トヨタ・クラウンマジェスタAタイプ/Cタイプ(6AT/6AT)【短評(後編)】
贅沢で野心的(後編) 2004.08.01 試乗記 トヨタ・クラウンマジェスタAタイプ/Cタイプ(6AT/6AT) ……647万4300円/677万8800円 ニュー「クラウンマジェスタ」のプレス試乗会に参加した『webCG』コンテンツエディターのアオキ。「走り出し100m」の性能に感心し、新機構をテストして……。セルシオとの比較
新しい「トヨタ・クラウンマジェスタ」の、木目調ならぬ本木目を奢ったステアリングホイールを握っている。静粛性高く、スムーズな走り。「セルシオに優るとも劣らない」と感心しながら、思い出し笑い。
試乗に先立って、新型マジェスタをセルシオと比較したお話をうかがっていたときだ。エンジニアの方は、「セルシオ」の乗り心地について、「ちょっと硬すぎ。やりすぎじゃないか」と正直な感想を述べられてから、「クラウン組は、独自のノウハウを持っています」と、国内専用モデル開発チームの矜持をみせた。クラウン組、ですか。
聞けば、同じ高級セダン開発部隊とはいえ、セルシオ組とクラウン組の交流はほとんどないという。
「“会社”といった視点から見た場合、どうせ同じパワートレインを使うなら、同じシャシーを使って、違う上屋を載せた方が効率的だと思いますが」と質問すると、「将来的にはわかりませんが……」との答え。
「今回、セルシオのシャシーを切って(ホイールベースを短くして)使うという発想はありませんでしたか?」となおも聞くと、「古いサスペンションを使っても意味がありませんから」とにべもない。そりゃそうだ。現行セルシオのデビューは2000年。進歩の急なクルマの世界では、一世代前といえる。さらに、「年々、要求が厳しくなる安全性能を確保するためには、白紙から開発する必要があった」との説明を受けた。
クラウン組とセルシオ組。各チームが切磋琢磨しつつ、コスト面での配慮も忘れない。組織の歯車がうまく回っていることを感じさせるエピソードだ。
音をつくる
91.0×82.5mmのボア×ストロークをもつ4.3リッターV8は、最高出力280ps/5600rpm、最大トルク43.8kgm/3400rpmと、スペックはセルシオと変わらない。組み合わされるトランスミッション、6ATのギア比も同じ。
それで車重はセルシオより150kg以上軽い1690kg(Cタイプ。タイプAは1670kg)だから、動力性能は十二分。ガスペダルを踏み込むと、控え目ながらエンジン音がキャビンに届いて、ボディが加速する。
MJこと4代目マジェスタは、「音をつくった」初めてのマジェスタなのだそう。“ゼロ”クラウンと同じベクトルで開発された上級クラウンは、ドライバーの感覚面でも、“スポーティ”に一歩足を踏み出した。
おもしろいのは、せっかくチューニングしたノートを、侵入させないこともできること。「ウルサイと思われるお客さまの場合、おクルマを工場にお持ちいただければ、ある部品によって無音に戻せます」との言葉がエンジニアのヒトの口から出たときには、冗談かと思って顔を見直した。もう一度、確認した。さすがは「石橋を叩いても渡らない」(!?)トヨタのトップモデルである。
スポーティ&ハイテック
音だけでなく、“走り”もグッとスポーティにふられた。セミアクティブな電子制御エアサスペンションは、車高を一定に保つ「オートレベリング機能」を持つほか、硬軟、2種類の硬さを設定できる。「スポーツ」を選択すれば−−マジェスタにふさわしいかはともかく−−峠でタイヤを鳴らして走ることも可能。以前だったら、たちまちVSCが介入して、エンジンパワーが落とされ、ブレーキがかけられ、速度が殺されているところだ。
オーナーの保守的な嗜好に配慮する一方、クラウンマジェスタは、積極的に新しい技術を取り込んでもいる。たとえば、こんな機構がオプションで用意される。
(1)グリルの後ろに設置されたレーダーによって衝突の危険性を判断。ブザーで警告し、いざとなるとブレーキをかけ、シートベルトを巻き取る「プリクラッシュセーフティシステム」。
(2)挙動が乱れた場合、各輪のブレーキを個別に制御してクルマを落ち着かせる「VSC」、発進時の安定性に貢献する「TRC」、断続的にブレーキをかける「ABS」、それに電動パワーステアリングを加えて統合制御する「VDIM」(Vehicle Dynamics Integrated Management)。
(3)渋滞時のドライバーの負担を軽減する「レーダークルーズコントロール(低速追従モード付き)」。これは、30km/h以下で走行中、前車との間隔を保つよう、アクセルとブレーキをコントロールする仕組み。
新しいクラウンマジェスタは、ハイテックを駆使して、真正面から“スポーティ”と“安楽”を両立させようとしている。ずいぶん贅沢で野心的なクルマだ。特設コースで、VDIMと低速追従モードを体験しながら、右手と左手それぞれで「ウサギの耳を握っている」の図を想像した。まだ片耳だけだけれど、でも、しっかりと。
(文=webCGアオキ/写真=郡大二郎/2004年8月)
トヨタ・クラウンマジェスタAタイプ(6AT)/Cタイプ(6AT)【短評(前編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000015554.html

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。