っ向勝負できる、いまイチオシのホットハッチといって間違いない。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1998年にエスコートに代わるフォードのCセグメントカーとして登場。ニュー・エッジを標榜した先進的なスタイリングと、何よりもドライバーズカーとしての純粋な走りを追求したことによって、それまでのフォードのイメージを大きく変える世界的なヒットとなったのがフォーカス。この初代は6年の間に世界中で約400万台が売れた。日本でも2000年から5年間で累積約1万台が販売されたという。
今回のモデルは1年前のパリサロンでデビューした2代目。このクラスで無敵といわれたハンドリング能力をさらに高めるべく、タイヤのフットプリントをより広げ、さらなるスタビリティと敏捷さ、そして乗り心地と剛性の向上を図った。結果として前身よりもホイールベースは25mm延ばされ、トレッドは前50mm、後ろ55mm拡大された結果、「ボルボS40/V50」「マツダ・アクセラ」と同系のプラットフォームはかなり巨大化する。特に全幅は1840mmと、二周りも広がったが、メーカーによれば両側のミラーまで計算すれば、旧型よりも7mmだけ狭くなったのだという。
“素”のフォーカスが積むエンジンは、モンデオと同系のデュラテック2リッター直4と1.6リッターで、トランスミッションは4ATのみ。
2006年6月1日から、2.5リッター直5ターボを搭載するハイパフォーマンス版「フォーカスST」が追加された。
(グレード概要)
フォードのSTシリーズは、モータースポーツなどにも関わるフォード・チームRSがエンジンや足まわりなどをチューニングしたハイパフォーマンスモデル。フォーカスのみならず、「フィエスタ」「モンデオ」にも設定される。
フォーカスSTのエンジンは、2.5リッター直列5気筒にターボチャージャーを装着したもので、最高出力 225ps/6000rpm、最大トルクは32.6kgm/1600-4000rpmを発生する。NAの2リッター直4を搭載した先代「フォーカスST170」に較べて、52psと12.7kgmもアップした。トランスミッションは6MTが組み合わされる。
ノーマルとの違いは中身だけでなく、外観や内装もスポーティ。エクステリアは、メッシュグリルや、開口部の大きいエアダムを持つスポイラー付きバンパー、リア専用ルーフスポイラーなどを装着し、STならではの見た目をつくりだす。インテリアは、バケットタイプのフロントシート、アルミ製ペダルや、ダッシュボード中央の油温やブースト圧などを表示する「インストルメント・ポッド」が備わる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
運転席から眺めると、ダッシュ中央に配置される「インストルメント・ポッド」 がまず目に入る。庇の下には左から油温計、ブースト計、油圧計が配置されるが、そのデザインに野蛮さはなく、インストゥルメントパネルのデザインにうまく溶け込んでいるのが好ましい。エアアウトレットやシフトレバーまわりなどにあしらわれたアルミ調の装飾も、スポーティな雰囲気を上品に盛り上げていた。
センターパネルに収まるSONY製オーディオも美しいが、それだけにSONYがカーオーディオ部門から撤退したのは個人的にとても残念。
(前席)……★★★★
フォーカスSTに用意されるボディカラーは「エレクトリックオレンジ」と「パフォーマンスブルー」の2色で、今回試乗したのは前者。その鮮やかなオレンジはシートやフロアカーペットのアクセントにも受け継がれ、グレーを基調とするインテリアに彩りを与えている。
シートは色だけでなくデザインも派手なレカロ製のスポーツタイプ。サイドサポートはそれなりに張り出しているが窮屈さはなく、それでいてドライバーの体を包み込むように支えてくれるのがうれしい。
(後席)……★★★
ドアが長く、また、ウォークインの際の前席のスライド量も大きいので、3ドアにしては後席のアクセスは良好である。後席に収まると、大柄のフロントスポーツシートが視界を遮るため、圧迫感を覚えないこともない。しかし、スペースは十分確保されていて、レッグルーム、ヘッドルームともに大人でも余裕がある。また、着座位置からリアウインドーまでの距離も十分で、外見とは裏腹に窮屈さは感じられない。
(荷室)……★★
リアウィンドウを寝かせたデザインがスポーティなイメージを強めているフォーカスだが、そのしわ寄せは荷室に反映された。ルーフを延ばした形状に比べて、スペースが不足するのはいうまでもないが、リアパーセルシェルフの位置が低く、さらに、フロアが上げ底気味とあって、荷室の高さが足りないのだ。リアシートを倒せば荷室を延長することができるが、荷室からリアシートにかけてフロアが一段下がりフラットにならないのも、使い勝手のうえからはマイナスである。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
フォーカスSTに搭載されるエンジンは、2521ccの直列5気筒ターボ。これは、同じグループのボルボのエンジンをベースとしたもので、低速から豊かなトルクを絞り出すのが特徴である。軽いクラッチをつなげば、アイドリングを上回ったあたりから余裕のトルクを発生。たとえば、4速、40km/hで回転計は1700rpmを指すが、ここからでもエンジンはアクセル操作に応えてくれるし、2000rpmを超えればアクセルペダルを大きく踏み込むだけで十分な加速が得られた。シフトダウンの必要はないくらいで、ズボラな運転にも対応してくれる。
そんな一面からもわかるように、このエンジンのトルク特性はほぼフラットで、ある意味面白みに欠けるが、誰にでも扱いやすく躾けられているから、その安楽さ、間口の広さが魅力なのかもしれない。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
フォード・チームRSが鍛えたサスペンションだけにハードな乗り心地を覚悟していたが、実際は拍子抜けするほど快適だった。とくに一般道を低速で走るような状況では、多少路面が荒れていてもそれを上手に遮断し、また、225/40R18サイズのタイヤを装着するにもかかわらず、バネ下重を意識することはなかった。
一方、スピードが上がると乗り心地はやや硬めに変化する。それでも不快さとは無縁で、ハーシュの遮断も良好。フラットな姿勢を維持するところも好感が持てる。
試乗当日はあいにくの豪雨に見舞われ、ワインディングロードを楽しむことはできなかったが、ウエットコンディションでもハンドリングの軽快さを十分垣間見ることができた。
(写真=峰昌宏)
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【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2006年6月9日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2006年型
テスト車の走行距離:3466km
タイヤ:(前)225/40R18(後)同じ(いずれもContinental Conti Champion Contact)
オプション装備:ボディカラーエレクトリックオレンジ(5.0万円)
形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(4):山岳路(4)
テスト距離:374.4km
使用燃料:54.8リッター
参考燃費:6.8km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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