ホンダ・レジェンド(4WD/5AT)【試乗記】
「軽快な高級車」は可能か 2005.03.19 試乗記 ホンダ・レジェンド(4WD/5AT) ……627万9000円 「ホンダ・レジェンド」は四輪駆動力制御システムの「SH-AWD」を採用し、「鮮烈な走り」を謳っている。明確に「ドライバーズ・サルーン」を狙って開発された「ホンダの考える高級車」に『NAVI』編集委員鈴木真人が試乗した。クルマの中の小人
「レジェンド」には、北海道は鷹栖のホンダ・プルービングセンターで発売前に乗る機会があった。当然、プロトタイプである。四輪駆動力制御システムたる「SH-AWD」の威力を見せつけようと、サーキットでの試乗を企画したわけだ。会場には先代のレジェンドも用意されていて、乗り比べてみるとまったく別物であることがわかった。とりあえずラインナップにあげてあるだけ、という状態が長く続いていたレジェンドだったが、今作では、ホンダが本気で取り組んでいることが伝わってきた。
クローズドコースでは、文句なしの速さを感じることができた。なにしろ、何も起こらない。コーナーが近づいたらブレーキを踏んでハンドルを切ると、きれいに弧を描いて曲がっていく。それは前後が30から70、後輪左右が100から0まで無段階に駆動力の配分を変えていくSH-AWDの恩恵であるわけだが、運転していてそんなことはまるでわからない。クルマの中に小人が隠れていて、勝手に動かしてくれている、という感じ。
イージーにハイスピードを得られるという点ではただただ感心するばかりだったが、別な感想を漏らす人もいた。いささか腕に自信があるという向きにとっては、知らないうちに制御されているという感覚があまり心地よいものに感じられなかったりもしたようだ。しかし、レジェンドはあくまでも最上級セダンであり、ホンダの考える高級車なのだ。ドライバーに感知されぬまま制御を行って、安全にハイスピードを実現するのは正しい態度だといわねばならない。
ちょっとワルな印象
そう、レジェンドは高級車なのだった。サーキットで乗っていると、ついうっかり忘れてしまう。コーナリングでGを出すことが価値ではない。「自主規制」280馬力を超える最初のクルマ、という売り文句ではあったが、ハイパワーの使い方はスポーツカーと高級セダンでは自ずから異なっている。今回ようやく公道を走ってみて、その真価を考えてみた。
改めて街の中に置いて見ると、相当にアクの強いルックスである。「オデッセイ」あたりから、ホンダは意識的にちょっとワルな印象を与える外観を演出しているが、フラッグシップたるレジェンドでもそれを踏襲している。都会をターゲットにしているはずだけれど、この顔つきはむしろ郊外で高く評価されるかもしれない。
輸入車国産車を問わず、高級セダンはおしなべて「スポーティ」を標榜しているが、レジェンドは少々趣を異にしている。サーキットでなくても、ガタイの大きいセダンであることを忘れてしまう。走り出してすぐに感じるのは、ボディの軽さ、動きの軽快さだ。車重は1760kgだから、実際には堂々たる重量だ。しかし、運転していると、せいぜい1200kgくらいのクルマに思えてしまう。高速道路に乗っても、印象は変わらない。小気味よい快音の盛り上がりにつれてみるみるスピードが上がり、ひらりひらりと車線変更をこなす。だんだん気持ちが若返ってくるような走りである。
「運転して楽しい」は美点だけれど……
運転していて、楽しい。これは美点に違いないのだが、またしてもレジェンドが高級車であり、上級セダンであることを忘れていた。「クラウン」と比べれば、自分ならこっちを選ぶよなあ、と思ったが、僕のような人間はこのセグメントの顧客ではない。クラウンに乗り続けてきた人からすれば、僕が「快音」と思ったのは「騒音」なのだろうし、「軽快さ」は「落ち着きのなさ」に感じられるはずだ。今の新しいクラウンも走りの良さを訴えているけれど、それはしっかりと今までの「クラウン的高級」を押さえた上での話なのだ。
運転席に座った時の風景も、あまりうれしくない。メタリックなパネルの質感はあまり高くはないし、せっかくの本木目パネルも妙に浮き上がって見える。「スポーティ」というコンセプトを押し付けられているようで、上質な空間を提供されているという感覚は湧いてこないのだ。どうも独りよがりなのである。とても意欲的なのはわかるんだけど、どうもピンとこない。ということは、受け取る側の問題であるのかもしれない。
だから、レジェンドはこれでいいのだ、と思う。どちらかというと中途半端な印象のあった先代レジェンドだったが、新型には強い主張が込められている。ポリシーを持ってやっていれば、そのうちにまた真似されるようになるかもしれない。まあ、売れるようにならなければ真似はされないわけだけれど。
(文=NAVI鈴木真人/写真=高橋信宏/2005年1月)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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