トヨタ・プリウス(CVT)【海外試乗記】
進化は確実 2003.08.21 試乗記 トヨタ・プリウス(CVT) ハイブリッドカーの先駆者「プリウス」がフルモデルチェンジを果たした。北米市場を視野に入れ、ボディサイズを拡大。ハッチバックとなった新型を、自動車ジャーナリストの河村康彦がロサンジェルスでテストした。プリウスよ、お前もか
今度の「プリウス」は大きくなった。ボディの形態もセダンから、5ドアハッチへ大変身。デザインとパッケージングが大きく変化した主たる理由は、どうやらアメリカにあるようだ。
「初代プリウスをアメリカ市場に持ち込むと、あまりに小さく“ひ弱”に見える不満があった」というのがトヨタの弁。
嗚呼、プリウスよ、お前もか……。
しかし、全長を135mm延長、全幅も30mm広げられ、“3ナンバーサイズ”へと踏み込むこんだ新型プリウスが、なかなかスマートでカッコよく見えるようになったのも確かだ。“ズングリムックリ”だった初代モデルのルックスは、それはそれで愛嬌のあるものだった。一方、“ちょっと変わったクルマ”に見えるスタイリングが、「どうにも好きになれない」という人をすくなからず生み出していた可能性もあった。
そこからすると、今度のモデルがより多くの幅広いユーザー層――特にアメリカの――に、購買意欲を起こさせるルックスであることは間違いないように思う。
また、“ボディ流麗化”の一因が、空気抵抗の低減という実質的なメリットの追求にあることも見逃せない。新型の空気抵抗係数=Cd値は0.26で、量産モデルとしては世界トップレベルにある。これは、新型が最高速70km/hに設定される日本国内の燃費測定モードだけでなく、より高い速度を使う海外(欧米)の測定モードを重視をするようになったことにも、大いに関連があるはずだ。
というわけで、今や「プリウスの最大のマーケット」たる、アメリカはロサンジェルスで催されたプレス向け国際試乗会のテスト車は、開催地に合わせたアメリカ仕様である。日本仕様との違いは、「装着タイヤがオールシーズン仕様となるため、それに合わせたサスペンションチューニングを行っている程度」とのこと。装備面は異なり、世界初の後退駐車支援システム(!)「インテリジェントパーキングアシスト」などは設定されない。
動力性能に文句ナシ
エンジン始動は、従来通りイグニッションキー(?)をひねる。次いで、コンピューターばりの“起動スイッチ”にタッチすると、新型プリウスはたちまち走行スタンバイ状態となる。初代モデル同様のデジタル自発光式スピードメーターは、センターメーターながら、なぜか位置がドライバー寄りに移された。ドライバーにとっては相変わらず見やすいものの、助手席側からは、あえて覗き込まないと見えなくなったのはマイナスだ。せっかく乗る人全員の位置から目に入る、ダッシュボードアッパー部に置かれるのなら、その情報も“共有”できた方が嬉しかったのに……。
日本初となるバイワイヤー方式のATレバーは、超ショートストロークが売り物のスマートなデザイン。「P」レンジはレバー上部のパネルに独立スイッチとして設置。回生ブレーキの効率を増す「B」レンジが「D」の左下にレイアウトされた独特のもので、慣れないうちは一瞬戸惑うかもしれない。もっとも、ひとたび慣れてしまうと、指先ひとつで操作が完了するこのレバーは、極めて使いやすい。
走り出しは、相変わらずスムーズそのもの。感心させられたのが、あらゆる速度域で、加速のポテンシャルがグンと向上していたことだ。
「0-100km/hタイムは、従来型の13.5秒から10.5秒へ大幅に改善」が謳われるとおり、確かな力強さを実感できた。スタートの瞬間から、流れの速いフリーウェイへの合流シーン、ダラダラと続く険しい山岳路の登り坂まで、もはや新型プリウスの動力性能に文句をつける人は(まず)いないはずだ。
静粛性は“期待過剰”?
一方、「データ上は確実に向上した」という静粛性に関しては、率直なところさほどのレベルアップは感じられなかった。もちろん、従来型以上に頻繁に実行される“アイドリングストップ”状態では、自らが発するノイズは事実上ゼロに等しい。CVTに似たシステムの特性から、エンジン回転数が必要最小限に抑えられるクルージングでも、1.5リッタークラスとしては「かなり静か」な部類に入だろう。
しかし、従来型がデビューしたときに感じた、“常識破り”な静けさに比較すると、「ちょっとばかり期待過剰だったかな?」と思わせる。あるいは、トランクルームとキャビンの間に“隔壁”が入る従来のセダンから、ラゲッジスペースとキャビンが一体化するハッチバックとなった影響が、すくなからずあるのかもしれない。
フットワークテイストは、タイヤとサスチューニングが異なる事情から、今回のテスト車と日本仕様は微妙に違う可能性も大きい。アメリカ仕様のドライブフィールについて語ると、「操安性の安心感がグンと高まった。けれども、“フランス車のような……”と評される路面当たりの柔らかさは消えた」。これが、ぼくの抱いた率直な印象である。人によっては、こうしたテイストを好意的に解釈するであろう。他の人は、初代モデルのソフトさを懐かしく思うかもしれない。いずれにしても、この部分は“本来の味”に近いと思われる日本仕様車を、是非とも早急にテストドライブしてみたいところだ。
初代プリウスの姿もチラホラと見かけるロサンゼルスはハリウッド地区を起点に、渋滞を含めた市街路、山岳路、そしてフリーウェイと、約250kmを走りまわった。試乗後に車載燃費計が示したデータは、46.6mpg(マイル・パー・ガロン)。日本式に換算すると、およそ19.8km/リッターだ。ぼくの経験から、同じルートを車両重量が同等の2リッター級トルコンAT車で走行すれば、ネンピは10〜12km/リッター程度になると推測される。
いずれにせよ、マイナーチェンジでデビューから動力性能と燃費性能を大幅に向上した初代プリウスに対し、初のフルモデルチェンジを経験した新型が、再び同等のステップでそのポテンシャルを向上させた。これは確実といってよい。
(文=河村康彦/写真=トヨタ自動車/2003年8月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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