マツダ・アテンザワゴン25S Lパッケージ(FF/6AT)【試乗記】
ハンドリング・マニアにささぐ 2013.03.22 試乗記 マツダ・アテンザワゴン25S Lパッケージ(FF/6AT)……308万4000円
話題も人気も沸騰中の新型「マツダ・アテンザ」。今回は販売の主役であるディーゼルエンジン搭載車ではなく、あえて2.5リッターのガソリンエンジン車に試乗。あらためて、その真価を確かめた。
主流はディーゼルだけれど……
「マツダ・アテンザ」は、国内販売でもディーゼルエンジンを積む「XD」(「XD Lパッケージ」も含む)の比率が7割以上……ことによっては8割近いのだという。アテンザはご承知のように、その一番人気の2.2リッター直噴ターボディーゼルのほか、「CX-5」などと同じ2リッターガソリン、そしてアテンザで初登場の2.5リッターガソリン……という計3種類のエンジンラインナップである。
アテンザでディーゼルに人気が集中するのは当然だろう。アテンザのディーゼルはすべてのアテンザのなかで、最も高性能かつ最も低燃費。まあ、そのぶん価格も高いのだが、「XD」が同等装備の2リッター「20S」の、上級版「XD Lパッケージ」が2.5リッター「25S Lパッケージ」のそれぞれ40万円高。補助金や免税などクリーンディーゼルならではの優遇措置と燃料の安さを考えると、「この価格差ならディーゼル」と思いやすい絶妙な設定である。
ましてや、最新クリーンディーゼルという存在そのものが、日本では今なお新鮮かつ貴重。クルマ好きならそれだけでゴハン3杯は食べられるほど(?)マニアなウンチク満載だ。
とくに好奇心豊かなクルマ好きは、これまで「欧州の常識である最新ディーゼルがどれほど魅力的か? しかし、それは日本で手に入らない」という話をさんざん聞かされてきたわけだ。そこでやっと登場した国産の最新鋭ディーゼルが、CX-5でありアテンザである。さらに言えば、それを手がけたのが「和製欧州車」っぷりにかけては右に出るものがない(?)マツダとなれば、「待ってました!」と、多少のエキストラコストも喜んで支払うエンスージアストは少なくないだろう。
ところが、今回の主題はアテンザはアテンザでも、ガソリンモデルである。試乗車となった2.5リッターガソリンを積む「アテンザワゴン25S Lパッケージ」を前に、編集部H君は「ディーゼルイメージか強いアテンザですが、あえてガソリンを選ぶというハズシの選択はあるんでしょうか?」という。H君、なかなか答えにくいことを聞いてくれるね……。
滑らかでキレがある
アテンザの2.5ガソリンと2.2ディーゼルのエンジン単体スペックを比較すると、最高出力は2.5ガソリンが僅差勝ち、最大トルクはディーゼルが約4割差をつけた圧勝……となる。ただ、トルク特性がまったく違うこともあって、体感動力性能は数字から単純に想像するのとはちょっと異なる。
単純に加速が強力なのはディーゼルで、まるでドンッと背中を蹴られるようなトルクが印象的。対するこの2.5ガソリンモデルはスルスルスルーッと実に滑らかに加速していく。
迫力という点ではディーゼルにおよぶべくもないが、ディーゼルから乗り換えても、数字ほどには力不足は感じない。マツダの「SKYACTIV-G2.5」はとにかく滑らかなエンジンで、ここまでリミットまで震動なくストレスフリーに吹けるエンジンはけっこうめずらしい。また、右足の微妙な力加減にリンクしたリニアリティーとピックアップは2.5ガソリンのほうが明らかにディーゼルより上。
この2.5エンジンのリニアな味わいに拍車をかけているのが、マツダ製の6段ATである。ほぼ全域ロックアップの高効率が大きな売りだが、その徹底したロックアップ制御が変速の小気味よさ、エンジンのリニアなスロットル特性にメチャクチャ効いている。
変速スピードもお世辞ぬきに速い。変速制御も緻密。息の長い加速がほしい時にはレシオキープ、強く加速したいと念じれば瞬時のダウンシフト……。半日も付き合って、コツやタイミングを会得すれば、パワートレインと以心伝心になることが可能だ。
さらにレバーを運転席側に引き寄せれば、マツダらしく自動変速制御がまったく入らない真正マニュアルモードに切り替わる。前記のように変速の反応が鋭いので、ついついパドルをカチカチやりたくなる。もちろん、このATの気持ちよさは基本的にエンジンを問わないのだが、変速の一発一発でそれなりのショックを繰り出すディーゼルに対して、2.5ガソリンはいわば、カミソリ的にスパッと軽いキレの良さである。
ベスト・ハンドリング・オブ・アテンザ
こうしたパワートレインの滑らかさやキレ味だけでなく……というか、いやそれ以上に、アテンザのガソリンにはディーゼルを圧倒する美点がある。それはハンドリングだ。
今回のワゴンだと、25S LパッケージとXD Lパッケージの重量差は60kg。しかもその60kgのほぼすべてが前軸重に集中。さすがにハナ先が60kgも変わると、乗り比べさえすれば誰もがわかるくらいにちがう。
ガソリンのアテンザはとにかく軽快だ。とくに高性能な19インチタイヤを履くLパッケージだと、大柄なボディーサイズから想像しづらいほど、ノーズの動きは軽い。
知っている人も多いだろうが、今回のアテンザワゴンのホイールベースは、セダンのそれより80mmも短い。セダンが主戦場たる北米や中国で“マツダのフラッグシップ”に恥じない後席空間をアピールするのに対して、ワゴンのメイン市場は欧州。全長をどうしてもライバルと同等の4800mmにおさめないと、欧州では勝負にならないのだという。
アテンザではこのホイールベースによる走りの差も小さくない。開発陣によれば、サスペンションチューンにボディーごとの性格分けは意図していないというが、ショートホイールベースのワゴンのほうがハッキリと軽快でシャキッとして、回頭性も明確に鋭い。同じエンジンと同じタイヤサイズで両ボディーに乗れば、ほとんどの人がワゴンのほうがスポーティーに感じるはずである。
まあ、スポーティーという点でひとつ言うなら、Lパッケージに標準装備される45偏平の19インチタイヤはちょっとスポーツ過剰気味。速度を問わずにコツコツという突き上げがおさまらないし、視覚的にもブレーキサイズとのアンバランスがちょっと哀(かな)しい。
まあ、それはともかく、すなわち今回のアテンザ=“ワゴンボディー+2.5ガソリン”が、絶対的な速さを別にすれば、最もスポーティーで鋭くて軽快なハンドリングをもつアテンザということである。
もちろん、クルマはハンドリングだけで買うものではないから、アテンザでディーゼルが圧倒的人気なのは理解できる。ただ、「クルマ選びの最優先事項はハンドリング」と断言する一部マニアのみなさんは、だまされたと思って2.5ガソリン(のワゴン)を乗ってみてほしい。「俺(あるいは私)にはこっちだ!」と、ビビッとくる人は確実にいるはずである。
(文=佐野弘宗/写真=郡大二郎)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ ヴォランテ(FR/8AT)【試乗記】 2026.3.14 英国の名門、アストンマーティンの旗艦車種「ヴァンキッシュ」に、待望の「ヴォランテ」が登場。5.2リッターV12エンジンを搭載した最上級コンバーチブルは、妥協のないパフォーマンスと爽快なオープンエアのドライブ体験を、完璧に両立した一台となっていた。
-
プジョーE-3008 GTアルカンターラパッケージ(FWD)【試乗記】 2026.3.11 「プジョー3008」の電気自動車版、その名も「E-3008」が日本に上陸。新しいプラットフォームに未来感あふれるボディーをかぶせた意欲作だが、その乗り味はこれまでのプジョーとは明らかに違う。ステランティスのような大所帯で個性を発揮するのは大変だ。
-
ジープ・アベンジャー アップランド4xeハイブリッド スタイルパック装着車(4WD/6AT)【試乗記】 2026.3.10 「ジープ・アベンジャー」のラインナップに、待望の「4xeハイブリッド」が登場。既存の電気自動車バージョンから、パワートレインもリアの足まわりも置き換えられたハイブリッド四駆の新顔は、悪路でもジープの名に恥じないタフネスを披露してくれた。
-
三菱デリカD:5 P(4WD/8AT)【試乗記】 2026.3.9 デビュー19年目を迎えた三菱のオフロードミニバン「デリカD:5」がまたもマイナーチェンジを敢行。お化粧直しに加えて機能装備も強化し、次の10年を見据えた(?)基礎体力の底上げを図っている。スノードライブを目的に冬の信州を目指した。
-
ホンダCB1000F SE(6MT)【レビュー】 2026.3.7 ホンダから満を持して登場した、リッタークラスの4気筒マシン「CB1000F」。往年のCBをほうふつさせるスタイルと、モダンなパフォーマンスを併せ持つネイキッドスポーツは、先行するライバルを追い落とすことができるのか? ホンダ渾身(こんしん)の一台の実力に触れた。
-
NEW
トヨタRAV4 Z(4WD/CVT)RAV4アドベンチャー(4WD/CVT)【試乗記】
2026.3.17試乗記「トヨタRAV4」が6代目へと進化。パワートレインやシャシーの進化を図ったほか、新たな開発環境を採用してクルマづくりのあり方から変えようとした意欲作である。ハイブリッドの「Z」と「アドベンチャー」を試す。 -
NEW
クルマの内装から「物理スイッチ」が消えてタッチパネルばかりになるのはどうしてか?
2026.3.17あの多田哲哉のクルマQ&A近年、多くのクルマの車内では、物理的なスイッチが電気式のタッチパネルに置き換えられている。それはなぜなのか? トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんに理由を聞いた。 -
いまこそ、かき回したい! 新車で買えるおすすめMT車はこれだ!
2026.3.16デイリーコラム改良型「トヨタ・ヤリス」に、新たに6段MTモデルが設定された。現実的にMT車はレアであり、消滅する可能性もある時代だが……。これを機に、いま新車で買えるMT車のなかで、特におすすめできるモデルをピックアップしてみよう。 -
第331回:デカいぞ「ルークス」
2026.3.16カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。首都高で新型「日産ルークス」の自然吸気モデルに試乗した。今、新車で購入される軽ハイトワゴンの8割はターボじゃないほうだと聞く。同じターボなしの愛車「ダイハツ・タント」と比較しつつ、カーマニア目線でチェックした。 -
ポルシェ・タイカンGTS(後編)
2026.3.15思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「ポルシェ・タイカン」に試乗。後編ではコーナリングマシンとしての評価を聞く。山野は最新の「GTS」に、普通のクルマとはだいぶ違う特性を感じているようだ。 -
アストンマーティン・ヴァンキッシュ ヴォランテ(FR/8AT)【試乗記】
2026.3.14試乗記英国の名門、アストンマーティンの旗艦車種「ヴァンキッシュ」に、待望の「ヴォランテ」が登場。5.2リッターV12エンジンを搭載した最上級コンバーチブルは、妥協のないパフォーマンスと爽快なオープンエアのドライブ体験を、完璧に両立した一台となっていた。


















