BMW540i(FR/6AT)【試乗記】
マニアックな期待を抱かずに 2006.01.21 試乗記 BMW540i(FR/6AT) ……925万7000万円 BMWのアッパーミディアムサルーン「5シリーズ」に新しいV8エンジンを搭載したモデルがラインナップされた。4リッター版の「540i」に試乗する。
![]() |
![]() |
楽しみよりも安全性
丸い卵も切りようで四角、このクルマの評価はユーザーの受け取り方で大きく分かれる。そこを文字で表現するのは難しい。
少し前のBMWは、玄人受けする個性的なクルマとして認知されてきた。たとえばFRゆえの、駆動力を伴わない操舵フィールを自然なものとして大切にしてきた。ゆえにタイヤトレッド面の接地中心と回転中心の距離(スクラブ半径)などもミリ単位で微細に設定。直進性を得るためにつけるキャスター角もニューマチックトレール(タイヤ接地点とタイヤ横力の着力中心とのずれ)などを勘案して、接地点との距離をあけ過ぎないようにオフセットするなど神経を使った設定になっている。よってそれを操る時には繊細な感覚をもってすれば、絶妙な路面フィールを楽しめたものだ。
ところがブランドそのものがメジャーになり、そうした繊細さを求めないユーザーが増えたために、車高を下げてみたり太いタイヤを履いてみたりでそれらを台無しにしてしまった。メーカー自身も悪のりしてユーザーに媚びるようになり、その傾向がこの「540i」にも散見される。
電子制御のパワーステアリングはその最たるものだ。フルロック2回転以下のクイックなレシオは、据え切りを始めとして低速でよく切れ、高速ではさぞかしと期待させる。しかし高速では危なくないようにレスポンスを鈍くしてある。変化する作動自体スムーズでそれと知るのは難しいほどだから技術的には称賛に値する。実によくできている。
しかしドライバーにとっては、自分で入力を加減する必要が無くなってしまった。極端にいえばどう操作を調整したところで出力は同じだ。この場合には楽しみよりも安全性が優先される。
なにも考えずに乗るのがいい
シャシーもよくチューンされており、破綻をきたす以前に去勢されてしまう、といっても限界はけして低くはなく多くの場合ドライバーの腕の範囲を超える。
シートの補助機構として、横Gに対してサイドサポートを強める装置を追加してあるのがその証拠だ。この装置自体は発生Gに対してやや遅れがあるものの、有効な装置として常時スイッチオンにして試乗した。
操縦特性としては、旋回中心をずーっと後方に移して前だけよく動かして見かけ上の操舵レスポンスを上げている。つまりFF的な特性にしてしまった。安全ではある。
よって、このクルマの恩恵にもっとも浴するのはマニアではなく、なにも考えずに乗る一般市民的におおらかな人かもしれない。あそこがああなっているから、こういう結果なのかとか、機構の設定のうちここをもう少し……なんて考えてはいけない。余計なことを考えずにすべてをクルマに委ねるのが正解である。皮肉を言うわけではないが、無頓着で鈍感なユーザーほどこのクルマの素晴らしさを理解できるだろう。反面、自分なりの自由度を求めるドライバーにとっては拱手傍観するしかなく、レールで規制されたコースをたどる、電車の運転手になった気分に満足できる人は少ないと思われる。
快速で快適な4ドアセダン
この540iは、マニアックな期待を抱かずに、単なるドイツ製高性能高級実用車という観点からみて、快速で快適な4ドアセダンとして良質な造りに素直に満足すればいい。1800kgの車両重量はやや重めながら、V8エンジンは4リッターの排気量にモノをいわせて、豪快な動力性能を味わえる。6ATのマニュアルシフトもG感覚を重視して、前に倒してマイナス、後ろに引いてプラスと、他の多くのATとは違うけれども、慣れればこれこそ自然な感覚と納得するはずだ。スロットルペダルに右足をのせたまま、左足でブレーキを踏んでもエンジンがストールすることなく、自然な感覚のまま制動能力に安心感を持てる点もよい。
ランフラットタイヤによる乗り心地も、他の同サイズのタイヤとそれほど変わらないレベルにあり、バーストしてタイヤ交換をする難儀から解放される、気分的な安心感はこのクラスのユーザーにとって重畳の至りだ。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏(M)、清水健太(S)/2006年1月)

笹目 二朗
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。