BMW 530d (6AT)【試乗記】
「d」はダイナミックの「d」 2004.08.23 試乗記 BMW 530d (6AT) 欧州では高い人気を誇るディーゼル車。その魅力を知ってもらおうと、ディーゼルエンジン燃料噴射装置の大手サプライヤー、ボッシュが日本にテストカーを持ち込んだ。「BMW 530d」に、自動車ジャーナリストの生方聡が試乗した。
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ヨーロッパの人がうらやましい
クルマ買うならディーゼル……といっても、バスやトラックではない。乗用車のハナシである。残念ながら現時点では「ヨーロッパに住んでいたら……」という注釈がつくが、近い将来、それが日本でも現実になるかもしれないのだ。
海外メーカーの試乗会でヨーロッパを訪れると、日本導入予定のガソリン仕様だけでなく、たいていディーゼル仕様車に乗るチャンスがある。そのたび、デキのよさに感心させられるし、いずれかを選べるなら、正直ディーゼルがほしいと思う。同時に、ガソリンよりも、部分的にはスポーティですらあるディーゼルが、日本に導入されないのが悔しくてならない。ホント、ヨーロッパの人がうらやましいですよ!
最大トルク51.0kgm!
そんな魅力あるディーゼルモデルを日本で体験してもらおうと、ボッシュ・オートモーティブ・システムが輸入した1台が「BMW 530d」である。ボッシュといえば、「コモンレール」燃料噴射システムといったディーゼルエンジンの重要部品をはじめ、クルマに必要な数多くのパーツを供給する会社。それゆえ、ディーゼルエンジンのプロモーションにも積極的なのだ。
さて、この「BMW 530d」だが、その名のとおり、2993ccの直列6気筒ディーゼルターボエンジンを搭載する5シリーズだ。注目はエンジンのスペックで、最大トルクは、な、なんと51.0kgm(500Nm!)。しかも2000rpmでピークを迎えるという、とても頼もしいパワーユニットなのである。ちなみに最大トルク51.0kgmというと、BMWのガソリンエンジンのなかでは「X5」に積まれる4.8リッターV8(360ps/6200rpm、51.0kgm/3600rpm)がようやく到達する数値。乱暴な言い方かもしれないが、ターボディーゼルは、排気量で6割増し、シリンダー数で2本分、余裕がある計算になる。
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レブカウンターを書き換えたい
しかし、数字に驚いている場合ではなかった。実際のパフォーマンスもダイナミックの一言につきる。
スターターを回してアイドリングを始めたターボディーゼルエンジンは、いまどきのガソリンエンジンと直接比べるとノイズや振動は大きいが、十分許せる範囲に収まっている。一部の欧州車に見られる、“ちょっとうるさい電動ファン”くらいの存在なのだ。
走り出しは力強く、スムーズ。アクセルペダルを軽く踏み込むだけで、約1.7トンのボディは軽々と加速していく。街なかでも高速道路でも、巡航するような場面ではエンジン回転数は2000rpmを超えることはほとんどない。そこでアクセルペダルをちょっと踏み増すと、回転がすっと上がって必要な加速が得られるから、体感上もV8に乗っているような印象だ。
かといって、実用一点張りのエンジンでないのがうれしいところ。アクセルペダルをガバッと踏めば、おもわず「ウォーッ!」と叫びたくなるほど、スピードメーターはみるみる針を進めていく。レブリミットは4500rpmだが、最大トルクを発生する2000rpmを超えても、レッドゾーンまでその力強さが衰えないのも凄い。
高速道路を100km/hで巡航する際の回転数はわずか1400rpm。この速度域になるとロードノイズがエンジン音を上まわるから、ディーゼルの不利な部分は消えてしまう。それどころか、エンジンに余力があり、追い越し加速も楽勝。スピード域の高いドイツなどで人気が高いのも理解できる。
ふと思ったのは、目の前にあるレブカウンターにちょっと手を加えたら、スポーティな雰囲気に浸れるのではないかということ。ふつうレブカウンターには一桁の数字が刻まれ、これを1000倍したのが回転数になるが、この文字盤の数字を2倍にし、そのかわりに倍率を500にしたら、レブカウンターの動きとクルマの加速感が今まで以上にしっくりくるのではないか……。それほど活発なエンジンなのである。
燃費もGood!
ところで、ディーゼルエンジンで忘れてならないのが燃費の話題だ。今回は混雑した都内、高速道路や山道など、あわせて327.2kmを走り、使用した軽油が32.1リッター。計算すると10.2km/リッターの低燃費である。しかも、借り出した状態で燃料計の針が満タンを指していなかったので、実際にはもっと燃費はよかったはずだ。4リッター超級V8並みの動力性能を見せながら、この低燃費はご立派! CO2の排出量が少ないだけでなく、財布の減りも抑えられるというわけだ。
燃料噴射技術やエンジン制御の進化、燃料の低硫黄化などにより、ディーゼルエンジンの排ガスは以前よりはるかにクリーンになっている。さらに、高い快適性や動力性能も備える最新のディーゼルエンジン。日本でも先入観を捨てて、もう一度見直すときが近づいていると思う。
(文=生方聡/写真=高橋信宏/2004年8月)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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