クライスラー300 SRT8(FR/5AT)【試乗記】
クルマは乗らなきゃわからない 2013.02.26 試乗記 クライスラー300 SRT8(RWD/5AT)……653万円
一見「薄味」。しかしフィアットの指揮のもとで進化した「300 SRT8」は、欧州勢に引けを取らない洗練を手にしていた。あらためて、クルマは乗らなきゃわからない。
同じ「SRT8」でも……
先日書いた「ジープ・グランドチェロキーSRT8」と、この「300 SRT8」は同じエンジン、同じトランスミッションを搭載する。けれど、この2台はまったく別物だった。両方を同じ日に同じシチュエーションで交互に乗り比べたので、鮮明に差を感じた。
「そりゃそうだろう、グラチェロは4WDのSUV、300はRWDのセダンなんだから」と言われるかもしれないが、先代のグラチェロSRT8と「300C SRT8」は、ボディータイプ、駆動方式が違えども、乗って感じる驚きと喜びの種類が同じだった。大きく重いはずのボディーが、そのボディーを動かすのに十分以上の大きく重いエンジンによって軽やかに走り、また大きく太いタイヤによって曲がり、止まるという驚き、感心、喜び。絶対的な排気量だけが与えてくれる野性味を、グラチェロSRT8からも300C SRT8からも等しく感じたのだ。
ところが、新世代の300 SRT8は違った。言ってみれば、グラチェロは先代と同じ方向での進化だった。先代よりも増したパワーを、今回も太いタイヤと4WDと電子デバイスを駆使し、無理やりにでも成立させてやるという意地を感じた。一方、300は明らかに車体が洗練度を増した。あり余るパワーをシャシーが受け止め、漏れなく路面に伝える。その結果、メーターを見て、こんなに出ていたのか! と気付かされることが何度かあった。先代では、メーターを見て、やっぱりこんなに出ていたのか! と思っていた。
というわけで、グラチェロSRT8の相変わらずの野性味も魅力的なのだが、300の大きな進化により感心した。もう少し具体的に書くことにする。
「流用」でありながら進化は劇的
ベース車両の300は、北米で2011年にモデルチェンジした。クルマというのは、もともとフルモデルチェンジとマイナーチェンジの違いは曖昧で、どこを換えたらフルで、換えなければマイナーという明確な定義はない。新型300は見える部分、触れる部分は刷新され、フルモデルチェンジと言って差し支えないが、プラットフォームは先代が用いたLX型を流用する。当時、合併していたメルセデス・ベンツの「Eクラス」から多くのコンポーネンツを共用したアレだ。現在は、新たに組んだフィアット・グループがグリル違いの同じクルマを「ランチア・テーマ」として、欧州で販売している。
そのプラットフォームに6.4リッターV8OHVのHEMIエンジンを載せ、足まわりを強化し、車高を低め、控えめなエアロパーツを与えたのが、新型300 SRT8だ。行程を3.7mm延ばして総排気量を357cc増やした新エンジンは、最高出力が従来比41ps、最大トルクが6.3kgmそれぞれアップした。車両重量が2020kgと従来よりも110kg増加しているため、加速力が見違えるほど向上しているということはない。というよりも、もともと速すぎるので、パワーの違いは正直に言ってよくわからない。ベースモデルのトランスミッションは従来のメルセデス製の5段ATから多くの欧州車が採用するZF製の8段ATに変更となったが、どういうわけかSRT8は従来の5段ATを流用した。
冒頭に書いた通り、ドライバビリティーは劇的に進化した。まず街中を流すペースでの乗り心地が快適になった。ベースモデルの進化がSRT8にも適用されていると思われるが、実はベースの300にまだ乗っていないので断言できない。いずれにせよ、245/45ZR20の太く重いタイヤ&ホイールを装着するとは思えないほどに路面を追従してくれ、強いダンピングを感じさせながらも突き上げが少ない。
SRT8のパワーを受け止めるべく足まわりを強化すると、固定されたセッティングだと締め上げざるを得ないが、新型には電子制御のアダプティブダンピングサスペンションが備わる。「オート」「スポーツ」「トラック」からモードを選ぶことができ、オートにしておけば、路面からの入力が小さく、運転がマイルドである限り、ソフトな乗り心地でいてくれる。試しに「トラック」を選んでみたら、先代の乗り心地がよみがえった。
欧州勢に引けをとらない
プラットフォームを流用したといっても、先代の登場から7年が経過しているため、ブラッシュアップされたのだろう、ボディーの剛性感は確実に向上している。足まわりとプラットフォームの進化によって、新型300 SRT8はまったく別のクルマになった。最新の欧州ラグジュアリーサルーンと欧州車の価値観で比較しても引けを取らない。
時代を反映し、低負荷時に4気筒となるなど、それなりに燃費に気を使った面はあるが、JC08モード燃費は5.9km/リッターと、絶対的にはパフォーマンスを考慮しても褒められた数値ではない。例えば、最大トルクの絶対値が近い「メルセデス・ベンツE550」は10.0km/リッター、「BMW 750i」は9.3km/リッター。これらは過給器エンジンであることと、アイドリングストップが付いている点が大きい。ただし、E550は1495万円、750iは1297万円なのに対し、300 SRT8は638万円だからクライスラーにも言い分はあるだろう。それに乗っているクルマでその人がエコかどうかが決まるわけじゃない。買ったら庭に木を植え、エコバッグを持ち歩こう。
「キャデラックATS」にも言えるが、ドイツ車ほど日本での販売台数が見込めないアメリカ車にもかかわらず、既成品をはめ込んだカーナビではなく、本国仕様そのままのモニターを使ったカーナビが組み込まれているのがうれしい。操作するうち、どこかで触れたインターフェイスだなと思ったら、中身はガーミンだった。ただ、前述した走行モードをタッチパネルで操作するのだが、深い階層にあるのが残念だ。走行モードはダイヤルかなんかでサッと変えたい。
先代のネオクラシックな印象の内外装がとっても好きだったので、ちょい薄味な顔つきになった新型を写真で見た段階では少し残念に思ったのだが、写真でのっぺりとして見えるボディーパネルは、実際には細かい抑揚があり、効果的なプレスラインがいくつも入っている。ストンと切り落とされたリアエンドはすがすがしい。やはりクルマは実車を見て、触らないとわからない。気に入った。
(文=塩見智/写真=小林俊樹)

塩見 智
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