ルノー・メガーヌ2.0 プレミアム(4AT)【試乗記】
新しい時代のフランス車 2004.02.06 試乗記 ルノー・メガーヌ2.0 プレミアム(4AT) ……278.0万円 量販モデルにもかかわらず、「退屈へのレジスタンス」をキーワードにアヴァンギャルドなデザインで登場した新しい「ルノー・メガーヌ」。2リッターの上級グレード「2.0 プレミアム」に、自動車ジャーナリストの金子浩久が乗った。見るだけで楽しくなる
2002年の秋口以来、ヨーロッパでルノーの新メガーヌを見つけると、追いかけて行って後ろについて走るようにしている。
メガーヌの後姿は、見ているだけで楽しくなってしまう。下半分をプクッと突き出した特徴的なトランク部分の造形も、たしかに個性的だが、僕はそのすぐ上に張り付けられている“MEGANE”というエンブレムの書体が好きなのだ。アルファベットの明朝体とでもいうのだろうか、細い縦横線にハッキリと張り出した端っ子が清々しくて、メガーヌのそこにばかり眼が行ってしまう。こんな書体を使ったクルマは、ほかに知らない。
まぁ、それはさておき、メガーヌは昨年ヨーロッパで発売が開始されてから、たった10ヶ月間で33万台も販売したルノーの中心車種だ。「フォルクスワーゲン・ゴルフ」や「フォード・フォーカス」「プジョー307」などをライバルとする、Cセグメントと呼ばれるクラスに属する。
今回、日本に導入されるのは5ドアハッチバックだけだが、ヨーロッパには同じボディで3ドアが存在し、それ以外にもワゴン、ガラスルーフを持ったクーペカブリオレ、3ボックスセダン、旧型にもあった背の高いボディの「セニック」、ホイールベースとリアオーバーハングを延ばした「グランドセニック」など、バリエーションが非常に豊富なのが特徴だ。特徴といえば、見ての通りのエクステリアの造形が、メガーヌを見て最初の“一大特徴”と、誰もが感じることだろう。
Cピラーまでは“真っ当”
ボディ前半部分と側面では驚かされないが、後姿にはビックリさせられる。リアウインドガラスはスパッと垂直に切り落とされ、その下にモッコリとトランク部分が突き出している。大昔の「フォード・アングリア」や、「マツダ・キャロル」などの“クリフカット”ほどではないが、斜め後ろから見るとリアガラスが反り返っているように見える。非常にユニークで、一度でも見た人は忘れることはないだろう。でも、真横からよく見ると、ヘンなのはテールゲートだけで、Cピラーまでは“真っ当”なカタチであることがわかる。造形のマジックだ。
ただ、この造形もパトリック・ルケマン率いるルノーのデザイン部門の気紛れではなく、「ヴェルサティス」として発表してきたものの延長線上にある。先頃惜しまれつつ生産を終了した“ミニバンのようなクーペ”「アヴァンタイム」などと共通のモチーフを持つ。最新のルノーを表現するコーポレートイメージが込められているのだ。その造形イメージを表して、ルケマンは「退屈へのレジスタンス」と呼ぶ。
日本に導入されるのは、5ドアが3グレード。1.6リッターと2.0、そして上級2.0プレミアムで、すべて4気筒エンジンと4段AT仕様だ。プレミアムのみ、17インチアルミホイールとキセノンヘッドランプ、シートヒーター付き革フロントシートを標準装備する。
2リッターに遅れて、2004年2月初旬からの発売となる1.6リッターに、大いに興味をそそられたが、試乗したのは2.0プレミアム。革シートのかけ心地と、17インチホイールのフットワークが吉と出るか凶と出るか?
ルノーらしさは健在
走り出す前に気づいたことを記しておくと、「タッチデザイン」というデザインコンセプトでつくられた、インテリアの造形センスが気持ちいい。重苦しくなく、何にも囚われていないようでいながら、オーディオや空調などに自分流が織り込まれている。見ただけで機能がわかる、ルケマン副社長いうところの「タッチデザイン」が採用されたのだ。淡い色遣いやアッサリとした造形などにも、新しい時代のフランス車っぽさが感じられた。
箱根ターンパイクを上り、湯河原パークウェイを下りてくるという1時間余りの試乗ルートで感じたのは、ルノーらしいソフトな乗り心地が健在なことだ。自然で運転しやすいドライビングポジションと、大ぶりで快適なかけ心地のシートなどが、まさにそれ。コーナリング時のロールは小さくないが、ロールスピードの変化が自然なので、運転感覚がナチュラルで楽しい。ボディを右に左に傾かせながら、ファミリーカーなのにけっこうなペースで山道を駆け抜ける素質を秘めている。
フランス車の美点を残す
一方、すこし物足りなく感じたのは、2リッターエンジンのトルクが細いこと。ターンパイクの急な上り坂では、マニュアルモードを使ってシフトダウンしなければならないことが多々あった。現代の前輪駆動車としてトルクステアは明らかに大きいが、負担に感じることがないのは、太すぎないトルクのせいもあるだろう。17インチホイールは、高速域では安定性に寄与するが、低速域では上下動のドタバタが強く感じられた。
さらに、2625mmという長いホイールベースを採ったにもかかわらず、その中心にドライバーを据えたパッケージングにより、後席の膝前スペースはミニマムだ。十分な頭上スペースと同じくらいあれば、室内空間はパーフェクトだったのに……。
退屈に抵抗したおかげで、ラゲッジスペースも少々犠牲になった。積載容量自体は、VDA式計測で330リッターと、ゴルフIVと1リッターも変わらない。とはいえ、ハッチゲートを開けた際、直立したリアウインドウガラスが張り出して、トランクルームが使いにくい形になっている。大きな荷物は積みにくいのではないだろうか。後席をダブルフォールディング式で畳めば、広大なトランクスペースが出現するから大丈夫か……。
2004年には、Cセグメントの横綱「VWゴルフV」が上陸するので、メガーヌにも4つの取り組みが求められる。日本はいま、ミニバン万歳時代だから、Cセグメント内での激しい競争はないが、走りっぷりや燃費、多用途性などを考えれば、いつユーザーが戻ってきても不思議はない。
そうなったとき、伝統的なフランス車の美点を残した、走りの快適性と心地よいインテリア、個性的なエクステリアなどが、メガーヌのアドバンテージとなるだろう。奇をてらったように見えるかもしれないが、実は、クルマと人間の関係の本質を深いところで掴んでいる1台だと思う。日本のユーザーがどう反応するか、かつて数台のフランス車に乗ってきた僕も、楽しみにしている。
(文=金子浩久/写真=荒川正幸/2003年12月)

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