ボルボV40【開発者インタビュー】
ボルボの安全技術に「上下」はありません 2013.03.22 試乗記 <開発者インタビュー>ステファン・ライバーグさん
ボルボ・カー・グループ
シニア セーフティー エンジニア
“5ドア・プレミアム・スポーツコンパクト”とうたわれる新型「ボルボV40」。ボルボのラインナップで最も小さなモデルだが、最新の安全装備が惜しみなく投入されている。同社の安全技術開発を支えている、ステファン・ライバーグ氏に話をうかがった。
大切なのはアルゴリズム
「ボルボV40」に搭載された安全装備のなかで、最も話題になったのが世界初の「歩行者エアバッグ」。V40が歩行者との衝突を感知すると、ボンネットを持ち上げ、フロントウィンドウに向かってエアバッグを展開するというもの。しかし、新しい安全技術の中で、メインとなるトピックは別にあるという。
――V40の発表と同時に、歩行者用エアバッグが注目を集めました。
われわれは、安全機能をパッケージとして提供しています。その中の一部が、歩行者用エアバッグです。技術的なハイライトは、むしろぶつかる前の、衝突回避システムにあります。
――例えば歩行者を検知して衝突を回避する「ヒューマン・セーフティ」ですね。
システムを構成するセンサー、レーダー、そしてカメラなどは、ハードウエアに過ぎません。大切なのは、検知した情報をどう解析するかのアルゴリズムです。クルマのブレーキを作動させるのは難しくありませんが、必要ないときにブレーキをかけてしまったら、それは運転者の負担、ストレスとなります。必要ないときに誤作動させない。そこに開発する努力の大半が割かれました。
――どのようにシステムの“知性”を磨いたのですか?
物体自体があることを認識するのがレーダーで、その後、カメラが形状を確認して、人かその他の物体かを判別します。さまざまな物体を“見せて”、ソフトウエアのアルゴリズムを改善し、歩行者を検知する精度を引き上げていきました。
――歩行者用エアバッグの場合は、人間か否かをどう判断しているのですか?
フロントバンパーに7つの加速センサーを設け、ぶつかった衝撃から得られた波形を解析し、人の足に衝突した際の典型的な波形、プロファイルに当てはまるかどうかで判断します。
歩行者用エアバッグは、20〜50km/hの速度域で作動します。それ以上のスピードになると、衝突した歩行者は、クルマの後方に跳ね飛ばされてしまいますから、エアバッグを展開しても意味がありません。ちなみに、V40のボンネットは形状が工夫され、柔らかい素材でできているので、歩行者用エアバッグがなくても、すべての安全基準を満たします。
――それにも関わらず、歩行者用エアバッグを開発したのはなぜですか?
ボルボの安全システムは、実際の事故データに基づいて開発されます。多くの場合、重傷や死亡に至る深刻な歩行者事故は、フロントウィンドウやピラーに頭部をぶつけることで起こっています。歩行者用エアバッグは、そうした硬い部分から、歩行者を保護するのです。
レーダーユニットのコスト減が引き金に
V40の安全装備は盛りだくさんだ。ルームミラー裏の赤外線レーザーを使い、先行車への追突を回避・軽減する「シティ・セーフティ」。リアバンパーのミリ波レーダーを活用して、斜め後ろの死角を監視したり、後方から追突される危険性を警告したりする「BLIS」「LCMA」。同じく駐車スペースからバックしてクルマを出す際に、左右から近づいてくるクルマをチェックする「CTA」。前走車との距離を維持しつつ追走するクルーズコントロール「ACC」も、フロントに設けられたレーダーを活用している。
さらに車載カメラから情報を得る機能として、車線を見て、走行レーンからの逸脱を警告する「LKA/LDW」、道路標識から制限速度を読み取ってメーターパネルに表示する「RSI」などがある。
――V40の安全装備に使われる検知デバイス、「赤外線レーザーセンサー」「ミリ波レーダー」「CCDカメラ」の使い分けはどうしていますか?
レーザーは低速用。渋滞時などに機能します。レーダーとカメラは、人間を見分ける、より高度なシステム用です。前者は標準装備、後者はオプション扱いとなります。もちろん、ひとつの検知機能で解決できれば理想的ですが……。
――今回、レーダーを使ったシステムのバリエーションが増えましたね。
レーダーの部品そのもののコストが下がったこと。CPUユニットがより知的になりました。そして、データ解析のアルゴリズム改善によって可能になりました。
――安全装備の、特に装着が始まった初期段階は、コストが高そうです。車両の価格設定において、葛藤はありませんか?
セーフティーはボルボのコアバリューですから、どうしてもやらないといけません。たしかに最初はハイコストですが、新装備の搭載台数が増えれば、値段は少しずつダウンします。とはいえ、車両価格との調整は必要で、最初はオプションにせざるを得ません。それでも、お客さまに“選ぶ機会”を提供することが大切なのです。
自社製ソフトウエアで優位性を保つ
自動車の、A地点からB地点へ人や物を運ぶマシンとしての機能は、いまや飽和状態にあるといえる。今後は、「環境」「安全」性能が、ますます重視されることになるだろう。ライバーグ氏は、どう考えているのか?
――ボルボの安全技術は、メルセデス・ベンツやBMWなどとの差別化にも役立つとお考えですか?
「考え方の違いがある」と感じます。例えばメルセデス・ベンツの場合、最も高額な「Sクラス」に新しい安全技術を採用して、順次、下位モデルに展開していく傾向が見られます。ボルボでは、お客さまが必要としているなら、クルマの大小、グレードを問わず、搭載します。
また、メルセデスやBMW、フォルクスワーゲン・グループと比較すると、ボルボの方が規模が小さいので、より迅速に動けます。適時、市場のニーズに正しく対応することができるわけです。
――クルマに関する新しい技術は、多くの自動車メーカーを相手とする大手の部品メーカー、サプライヤーから提案されることも多いのではないでしょうか。ボルボとしての独自性、アドバンテージは、どのように確保しているのですか?
ハードを動かすソフトウエアの「ノウハウ」「知性」「解析」の部分をインハウス(自社内)で行うようにしています。サプライヤーから、ブラックボックスとして購入するのではなく。もちろん、良い結果を出すためには、双方の協業が大事です。
――「究極の安全技術は、自動運転だ」という意見について、どうお考えですか?
自動車事故の90%は、運転者のエラーによるものだと言われており、実際、私も「そうだろうな」と思います。自動操縦が進んだ飛行機の場合も、事故の原因はパイロットのミスがほとんどです。将来的に自動車事故ゼロを目指すなら、自動運転がひとつの解決法になるでしょう。しかし今日では、技術の進歩に法規制が追いつかないことが多々あります。
クルマの技術は、さまざまなハードルを越えて自動運転に向かってゆっくり進んでいますが、「すべて自動」という段階は、遠い将来になりそうです。東京なら、「一部エリアを自動運転で」ということがありえるかもしれません。「自分で運転したい!」というドライバーは必ずいますから、人間と機械による運転が共存しながら、進歩していくことでしょう。
(インタビューとまとめ=青木禎之/写真=DA、VOLVO)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2026.2.23 「BYDシーライオン6」は満タン・満充電からの航続可能距離が1200kmにも達するというプラグインハイブリッド車だ。そして国内に導入されるBYD車の例に漏れず、装備が山盛りでありながら圧倒的な安さを誇る。300km余りのドライブで燃費性能等をチェックした。
-
アルファ・ロメオ・トナーレ ハイブリッド インテンサ(FF/7AT)【試乗記】 2026.2.22 2025年の大幅改良に、新バリエーション「インテンサ」の設定と、ここにきてさまざまな話題が飛び交っている「アルファ・ロメオ・トナーレ」。ブランドの中軸を担うコンパクトSUVの、今時点の実力とは? 定番の1.5リッターマイルドハイブリッド車で確かめた。
-
トライアンフ・トライデント800(6MT)【海外試乗記】 2026.2.20 英国の名門トライアンフから、800ccクラスの新型モーターサイクル「トライデント800」が登場。「走る・曲がる・止まる」のすべてでゆとりを感じさせる上級のロードスターは、オールラウンダーという言葉では足りない、懐の深いマシンに仕上がっていた。
-
マセラティMCプーラ チェロ(MR/8AT)【試乗記】 2026.2.18 かつて「マセラティの新時代の幕開け」として大々的にデビューした「MC20」がマイナーチェンジで「MCプーラ」へと生まれ変わった。名前まで変えてきたのは、また次の新時代を見据えてのことに違いない。オープントップの「MCプーラ チェロ」にサーキットで乗った。
-
アルファ・ロメオ・ジュリア クアドリフォリオ エストレマ(FR/8AT)【試乗記】 2026.2.17 「アルファ・ロメオ・ジュリア」に設定された台数46台の限定車「クアドリフォリオ エストレマ」に試乗。アクラポビッチ製エキゾーストシステムの採用により最高出力を520PSにアップした、イタリア語で「究極」の名を持つFRハイパフォーマンスモデルの走りを報告する。
-
NEW
右も左もスライドドアばかり ヒンジドアの軽自動車ならではのメリットはあるのか?
2026.2.25デイリーコラム軽自動車の売れ筋が「ホンダN-BOX」のようなスーパーハイトワゴンであるのはご承知のとおりだが、かつての主流だった「スズキ・ワゴンR」のような車型に復権の余地はないか。ヒンジドアのメリットなど、(やや強引ながら)優れている点を探ってみた。 -
NEW
第950回:小林彰太郎氏の霊言アゲイン あの世から業界を憂う
2026.2.25マッキナ あらモーダ!かつて『SUPER CG』の編集者だった大矢アキオが、『CAR GRAPHIC』初代編集長である小林彰太郎との交霊に挑戦! 日本の自動車ジャーナリズムの草分けでもある天国の上司に、昨今の日本の、世界の自動車業界事情を報告する。 -
NEW
ルノー・グランカングー クルール(FF/7AT)【試乗記】
2026.2.25試乗記「ルノー・グランカングー」がついに日本上陸。長さ5m近くに達するロングボディーには3列目シートが追加され、7人乗車が可能に。さらに2・3列目のシートは1脚ずつ取り外しができるなど、極めて使いでのあるMPVだ。ドライブとシートアレンジをじっくり楽しんでみた。 -
NEW
第862回:北極圏の氷上コースでマクラーレンの走りを堪能 「Pure McLaren Arctic Experience」に参加して
2026.2.25エディターから一言マクラーレンがフィンランド北部で「Pure McLaren Arctic Experience」を開催。ほかでは得られない、北極圏のドライビングエクスペリエンスならではの特別な体験とは? 氷上の広大な特設コースで、スーパースポーツ「アルトゥーラ」の秘めた実力に触れた。 -
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】
2026.2.24試乗記ボルボの電気自動車「EX30クロスカントリー」に冬の新潟・妙高高原で試乗。アウトドアテイストが盛り込まれたエクステリアデザインとツインモーターからなる四輪駆動パワートレイン、そして引き上げられた車高が織りなす走りを報告する。 -
エンジニアが「車検・点検時に注意すべき」と思う点は?
2026.2.24あの多田哲哉のクルマQ&Aすっかりディーラー任せにしている車検・点検について、ユーザーが自ら意識し、注視しておくべきチェックポイントはあるだろうか? 長年トヨタで車両開発を取りまとめてきた多田哲哉さんに意見を聞いた。






























