トヨタ・マークX 350S “G’s”(FR/6AT)【試乗記】
ドイツ物を思わせる 2013.02.15 試乗記 トヨタ・マークX 350S “G’s”(FR/6AT)【短評】……452万1405円
専用チューンを施し「走りの味」を追求したという、トヨタのコンプリートカー「マークX G's」。実際に乗ってみたら、どうだった?
外見より中身
「マークX G's」をひと目見た瞬間、佐藤浩市部長の娘さんのことが気になった。オリジナルのマークXは、昔はやんちゃもしたハンサムなお父さんという雰囲気だから、娘さんが助手席に乗っても違和感を覚えなかった。
けれども眉毛をそってコワモテになったマークXに、あの品のよさそうなお嬢さんは乗ってくれるのだろうか。そしてお父さんに失恋の悩みを打ち明けてくれるのだろうか。
てなことをモヤモヤ考えながら乗り込んで、運転席に座った瞬間、モヤモヤが少し晴れた。ステアリングホイールやシフトセレクター、それにシートなどに施されたステッチの鮮やかな赤が、目に飛び込んできたからだ。G's専用の文字盤が白いメーターも新鮮だ。
オリジナルのマークXのインテリアは落ち着いた雰囲気ではあったけれど、落ち着きすぎてお父さんよりおじいちゃんに似合いそうだった。浩市部長のお嬢さんも、インテリアはこっちを支持するのではないか。
順序が逆になってしまったけれど、「G's(ジーズ)」とはトヨタがレース活動で得たノウハウを注ぎ込んだスポーツ仕様。「クルマの楽しさや夢を、より多くの人に楽しんでもらうために生まれたのがG SPORTS(通称G's=ジーズ)です」(オフィシャルHPより)とのことだ。
専用の足まわりの開発にはGAZOO Racingのテストドライバーが関わっており、サスペンションのセッティングだけでなくボディー剛性や空力性能の向上といった根っこの部分まで手が入っている。マークXには2.5リッターV6エンジンを積む「250G“Sパッケージ・G's”」も用意されるけれど、今回試乗したのは3.5リッターV6の「350S“G's”」だ。
いざ走りだして、「ほほーっ」とうなる。
走りの違いは体感できる
ノーマルよりフロントを約20mm、リアを約15mmローダウンしたサスペンションは、はっきりと硬い。特に市街地だと、路面の凸凹をダイレクトにドライバーに伝える。
それでも「ツラいな〜」とは感じない理由は、ガッチリしたボディーが路面からのショックをしっかりと受け止めるからだ。ビシッとくる衝撃は瞬時に吸収され、イヤな振動を残さない。だから乗り心地は硬いけれど、粗くはない。資料を見ると、ボディー下まわりのあちこちに補強パーツが装着されているほか、溶接のスポット追加なども施されているけれど、確かに効いている。
スピードを上げると、鍛え抜かれた足腰がステアリングの正確さにつながっていることが明らかになる。
車線変更をする時、ウインカーを操作した右手がステアリングホイールに戻った時には、すでに車線変更が始まっているかのような錯覚に陥る。そして自分がステアリングホイールを操作する量とスピードが、寸分の狂いなく前輪に伝わっているように感じる。
コーナリングも同じだ。さぁコーナーだとステアリング操作を意識した瞬間に、すでに曲がりはじめているような印象で、とにかく操舵(そうだ)に対する遅れが全然ない。
速度を上げると乗り心地の硬さも気にならなくなる。どちらかといえばボヨヨ〜ン系の乗り心地を好む自分であるけれど、姿勢変化の少ない締まった乗り味は気持ちがいいとさえ感じた。硬いけれど粗くはない、と書いたのはここで上方修正。硬くて上等な足だ。ポルシェやBMWに通じるスポーティーさがある。
専用の4ポットキャリパーのブレーキシステムも、ストッピングパワーが十分なことに加えて、カチッとしたペダルの踏み応えがうれしい。このあたりのフィーリングも、ドイツ物を思わせた。
“薄味エンジン”も悪くない
マフラーが専用のものに換えられているけれど、エンジンとトランスミッションはノーマルと同じ。最高出力は318psと十分だし、6段ATの変速は素早くてショックも少ないから特に不満は感じない。
でも正直なところ、びしっとキマった足まわりと比べると、見劣りしてしまうのは事実だ。これ以上のパワーはいらないので、胸がわくわくするような音だとか、ため息が出るような回転フィールだとか、“味”の部分でもう少し楽しませてほしい。
と、試乗した時には思ったわけです。でもしばらく時間がたったいま、あのパワートレインはあれでもいいのではないかと、コロッと意見がひっくり返る。
「数学の成績が上がったんだから国語もがんばれ」的に要求すると、結局、バランスのいいフツーのクルマが出来上がってしまうような気がするのだ。一点突破で突き抜けた、このG'sみたいなクルマが必要ではないか。
そうだそうだ、八方美人の優等生でばかりでなく、こういう一芸に秀でた不良がいるからこそ、クルマ界も盛り上がる。
初めて見た時には気が合いそうもなかったのに、試乗を終える頃には共感してしまった。気合の入りすぎたルックスだけは最後までなじめなかったけれど、乗ると抜群にいい。初めて価格を見た時には頭の中に「?」が浮かんだのに、試乗を終える頃には納得してしまった。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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