トヨタ・カローラ フィールダー1.5G “AEROTOURER”(FF/CVT)【ブリーフテスト】
トヨタ・カローラ フィールダー1.5G “AEROTOURER”(FF/CVT) 2012.09.24 試乗記 ……218万2223円総合評価……★★★
「カローラの原点」を目指して開発された11代目。ワゴンとしての合理性と若々しいイメージの両立をテーマに掲げる「カローラ フィールダー」の“ワゴン力”をチェックする。
達観した日本人のために
日本の自動車メーカーが世界的に見て高い技術水準にあることは間違いない。一時期のように世界をリードしかけるほどではないかもしれないが、決して低くはない。世界最大級のトヨタならなおさらそう。
だから、買う側が望めば、つまり売れるんなら、価格に応じてどんなクルマでも造ってくれるはずだ。「カローラ」が長らくベストセラーを続けてきたのは、多くの日本人がそういうクルマを望んだからだ。「フォルクスワーゲン・ゴルフ」みたいなのを望めば造ってくれたはずだが、望む声は少なかった。
当然ながら消費者のレベルが低いわけではない。スピードを出す道路がなく、渋滞が多く、維持費もバカにならず、排ガスによる公害病に悩まされてきた結果、「カローラ」や「プリウス」、そして何より軽自動車を望んできたのだ。日本には、モノの良さを趣味として愛(め)でる以外に、ゴルフをありがたがる理由がない。日本人は、欧米より後からクルマを知って、欧米より先に飽きちゃった、どれくらい楽しめるか見切っちゃった国民かもしれない。
そんな達観した日本人が必要に応じて買ってきたのがカローラだ。「若い人はプリウスが好きなようだけど、うちはずっとカローラだったから……」という超保守層ベテランユーザーに、今回もまた買ってもらえるよう、価格を上げないでできるブラッシュアップを積んだのが新型だ。そのワゴン版「フィールダー」をテストした。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
今年でデビュー46年を迎えた“大衆車”の代名詞「カローラ」。11代目となる新型のテーマは、「大人4人が安心・安全・快適に長距離を移動できるミニマムサイズのクルマ」であること。ボディーサイズは先代型より小さく、一方で環境性能は強化し、カローラの原点に立ち返る精神で開発を進めたという。
車名は、引き続きセダンを「カローラ アクシオ」、ワゴンを「カローラ フィールダー」と呼ぶ。どちらの車型もホイールベースは2600mmと旧型と同値だが、クルマの土台に当たるプラットフォームは従来の「MCプラットフォーム」から、「ヴィッツ」などと共用の一クラス下の「Bプラットフォーム」に変更された。その恩恵のひとつとして、最小回転半径が縮小された(0.2m小さい4.9mへ)ことが挙げられている。
エンジンは、セダンが1.3と1.5、ワゴンが1.5と1.8という設定。いずれも販売の中心的な存在となるのは1.5リッターと見られる。なお、1.5リッターエンジンには4WD仕様も用意されるが、FF用と4WD用とではチューニングだけでなく、エンジン内部の改良内容も若干異なっている。FF用は新開発のCVTと組み合わされ、今回試乗した「1.5G」グレードの場合、19.6km/リッター(アイドリングストップ機能を追加すると21.2km/リッター)という優れた環境性能を示す。
(グレード概要)
ワゴンのフィールダーは前述のとおり、1.5リッターと1.8リッターが選択可能。グレード構成は前者が「1.5G」(試乗車)と「1.5X」、後者が「1.8S」のみとシンプルだ。「AEROTOURER(エアロツアラー)」とは、アンダースポイラー、フォグランプ、フロントスポーツシートなどが標準で付く装備充実仕様のこと。試乗車には、さらにアイドリングストップ機能も装着されていた。
シニア層からの支持が厚いセダンに対し、ワゴンは20代から60代までの幅広い年齢層を対象にしている。そのためより若く、活動的なドライバーにも訴求するようスポーティーな仕立てとなっているのが特徴。足まわりには専用のチューニングが施され、ステアリングのギア比が速められているほか、「1.8S」のCVTには7段のシーケンシャルモードが採用され、走りの良さがアピールされる。
|
【車内&荷室】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
一度でもカローラに乗ったことがある人なら、新型の運転席に乗った瞬間、助手席との距離が近いと感じるだろう。
新型はプラットフォームをこれまでのカローラで使っていたミディアムコンパクト用から、「ヴィッツ」や「ポルテ」などに用いるBプラットフォームに変更したことから、室内幅も縮小している。それに伴いハンドブレーキ脇にあったカップホルダーがATセレクターの前方に移動されたが、それ以外は上下グローブボックス、コンソールボックス、そして容量十分のドアポケットなど、収納スペースはあるべき位置にきちんと配置されている。
ところどころにシルバーのアクセントが施されているものの、基本的にブラックの車内は、セダンとは違い若者にも訴求したいワゴンとしてはちょっと地味かもしれない。
|
(前席)……★★★
チルト&テレスコピック機能のついたステアリングホイールと、シートリフターを使えば、誰もがベストポジションを見つけられるだろう。座り心地はほとんど印象に残っていないが、それは不満がないということ。フィールダーでもカローラを名乗る以上、老若男女、幅広い層から受け入れられなくてはならないことをよくわかっている。
ただし、「スエード調トリコット」と呼ばれるシート柄は、幅広い層を狙った結果、誰も声に出して不満を言うほどではないが、気に入ってるわけでもないんじゃないかと少し心配になる。今やカローラ・セダンは完全にお年寄りのためのクルマだが、フィールダーがこのシート柄でどの層を狙っているのか、はっきりしない。
|
(後席)……★★★
前席同様、座り心地は可もなく不可もなく。膝前や頭上のスペースにも余裕がある。左右独立して最大16度、8段階刻みでリクライニングさせることができ、走行中に一番寝かしたポジションでいるのは安全上若干不安だが、ワゴンだということを考えると、クルマを止めてドアを開け放ち、後席で休憩することもあるだろうから、そういう場合には便利だと思う。
センターアームレストも備わる。当然ながら、中央席のヘッドレスト、3点式シートベルトも完備する。また後席テストでは一般道しか走っていないが、走行音が気になるようなことはなかった。
これはクルマ全体に言えることだが、正直に言うと、183万円という、軽自動車やコンパクトハッチバックより若干高め、ミディアムセダンより若干安めに位置するこの価格のクルマに、どの程度を望んでいよいのかいまいちわからないのだが、実際に金を出して乗るなら、どこかに一カ所くらい華やいだ、これでしか味わえない部分が欲しくなるかもしれない。
|
(荷室)……★★★★
このサイズに期待するだけのスペースを有している。奥行きはリアシート使用時に970mm、リアシートを倒すと2025mmあるので、長尺物も積むことができる。また、ラゲッジ側からリアシートの背もたれを左右独立して倒すことができるのはありがたい。なるべくならリアシートを倒さずに荷物を収納したいが、収まり切らなかったらリアシートを倒して収めたいというシーンはよくあるもの。
また、ユーザーの使用実態をよく研究しているなと感心したのが、ラゲッジフロア下のスペースにトノカバーを折りたたんで収納できる点。大きな荷物を入れる際、トノカバーが奥の梁(はり)にクルクル丸まって収まるタイプが多いが、リアシートを倒すとあの梁が非常に邪魔なのだ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★
セダンは先代にあった1.8リッターエンジンを廃止し、1.5リッター、1.3リッターの2本立てとなったが、セダンより重量のかさむワゴンは、従来通り1.8リッター、1.5リッターエンジンを採用する。このクルマは1.5リッター。
直4DOHCエンジンは、まあ気持ちよく回るかなとも思うが、印象は薄い。始動時に軽自動車のような「プルルン!」という音がして残念な気持ちになるが、慣れる。最高出力109ps/6000rpm、最大トルク13.9kgm/4800rpmというスペックを聞いて想像する通りのパワーで1140kgのクルマを動かしてくれる。
近頃「燃費、頑張ってます!」という国産車はこぞってCVTを採用するが、このクルマもそう。走りを楽しむクルマじゃないから問題なし。カローラは多くのグレードで5MTを選ぶこともできる。特段MTで乗りたい類いではないと思うが、選択肢があるのは喜ばしい。
(乗り心地+ハンドリング)……★★
プラットフォームはひとつ小さくなったが、乗ったらこれはもう見事なまでにカローラワールド。そのワールドをご存じない方も多いと思うので説明すると、すべてにおいてソフトというか、手応えがないというか。操作系はステアリングもペダル類も軽く、この辺りからも想定しているユーザー層の、平均年齢の高さを伺わせる。
これでもセダンよりもスポーティーなチューニングになっているというが、うちの親父(おやじ)なら「クッションがいい」と表現する、そんな乗り心地だ。上級の1.8リッターエンジンを搭載したモデルはもう少し骨太に造ってあるのかもしれない。
ステアリングフィールがないわけじゃないが、反応が遅れ気味にやってくる。ひとことで言えばソフトでダルという表現になるが、別にハードでシャープが偉いわけじゃないから性格を考えれば、OK。
(写真=高橋信宏)
【テストデータ】
報告者:塩見智
テスト日:2012年8月8日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2012年型
テスト車の走行距離:1382km
タイヤ:(前)185/60R15(後)同じ(いずれも、ブリヂストンB250)
オプション装備:185/60R15 84Hタイヤ&15×5 1/2Jアルミホイール(センターオーナメント付き)(5万1450円)/アイドリングストップ機能(Toyota Stop & Start System)(5万4600円)/ルーフレール(3万1500円)/スマートエントリー(運転席・助手席・バックドア/アンサーバック機能付き、スマートキー2個)&スタートシステム+盗難防止システム(エンジンイモビライザーシステム)(4万5150円)/マルチリンクナビ(13万1775円)/バックガイドモニター(2万7300円)/ETC車載器ビルトインタイプ(ベーシックタイプ)(1万448円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(8)
テスト距離:209.1km
使用燃料:15.9リッター
参考燃費:13.2km/リッター

塩見 智
-
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
NEW
バランスドエンジンってなにがスゴいの? ―誤解されがちな手組み&バランスどりの本当のメリット―
2025.12.5デイリーコラムハイパフォーマンスカーやスポーティーな限定車などの資料で時折目にする、「バランスどりされたエンジン」「手組みのエンジン」という文句。しかしアナタは、その利点を理解していますか? 誤解されがちなバランスドエンジンの、本当のメリットを解説する。 -
NEW
「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」の会場から
2025.12.4画像・写真ホンダ車用のカスタムパーツ「Modulo(モデューロ)」を手がけるホンダアクセスと、「無限」を展開するM-TECが、ホンダファン向けのイベント「Modulo 無限 THANKS DAY 2025」を開催。熱気に包まれた会場の様子を写真で紹介する。 -
NEW
「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」の会場より
2025.12.4画像・写真ソフト99コーポレーションが、完全招待制のオーナーミーティング「くるままていらいふ カーオーナーミーティングin芝公園」を初開催。会場には新旧50台の名車とクルマ愛にあふれたオーナーが集った。イベントの様子を写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション/CR-V e:HEV RSブラックエディション ホンダアクセス用品装着車
2025.12.4画像・写真まもなく日本でも発売される新型「ホンダCR-V」を、早くもホンダアクセスがコーディネート。彼らの手になる「Tough Premium(タフプレミアム)」のアクセサリー装着車を、ベースとなった上級グレード「RSブラックエディション」とともに写真で紹介する。 -
ホンダCR-V e:HEV RS
2025.12.4画像・写真およそ3年ぶりに、日本でも通常販売されることとなった「ホンダCR-V」。6代目となる新型は、より上質かつ堂々としたアッパーミドルクラスのSUVに進化を遂げていた。世界累計販売1500万台を誇る超人気モデルの姿を、写真で紹介する。 -
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。


































