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【スペック】全長×全幅×全高=4905×1900×1375mm/ホイールベース=2850mm/車重=1910kg/駆動方式=FR/4.4リッターV8DOHC32バルブツインターボ(560ps/6000rpm、69.3kgm/1500-5750rpm)/価格=1695万円(テスト車=1740万5000円/Mライトアロイホイール・ダブルスポークスタイリング343M=26万円、フロントベンチレーションシート=19万5000円)

BMW M6クーペ(FR/7AT)【試乗記】

Mの宿命 2013.01.20 試乗記 高平 高輝 BMW M6クーペ(FR/7AT)
……1740万5000円

今や速さだけではスーパースポーツカーとは呼べない。日常的に乗れる柔軟性も不可欠で、それが「現代的高性能」というもの。すなわちMの宿命なのだ。
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ちょっと前ならレーシングカー

全力加速するとちょっと気が遠くなる車、慣れていない人ならまず間違いなく気分が悪くなるほどの強烈な加速力を持つ車はめったにあるものではない。しかも、真っすぐフル加速するだけなら特別な技量は必要なし、スロットルペダルをただ踏みつけるだけ。それでいながら、大渋滞の中でも一切気難しさを見せず、完璧な空調と上等な仕立てによって快適な空間を提供し、アイドリングストップさえ備える。そんな車となるとさらにまれである。メディアはどうしてもすごい車、高性能な車ばかりを取り上げがちだから、金さえ出せばそれが当たり前のように思えるかもしれないが、決してそんなことはない。悪魔のような速さだけならまだしも、天使のような包容力も持ち合わせた車となると、今なおごく限られているのだ。

といっても、高性能と実用性の両立を主張するメーカーは実際にいくらでもあるが、問題はそのレベルだ。何しろ「M6」のパワーユニットは560ps(412kW)/6000rpmと69.3kgm(680Nm)/1500-5750rpmを発生、「M DCTドライブロジック」と称する7段ダブルクラッチ・トランスミッションを装備し、BMWによると0-100km/h加速は4.2秒だという。これはひと昔前ならルマン24時間レースに出場するプロトタイプレーシングカー並みのパワーであり、速さもいわゆるスーパーカーレベルである。
加速データは例えばかつての「フェラーリF40」を軽く上回るものだが、F40の場合は岩のように重いクラッチと、正確さが求められるシフトレバーを電光石火で操作しなければならなかったし、日常走行に使っている人を見たこともない。それに対してM6は、いつでも誰でも、それこそAT限定免許取りたてのママでも幼稚園の送り迎えに使うことができる。これこそ技術の進歩と言うべきだろう。

全長は4905mmと大柄。サイドビューはいかにも2ドアクーペらしい、伸びやかで優美なもの。
全長は4905mmと大柄。サイドビューはいかにも2ドアクーペらしい、伸びやかで優美なもの。 拡大
バルクヘッドに寄せて搭載された4.4リッターV8ツインターボエンジンがこの車のただならぬ素性を物語る。
バルクヘッドに寄せて搭載された4.4リッターV8ツインターボエンジンがこの車のただならぬ素性を物語る。 拡大
カーボンファイバーのインテリアトリムがスポーティーな雰囲気をかもし出す。
カーボンファイバーのインテリアトリムがスポーティーな雰囲気をかもし出す。 拡大
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「M」の文字に何を思うか

BMW M社は昨年、その前身たるBMWモータースポーツ社から数えて創立40周年を迎えた。当然MはモータースポーツのMであり、ドイツ語で言うMOTOR(エンジン)のMだったが、創立から40年もたてばMの文字が意味するところも変わって当たり前だ。
Mと聞けば今でも、名高いビッグシックスを積んだ「M635」やツーリングカーレースで一世を風靡(ふうび)したE30型初代「M3」を思い浮かべ、あのダイレクト感やむき出しの野性味などを懐かしむ人も少なくないはず。おそらくはそういう向きが、新しいM6の4.4リッターV8ツインターボは洗練されすぎていると難色を示すのだろう。
とりわけ先代の「M5/M6」が、まるでレーシングユニットのような専用設計の5リッターV10を搭載していたために、ノーマル系ユニットをベースにした新型V8ツインターボが“普通”に見えてしまうに違いない。たとえ新型が出力でおよそ10%、トルクで30%従来型V10を上回り、さらには燃費も30%以上改善されているとしても、8000rpm以上まで突き抜けるように回るあのV10の回転フィーリングには代えられないというわけだ。

クルマ好きとしては、もちろんその気持ちも理解できないわけではないが、それはしょせんスポーツモデルが洗練された新型に生まれ変わるたびに繰り返されてきた繰り言である。
より実用的で扱いやすくなると、決まってやれピュアでなくなった、堕落したなどと批判する人がいるものだが、どのようなプレミアムブランドであれ、あくまで量産工業製品を作り出すメーカーである限り、社会的な要請に応えたより素晴らしい自動車を追求するのは必然であり、正義だと言えるだろう。結果として、扱いやすい車になったからといって文句をつけられる筋合いはまったくない。
もし本当に、マニアックな趣味性も備えた特別な車が欲しいのなら、そもそもM6クーペの1695万円は安すぎるのではないか。乱暴を承知で引き合いに出せば、まったく同じ560psを発生するV10を積む「レクサスLFA」は限定500台で3750万円、しかもこれも法外な廉価販売であり、たとえ車両価格1億円でもペイしないとうわさされているのだ。

運転席と助手席に多方向の調整が可能な「Mマルチファンクションシート」が装着される。試乗車にはベンチレーション機能が追加されたオプションシートが装着されていた。
運転席と助手席に多方向の調整が可能な「Mマルチファンクションシート」が装着される。試乗車にはベンチレーション機能が追加されたオプションシートが装着されていた。 拡大
トランスミッションはダブルクラッチ式の7段「M DCTドライブロジック」。さまざまな路面におけるトラクション確保に貢献する「アクティブMディファレンシャル」も標準装備。
トランスミッションはダブルクラッチ式の7段「M DCTドライブロジック」。さまざまな路面におけるトラクション確保に貢献する「アクティブMディファレンシャル」も標準装備。 拡大
ルーフパネルは標準でカーボンファイバー製に。スチール製と比較してパーツ重量は半分程度に収まり、車両の低重心化に貢献する。
ルーフパネルは標準でカーボンファイバー製に。スチール製と比較してパーツ重量は半分程度に収まり、車両の低重心化に貢献する。 拡大

さりげなく超高性能

もう少し上から目線で言わせてもらえば、誰にでも扱えるから面白くないという人ほど、その車の実力をすべて引き出したことがないのではなかろうか。気分が悪くなるほどの加速性能を持つM6のパフォーマンスを全開にする人、できる人がどれだけいるのか、と考えれば、少なくとも一般路上ではプロでもなかなか難しいはずだ。
2トン近い車重の、大きなボディーを重く鈍く感じさせないだけでなく、舗装路面を削り取るような暴力的な加速力を思い切り試すならやはりクローズドコースがふさわしい。そこで繰り返しになるが、サーキットでの本気のスポーツ走行から毎日の通勤にまで問題なく使えるクルマなど、そうそうあるものではない。サーキットでまったく音を上げず、かつ安心して日常的に乗れるドライバビリティーと信頼性を備えた高性能スポーツカーというものは、ちょっと前までは「ポルシェ911」ぐらいのもの、今でもそれにAMGとMを加えれば済む程度と言っていい。M6はそんな数少ない一台である。

300km/h級の高性能車(Mモデルには250km/hの紳士協定リミッターを解除する特別パッケージもある)であることをひと目で知ってもらうには大げさなリアスポイラーなどがあればいいのかもしれないが、大人の見えはやはり裏地ではなくボンネットを開けて張るべきだ。近頃では珍しくじっくりと眺めるに値するエンジンルームだ。
いかにも頑丈そうなアルミダイキャスト製の大きなストラットドームに挟まれて、バルクヘッドに食い込むように搭載されたV8エンジンのバンク内にはツインスクロールターボが2基収められている。補機類もみっしり詰まっているが、いかにも効率よく整然としたこの眺めだけでM6の素性がうかがえるのではないだろうか。それを見ても何も感じない人には何かを言う必要はないでしょう。M6とは本来そういうクーペである。

(文=高平高輝/写真=高橋信宏)

スーパーカークラスの動力性能を誇る一方で、アイドリングストップ機能やブレーキエネルギー回生システムを装備するなど環境にも留意している。
スーパーカークラスの動力性能を誇る一方で、アイドリングストップ機能やブレーキエネルギー回生システムを装備するなど環境にも留意している。 拡大
標準のホイール径は19インチ。試乗車はオプションの20インチを装着していた。タイヤサイズはフロント:265/35R20、リア:295/30R20。
標準のホイール径は19インチ。試乗車はオプションの20インチを装着していた。タイヤサイズはフロント:265/35R20、リア:295/30R20。 拡大
今回の試乗距離は約270km。車載計による燃費(全行程の総平均)は7.7km/リッター、満タン法だと6.8km/リッターだった。
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