スバル・レガシィツーリングワゴンGT-B E-tune(4AT)【ブリーフテスト】
スバル・レガシィツーリングワゴンGT-B E-tune(4AT) 2001.03.02 試乗記 ……343.3万円 総合評価……★★★★彼らの考える高級
わざわざ高いカネを払いたくなる充実した内容のクルマとして、ここまでレガシィツーリングワゴンは、国産同クラスの他車を圧倒的に引き離してきた。ほとんど同クラスとは思えないほどの格差でもって。さしずめ、ひとりメジャーリーグ状態(ほかは阪神タイガース)。
その最大の要因は、「こんなもんでしょ」の正反対の真摯なクルマづくりを、スバルが倦まず弛まずやってきたことにある。で、はたせるかなよく売れている。弱小な販売体制にもかかわらず。あるいは、類似品がいくつか登場しているにもかかわらず。やはり、お客はちゃんとモノを見ている。
今回乗って、やはりヨカッタ。渋滞下といわずハイウェイといわず、とにかくこのクルマは走る状況に関係なくひたすらラク。ハードウェアの優秀さがもたらすマージンを、たとえばの話、ロクヨンとかシチサンぐらいの割合で、「乗員のリラックス」のために多く使っている感じ。ハンドルをはじめとした操作力の軽さやいわゆる静かさ、あるいは感触の上質さへの対策も、旧型や現行インプレッサと比べて明らかに念入りだ。
全体として、レガシィは、スバル内における位置づけをより明確にしてきている。彼らの考える高級とはこういうものだ、というふうに解釈してもいいかもしれない。
【概要】 どんなクルマ?
(シリーズ概要)
1998年6月17日に登場した3代目レガシィ。看板モデルたる「ツーリングワゴン」、車高を上げ、SUV的な性格が与えられたワゴン「ランカスター」、そしてスポーティセダン「B4」に大別される。ツーリングワゴンは、ボディサイズを5ナンバー枠にとどめたまま、ホイールベースを20mm延長して室内空間を稼ぎ、ボディ剛性を上げ、リアにマルチリンク式サスペンションを採用したのが新しい。エンジンは、2.5リッターNA(自然吸気)、2リッターターボ、同NAのDOHCとSOHCがラインナップされる。すべて水平対向4気筒だ。駆動方式は、全車4WD。
(グレード概要)
GT-B E-tuneは、レガシィツーリングワゴン中もっともスポーティなモデル。260ps(4AT/5MT車は280ps)を発生する2リッター「2ステージ」ターボを搭載する。2ステージとは、大小2つのタービンを用意し、低回転域では小さな「プライマリー」側を、中高回転域では2つとも作動させて、スムーズな出力特性を得ようというもの。4WDシステムも凝っている。AT車は、前:後=35:65を基本に、走行状態によって50:50までトルク配分を変化させる「VTD-4WD」システムを採る。MT車は、センターデフによってトルクを50:50に分け、状況に応じてビスカスカプリングで可変させる「ビスカスLSD付センターデフ」方式だ。
【車内&荷室空間】 乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
3代目レガシィつまり現行モデルの開発をとりまとめた桂田勝スバル開発本部商品開発主管は、車体のカタチに関して、視界その他の「機能要件」を徹底的に優先させた。それこそ、スタイリストが腕を振るう余地を奪いつくさんばかりだったらしい(本人談)。ヘッドライトやテイルライトの形状など、外観がグラフィックデザイン過剰気味なのは、ひょっとしてその反動か?
ということで、左右Aピラーおよび前面ガラスとボンネットの位置や角度や見え方はかなりいい。運転しやすいものになっている。お絵描きではない、真の意味でのデザインの仕事がキッチリやってある。このへん、少々クレイジーとすらいいたくなる造形のクルマが最近は多いにもかかわらず。したがって、レガシィは非常に貴重である。
インパネおよびダッシュボードは、お絵描きやシボなどのテクスチャー表現、つまり見た目の質感に関してはあまり巧妙とはいえない。が、やはり基本の立体形やスイッチ類の配置は適切。運転しやすさに確実に貢献する。
(前席)……★★★★
ソフトなかけ心地と、いわゆるサポートのしっかり具合と、さらに乗り降りのしやすさをすべて高いところでまとめた。疲れない。基本的に優秀だ。ただ、シート調整が、背もたれだけ手動なのはちょっと残念。しかも、レバーを引き上げたときに、背もたれの角度を起き上がらせるバネのトルクが弱すぎて使いづらい(というかちゃんと起き上がってこない)。その瞬間だけ、「ああ国産車!」。電動化の検討も含め要改善。
(後席)……★★★★
前席にも言える欠点として、ヘッドレストのステーの短さがある。これでは、のばして使った場合、万が一のときに頭をシッカリ支えてくれるのか?という疑問が拭えない。「ああ国産車」(ステーだけ長くすればオッケーというものでもないけれど)。ただし、居住空間設計のツメは、日本車として異例なほど頑張ってやってある。シートのかけ心地もいい。ちゃんと作れば、全幅1700mm未満でもこれだけのことができるという好例。タクシーに使ってほしいくらいだ。そういえば、レガシィのタクシーというのを見たことがない。雪国にはもってこいだと思うがいかがか。ドライバーや乗客の福利厚生上も文句なしだと思う。
(荷室)……★★★★
荷室床面を低くフラットに抑え、なおかつ左右からのジャマな出っ張りも、可能なかぎり小さくされたラゲッジルーム。
後軸荷重の変動幅のデカさがそのまま操縦性の変化のデカさにならないように。もちろん、いわゆる快適さも常に高レベルであるように。で、初代レガシィから数えてバージョン2.0 ともいえるマルチリンクをリアサスに採用した。普通にちゃんと走るだけ(?) なら、従来からの形式=ストラットで十分オツリがくることはインプレッサで証明されている
【ドライブフィール】 運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
穏やかな発進の直後の、やはり穏やかな踏み増しにも、すかさず「クッ」と反応する「2ステージ」ツインターボ。プライマリー側の目覚めは相当早い。「ああ、レガシィのターボにしてよかった!」と思える瞬間である。で、そこから疾風怒濤走行までの全領域において、パワー特性のグラデーションはほぼ自由自在に濃淡をコントロールできる。つまり、きわめてデキがイイ。先頃のマイチェンで極低速極低負荷域の活発さが格段に向上したので、せっかくだからMTを薦めたいが、しかしオートマも違和感特になしだった。運転していて気持ちがルーズにならない。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
ゴツいタイヤのゴツさをそのまま乗員に伝えていない、という点でまず合格。これだけの高性能車にしてちょっと意外なほどのハンドル操作力のカルさは、すなわちそこまでカルくしてもクルマの動きが危ないことにならないという余裕のあらわれでもある。実際、走っていて見事なほどコワさを感じなかった。
ビスカス一発系とは明らかに違う純正フルタイム4WD のトラクションおよび安心感は、速度を問わず常に体感可能。その反面、ヨンク特有のガンコな真っ直ぐ走りたがるクセをまったく感じさせないのは、可変トルク配分機構「VTD-4WD」の効果であろうか。
なお、GT-Bジマンのビルシュタイン社製ダンパーのありがたみは常に明瞭。体感上、明らかにアシの動きのフリクションが少ない。ただ、あえていえばダンパーのスムーズさだけが突出している印象は少々あった。クルマ側がそこを乗り越えた暁には、きっとスバルはビーエムやポルシェの領域に迫るであろう。
(写真=高橋信宏)
【テストデータ】
報告者:森 慶太
テスト日:2001年2月1日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2001年型
テスト車の走行距離:1万2174km
タイヤ:(前)215/45R17/(後)同じ(いずれもブリヂストン Potenza RE010)
オプション装備:マッキントッシュサウンドシステム+本革シート+スポーティパック(濃色ガラス/ルーフスポイラー)+タンデムサンルーフ
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5):高速道路(5)
テスト距離:--
使用燃料:--
参考燃費:--

森 慶太
-
アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
-
ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
-
アルピーヌA110アニバーサリー/A110 GTS/A110 R70【試乗記】 2025.11.27 ライトウェイトスポーツカーの金字塔である「アルピーヌA110」の生産終了が発表された。残された時間が短ければ、台数(生産枠)も少ない。記事を読み終えた方は、金策に走るなり、奥方を説き伏せるなりと、速やかに行動していただければ幸いである。
-
ポルシェ911タルガ4 GTS(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.26 「ポルシェ911」に求められるのは速さだけではない。リアエンジンと水平対向6気筒エンジンが織りなす独特の運転感覚が、人々を引きつけてやまないのだ。ハイブリッド化された「GTS」は、この味わいの面も満たせているのだろうか。「タルガ4」で検証した。
-
ロイヤルエンフィールド・ハンター350(5MT)【レビュー】 2025.11.25 インドの巨人、ロイヤルエンフィールドの中型ロードスポーツ「ハンター350」に試乗。足まわりにドライブトレイン、インターフェイス類……と、各所に改良が加えられた王道のネイキッドは、ベーシックでありながら上質さも感じさせる一台に進化を遂げていた。
-
NEW
アウディがF1マシンのカラーリングを初披露 F1参戦の狙いと戦略を探る
2025.12.4デイリーコラム「2030年のタイトル争い」を目標とするアウディが、2026年シーズンを戦うF1マシンのカラーリングを公開した。これまでに発表されたチーム体制やドライバーからその戦力を分析しつつ、あらためてアウディがF1参戦を決めた理由や背景を考えてみた。 -
NEW
第939回:さりげなさすぎる「フィアット124」は偉大だった
2025.12.4マッキナ あらモーダ!1966年から2012年までの長きにわたって生産された「フィアット124」。地味で四角いこのクルマは、いかにして世界中で親しまれる存在となったのか? イタリア在住の大矢アキオが、隠れた名車に宿る“エンジニアの良心”を語る。 -
NEW
あの多田哲哉の自動車放談――ロータス・エメヤR編
2025.12.3webCG Movies往年のピュアスポーツカーとはまるでイメージの異なる、新生ロータスの意欲作「エメヤR」。電動化時代のハイパフォーマンスモデルを、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんはどう見るのか、動画でリポートします。 -
タイで見てきた聞いてきた 新型「トヨタ・ハイラックス」の真相
2025.12.3デイリーコラムトヨタが2025年11月10日に新型「ハイラックス」を発表した。タイで生産されるのはこれまでどおりだが、新型は開発の拠点もタイに移されているのが特徴だ。現地のモーターショーで実車を見物し、開発関係者に話を聞いてきた。 -
第94回:ジャパンモビリティショー大総括!(その3) ―刮目せよ! これが日本のカーデザインの最前線だ―
2025.12.3カーデザイン曼荼羅100万人以上の来場者を集め、晴れやかに終幕した「ジャパンモビリティショー2025」。しかし、ショーの本質である“展示”そのものを観察すると、これは本当に成功だったのか? カーデザインの識者とともに、モビリティーの祭典を(3回目にしてホントに)総括する! -
日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】
2025.12.3試乗記「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。































