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【語ってくれた人】ステファン・ライバーグ(Stephan Ryberg)さん/1988年から、ボルボでセーフティーエンジニアとして、安全技術に関する多方面の業務を担当。現在は、実際に起こった事故のデータを元に車両設計上の要求事項を研究する「ビークル・リクワイヤメント」を担当する。

ボルボV40【開発者インタビュー】

ボルボの安全技術に「上下」はありません 2013.03.22 試乗記 青木 禎之 <開発者インタビュー>
ステファン・ライバーグさん
ボルボ・カー・グループ
シニア セーフティー エンジニア

“5ドア・プレミアム・スポーツコンパクト”とうたわれる新型「ボルボV40」。ボルボのラインナップで最も小さなモデルだが、最新の安全装備が惜しみなく投入されている。同社の安全技術開発を支えている、ステファン・ライバーグ氏に話をうかがった。

大切なのはアルゴリズム

「ボルボV40」に搭載された安全装備のなかで、最も話題になったのが世界初の「歩行者エアバッグ」。V40が歩行者との衝突を感知すると、ボンネットを持ち上げ、フロントウィンドウに向かってエアバッグを展開するというもの。しかし、新しい安全技術の中で、メインとなるトピックは別にあるという。

――V40の発表と同時に、歩行者用エアバッグが注目を集めました。

われわれは、安全機能をパッケージとして提供しています。その中の一部が、歩行者用エアバッグです。技術的なハイライトは、むしろぶつかる前の、衝突回避システムにあります。

――例えば歩行者を検知して衝突を回避する「ヒューマン・セーフティ」ですね。

システムを構成するセンサー、レーダー、そしてカメラなどは、ハードウエアに過ぎません。大切なのは、検知した情報をどう解析するかのアルゴリズムです。クルマのブレーキを作動させるのは難しくありませんが、必要ないときにブレーキをかけてしまったら、それは運転者の負担、ストレスとなります。必要ないときに誤作動させない。そこに開発する努力の大半が割かれました。

――どのようにシステムの“知性”を磨いたのですか?

物体自体があることを認識するのがレーダーで、その後、カメラが形状を確認して、人かその他の物体かを判別します。さまざまな物体を“見せて”、ソフトウエアのアルゴリズムを改善し、歩行者を検知する精度を引き上げていきました。

――歩行者用エアバッグの場合は、人間か否かをどう判断しているのですか?

フロントバンパーに7つの加速センサーを設け、ぶつかった衝撃から得られた波形を解析し、人の足に衝突した際の典型的な波形、プロファイルに当てはまるかどうかで判断します。
歩行者用エアバッグは、20〜50km/hの速度域で作動します。それ以上のスピードになると、衝突した歩行者は、クルマの後方に跳ね飛ばされてしまいますから、エアバッグを展開しても意味がありません。ちなみに、V40のボンネットは形状が工夫され、柔らかい素材でできているので、歩行者用エアバッグがなくても、すべての安全基準を満たします。

――それにも関わらず、歩行者用エアバッグを開発したのはなぜですか?

ボルボの安全システムは、実際の事故データに基づいて開発されます。多くの場合、重傷や死亡に至る深刻な歩行者事故は、フロントウィンドウやピラーに頭部をぶつけることで起こっています。歩行者用エアバッグは、そうした硬い部分から、歩行者を保護するのです。

世界に先駆けて実用化された歩行者エアバッグ。展開すると、ウインドスクリーンの約1/3とAピラーの半分を覆う。
世界に先駆けて実用化された歩行者エアバッグ。展開すると、ウインドスクリーンの約1/3とAピラーの半分を覆う。 拡大
歩行者用エアバッグは20〜50km/hで作動する。容量は約126リッターで、歩行者と衝突後、数ミリ秒(1ミリ秒は0.001秒)で展開し、最長で0.3秒間維持する仕組み。
歩行者用エアバッグは20〜50km/hで作動する。容量は約126リッターで、歩行者と衝突後、数ミリ秒(1ミリ秒は0.001秒)で展開し、最長で0.3秒間維持する仕組み。 拡大
「ヒューマン・セーフティ」は、ミリ波レーダーとデジタルカメラを使用して前方の障害物をスキャンし、身長80cm以上の歩行者を最大10人同時に検出する。
「ヒューマン・セーフティ」は、ミリ波レーダーとデジタルカメラを使用して前方の障害物をスキャンし、身長80cm以上の歩行者を最大10人同時に検出する。 拡大

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ボルボ V40 の中古車

レーダーユニットのコスト減が引き金に

V40の安全装備は盛りだくさんだ。ルームミラー裏の赤外線レーザーを使い、先行車への追突を回避・軽減する「シティ・セーフティ」。リアバンパーのミリ波レーダーを活用して、斜め後ろの死角を監視したり、後方から追突される危険性を警告したりする「BLIS」「LCMA」。同じく駐車スペースからバックしてクルマを出す際に、左右から近づいてくるクルマをチェックする「CTA」。前走車との距離を維持しつつ追走するクルーズコントロール「ACC」も、フロントに設けられたレーダーを活用している。
さらに車載カメラから情報を得る機能として、車線を見て、走行レーンからの逸脱を警告する「LKA/LDW」、道路標識から制限速度を読み取ってメーターパネルに表示する「RSI」などがある。

――V40の安全装備に使われる検知デバイス、「赤外線レーザーセンサー」「ミリ波レーダー」「CCDカメラ」の使い分けはどうしていますか?

レーザーは低速用。渋滞時などに機能します。レーダーとカメラは、人間を見分ける、より高度なシステム用です。前者は標準装備、後者はオプション扱いとなります。もちろん、ひとつの検知機能で解決できれば理想的ですが……。

――今回、レーダーを使ったシステムのバリエーションが増えましたね。

レーダーの部品そのもののコストが下がったこと。CPUユニットがより知的になりました。そして、データ解析のアルゴリズム改善によって可能になりました。

――安全装備の、特に装着が始まった初期段階は、コストが高そうです。車両の価格設定において、葛藤はありませんか?

セーフティーはボルボのコアバリューですから、どうしてもやらないといけません。たしかに最初はハイコストですが、新装備の搭載台数が増えれば、値段は少しずつダウンします。とはいえ、車両価格との調整は必要で、最初はオプションにせざるを得ません。それでも、お客さまに“選ぶ機会”を提供することが大切なのです。

「全車速追従機能付きACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)」「LKA(レーン・キーピング・エイド)」「進化型BLIS(ブラインド・スポット・インフォメーション・システム)」など、「V40」にはカメラとレーダーを使用した安全装備が数多く備わる。
「全車速追従機能付きACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)」「LKA(レーン・キーピング・エイド)」「進化型BLIS(ブラインド・スポット・インフォメーション・システム)」など、「V40」にはカメラとレーダーを使用した安全装備が数多く備わる。 拡大

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現在の制限速度をドライバーに知らせる「RSI(ロード・サイン・インフォメーション)」。カメラが道路標識を読み取り、メーターパネルに制限速度を表示する。超過するとアイコンを点滅させて注意をうながす。
現在の制限速度をドライバーに知らせる「RSI(ロード・サイン・インフォメーション)」。カメラが道路標識を読み取り、メーターパネルに制限速度を表示する。超過するとアイコンを点滅させて注意をうながす。 拡大

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自社製ソフトウエアで優位性を保つ

自動車の、A地点からB地点へ人や物を運ぶマシンとしての機能は、いまや飽和状態にあるといえる。今後は、「環境」「安全」性能が、ますます重視されることになるだろう。ライバーグ氏は、どう考えているのか?

――ボルボの安全技術は、メルセデス・ベンツやBMWなどとの差別化にも役立つとお考えですか?

「考え方の違いがある」と感じます。例えばメルセデス・ベンツの場合、最も高額な「Sクラス」に新しい安全技術を採用して、順次、下位モデルに展開していく傾向が見られます。ボルボでは、お客さまが必要としているなら、クルマの大小、グレードを問わず、搭載します。
また、メルセデスやBMW、フォルクスワーゲン・グループと比較すると、ボルボの方が規模が小さいので、より迅速に動けます。適時、市場のニーズに正しく対応することができるわけです。

――クルマに関する新しい技術は、多くの自動車メーカーを相手とする大手の部品メーカー、サプライヤーから提案されることも多いのではないでしょうか。ボルボとしての独自性、アドバンテージは、どのように確保しているのですか?

ハードを動かすソフトウエアの「ノウハウ」「知性」「解析」の部分をインハウス(自社内)で行うようにしています。サプライヤーから、ブラックボックスとして購入するのではなく。もちろん、良い結果を出すためには、双方の協業が大事です。

――「究極の安全技術は、自動運転だ」という意見について、どうお考えですか?

自動車事故の90%は、運転者のエラーによるものだと言われており、実際、私も「そうだろうな」と思います。自動操縦が進んだ飛行機の場合も、事故の原因はパイロットのミスがほとんどです。将来的に自動車事故ゼロを目指すなら、自動運転がひとつの解決法になるでしょう。しかし今日では、技術の進歩に法規制が追いつかないことが多々あります。
クルマの技術は、さまざまなハードルを越えて自動運転に向かってゆっくり進んでいますが、「すべて自動」という段階は、遠い将来になりそうです。東京なら、「一部エリアを自動運転で」ということがありえるかもしれません。「自分で運転したい!」というドライバーは必ずいますから、人間と機械による運転が共存しながら、進歩していくことでしょう。

(インタビューとまとめ=青木禎之/写真=DA、VOLVO)


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小気味いいハンドリングも「V40」の売りのひとつ。「ロー」「ミディアム」「ハイ」と3段階のアシスト量が選べる新しい電動パワーステアリングを搭載する。
小気味いいハンドリングも「V40」の売りのひとつ。「ロー」「ミディアム」「ハイ」と3段階のアシスト量が選べる新しい電動パワーステアリングを搭載する。 拡大

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青木 禎之

青木 禎之

15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。

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