アバルト・プント スーパースポーツ(FF/6MT)【試乗記】
ちょうどいいアバルト 2013.02.25 試乗記 アバルト・プント スーパースポーツ(FF/6MT)……309万円
ホットハッチ「アバルト・プント」に、さらにパワフルなグレードが登場。その走りを、富士スピードウェイのショートサーキットで試した。
3モデルで再スタート
2009年2月の日本導入以来、玄人好みな魅力でイタ車ファンの人気をキープし続けている、“アバルトチューン”の「フィアット・プント」。そのグレード体系が、このたび「アバルト500」シリーズとともに変更された。
まず最もベーシックなモデルが、「アバルト・プント」。その上級モデルが「アバルト・プント スーパースポーツ」で、さらにチューンを極めた「アバルト・プント スコルピオーネ」も、世界限定199台(日本市場は40台)で販売される。
それにしてもアバルト・プント、ややこしいのは車名の変遷である。
最初に登場したときは、「アバルト・グランデプント」だった。2010年10月には、進化とともに「アバルト・プント エヴォ」になり、2012年10月からは「アバルト・プント」。これまで2回も名前が変わっている。
度重なる変更の理由は、ベースとなるフィアット・プントが、ころころと名前を変えたせいだが、とにかくこのたび、シンプルな「アバルト・プント」に落ち着いたというわけである。
車名は変わっても、その内容はプント エヴォから変更なし。エンジンは、インタークーラー付きの1.4リッター直4ターボ「マルチエア」。アウトプットは163ps/5500rpm、23.5kgm/2250rpmで、トランスミッションはコンベンショナルな6段MTのみ。アバルト500に見られる、オートマ走行も可能なロボタイズドMTは用意されない。
なお、人気のオプションである「アバルト・プント エッセエッセKONIキット」(エンジンパフォーマンスが180ps、27.5kgmへ向上。ブレーキシステムやサスペンションも強化品になる)と、「アバルト プントKONIキット」(足まわりのみアップグレード)も、これまでどおり用意される。
スペシャル仕様はお買い得!?
今回試乗したアバルト・プント スーパースポーツは、エンジンに手が入れられており、エッセエッセKONIキット装着モデルと同じ180ps、27.5kgmを発生する。これに加えて足まわりも変更されるアバルト・プント スコルピオーネは、いわば“エッセエッセKONIキット装着車”そのもの。サベルト製のスポーツシートや専用18インチアロイホイールも与えられ、347万円で販売される。
こうしたグレード展開をするのは、アバルト500と同じ理由からだ。つまり、車両購入者の多くが初めにエッセエッセKONIキットを注文するので、「最初から組み込んだモデルも用意しましょう」というわけである。
さて、アバルト・プント スーパースポーツは足まわりこそ標準のアバルト・プントと同じだけれど、それでも、ボディーがアバルトのイメージカラー「グリージョ カンポヴォーロ」(グレー)で塗られ、ルーフとボンネットにマットブラックのストライプがあしらわれるなど、きちんと差別化も図られている。エッセエッセKONIキットが単体で54万5000円もすることを考えると、ベース車(289万円)+20万円でこの仕様が手に入るのは、お買い得と言えそうだ。
そのお値打ちモデル、乗り込んでまず印象的なのは、“着座感”がとても自然なこと。「フィアット・パンダ」とシャシーを共用する同社の「500」と比べては失礼かもしれないが、プントはいわゆる“イタリアンポジション”とは無縁。シートバックを寝かせ、ペダルとの位置関係を優先させても、ステアリングホイールのチルト&テレスコピック機構を使えば、理想的な運転姿勢を作り出すことができる。
ついでに言えば、視界とドライビングポジションが良好なのは、いまのフィアットの「クルマに対する向き合い方」を表しているような気がする。ようするに、極めてまともなのだ。
要は、使い方次第
180psにまで高められたエンジンパワーは、正直なところ、リッターあたり約130ps(!)という数字から想像するほど刺激的ではなかった。ただし、今回走行したのは、富士スピードウェイのショートサーキット。特殊な走行環境もそう感じさせた要因ではあると思う。
というのも、このコース、全体的にそれほど車速が上げられない。アップダウンも激しいので、どうしても低速からの全開加速が主な評価ポイントになってしまうのだ。そんな環境下だと1260kgの車重がもろに影響してしまい、アクセルペダルをいかに踏み込んだところで、さほど「速い」とは感じられないのである。
本来プントは、その長いホイールベースを生かして中高速コーナーを走るのが得意なのだと思う。豊かなトルク特性を生かしてシャシーをコントロールしながら走れば、実に安定したハイスピードドライビングが堪能できるはずである。
そういう意味では、KONIキットの付かない身のこなしも少し苦しかった。ロール剛性がまったく足りないわけではないのだが、大きな荷重が急激に掛かるミニサーキットでは“最後の一踏ん張り”が利かない。フロント荷重が大きくなった場面でバンプラバーにタッチしてしまうのか、ターンインで、マシンの向きが狙いから微妙にズレてしまうのである。アバルト500は、たとえ“素”でも、きっちりと“基本に忠実な走り”を可能とするが、アバルト・プントの場合は、足まわりがノーマルだと、ちょっと重さが前面に出てくるようだ。
往年の「アバルト124ラリー」をトリビュートした勇ましい外観。それにふさわしい“熱い走り”をしたいなら、足まわりのチューニングは必要かもしれない。
「だったら最初からKONIキット付きにすればいいじゃん」と思われるかもしれないが、サーキットなど走らない人にとってみれば、これは「速くて、快適で、かっこいいアバルト・プント」。そしてマニアにとっては「サスペンションチューニングの自由度を残してくれたアバルト・プント」なのである。アバルトは、それを欲しがる人の気持ちが、とてもよくわかっている。
(文=山田弘樹/写真=田村弥)

山田 弘樹
ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。

