ロータス・エリーゼS(MR/6MT)【試乗記】
さらに自由自在 2012.09.14 試乗記 ロータス・エリーゼS(MR/6MT)……713万4000円
新世代のエクステリアをまとい、日本の道に“復活”した「ロータス・エリーゼS」。スーパーチャージャーで武装した、最新型ライトウェイトスポーツカーの走りをリポートする。
期待高まる復活モデル
「ロータス・エリーゼS」と聞いて今でも思い出すのは、2006年に『webCG』で取り上げたあのクルマだ。エリーゼのエンジンがローバー製からトヨタ製に全面変更された直後で、賛否両論が巻き起こる中での試乗だったけれど、4日間500kmが楽しくて仕方がなくて、編集部に戻す直前はこみ上げてくる感情を抑えるのに必死だった。
あれから6年。久しぶりにエリーゼSに乗る機会が巡ってきた。しかし今回の個体は、以前のエリーゼSの後継車ではない。2010年に行われたマイナーチェンジで、かつての“S”は、エンジンを1.8リッターのトヨタ1ZZ-FE型から1.6リッターの1ZR-FAE型に積み替えたのを機に、単に“エリーゼ”と呼ばれるようになったからだ。
しかもこのときには他の2車種、高性能版の1.8リッター2ZZ-GE型を積む「エリーゼR」と、スーパーチャージャーを装着した「エリーゼSC」はフェイスリフトを行いつつ販売が継続されたけれど、その後間もなくこの2車種はラインナップから落とされている。新型エリーゼSはこのうち“SC”の後継車で、2ZR-FE型と呼ばれる新しい1.8リッターに、スーパーチャージャーを装着したエンジンを積む。
名前はともかく、なぜ頻繁に車種の入れ替えがあったのか。理由はトヨタ製エンジンの世代交代が行われたためだ。それまでのZZ系は、「セリカ」や「MR-S」に積まれていたことで分かるように、ひと世代前のパワーユニットだったのだ。
残念ながらZR系には、エリーゼRに積まれていたような自然吸気の高性能ユニットがない。そこでエリーゼSは、SCだけでなくRの後継という位置付けがなされた。SCではなくSを名乗るのはそのためかもしれないけれど、610万円という価格はたしかに、680万円だったSCより、588万円のRに近い。
でもこの値付けがコストダウンの結果と考えるのは間違いだ。性能面ではむしろアップしているからである。
パフォーマンスも視界も良好
同じ1.8リッターから導き出される最高出力は220psと従来どおりだが、発生回転数は8000rpmから6800rpmへと、より現実的になっている。最大トルクの発生回転数は4600rpmで共通なれど、こちらはピークが21.4kgmから25.4kgmに向上している。
車両重量が920kgから950kgに増えているので、0-100km/h加速は4.6秒のまま。でも最高速度は1km/hだけ伸びて234km/hになっているし、それ以上に、ヨーロッパのエコ指標としてすっかりおなじみの、1km走行あたりのCO2排出量が199gから175gに激減していることに注目すべきだろう。
パフォーマンスアップの秘訣(ひけつ)はインタークーラーにある。エリーゼ系のスーパーチャージャーはまず「エキシージ」に搭載されたが、空冷式インタークーラーをエンジンの上に背負っていたので後方視界が絶望的だった。そこでエリーゼSCではインタークーラーなしとした。当然パワーやトルクは控えめになった。
しかし新型エリーゼSでは、水冷式インタークーラーを新開発することで、タイトなエリーゼのエンジンルームに収めることに成功したのだ。
ロータスはカタログ上で、このパワーユニットを「チャージ・クールド・エンジン」と呼んでいる。この名称を見て、僕は同じロータスの「エスプリ ターボSE」を思い出した。「エスプリ ターボ」にインタークーラーが装着されたのはこの「SE」から。エリーゼ同様、狭いエンジンルームにインタークーラーを格納すべく、水冷式を選択した。その名称が、チャージ・クーラーだったのだ。
五感を刺激する走り
エクステリアは、リアスポイラーがサイドにまで回り込んだことが他のエリーゼとの違い。おまけに試乗車はセットオプションの「スポーツパック」を装着していたので、フロント16インチ、リア17インチのアルミホイールは鍛造になっていた。でも、それ以外は同じ眺めだ。
インテリアも共通なので、早速スタート。ベーシックなエリーゼより重いクラッチをミートして走りだすと、加速はやはり段違いだ。あまりに強烈なので、公道でフルスロットルを試すのは容易ではない。力不足に悩む場面もあったベースモデルとの差は絶大だ。
でもさすがはロータス、無機質な速さとは違う。レスポンスは旧型のSCより自然になったが、英国車らしい“丸み”が残っている。もし反応に不満があるなら、スポーツパックに用意されるスポーツモードを選択すればいい。シフトレバー脇にあるボタンを押せば、モダンなスポーツカーにふさわしい鋭いレスポンスを返してくれる。
それに音がいい。3000rpmあたりからの野太い排気音は、同じ水冷式インタークーラーを備えたエスプリ ターボSEそっくりだった。この音を聞くためにも、ルーフはオープンにしたくなる。
スポーツパックにはビルシュタインダンパーも含まれていた。そのためか乗り心地は硬めだったが、鋭いショックは絶妙にいなしてくれるので不快ではない。以前乗ったSCはシャシーが安定志向、つまりアンダーステアが強く感じたが、新しいエリーゼSはベースモデルのようなヒラヒラ感を味わえた。それでいてパワーとトルクに余裕があるから、右足の踏み具合で姿勢を自在に変えられる。
もっともコーナリングスピードは相応に高いので、横Gはキツくなるし、ステアリングはずっしり重くなるなど、格闘的要素が強まるのも事実。ライトウウェイトスポーツらしい爽やかさを前面に押し出したベースモデルに対して、スーパースポーツ的な要素を強めたエリーゼという感じがした。Sの意味するところが、なんとなく分かった。
(文=森口将之/写真=高橋信宏)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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