スズキ・グランドエスクード(4AT)【試乗記】
『国際的本格派の憂鬱』 2000.12.15 試乗記 スズキ・グランドエスクード(4AT) ……229.8万円 2000年12月12日、スズキの小型SUV「エスクード」をストレッチ、3列シートを実現した「グランドエスクード」が登場した。「クロスカントリーセダン」が開発テーマのエスクードに対し、こちらは「クロスカントリーワゴン」。デビュー2日後、千葉県幕張にて、プレス向け試乗会が開催された。2.7リッター、3列シート
グランドエスクードの試乗を終え、スズキのエンジニアの方にお話をうかがった。
--- グランドエスクードは3列シートということで、たとえばホンダ・ストリームがライバルになるかもしれませんね
--- そうですね!
---ユーザーにとって、いまやクルマのカテゴリーなんて意味を失っていますから
--- そうですね!!
--- そう考えた場合、ストリームに対するアドバンテイジは何ですか?
--- ……本格的な4WDシステムでしょうか……
軟弱な都市生活者には、「本格的な4WDシステム」のありがたみはピンとこないが、きっとそうなのでしょう。
グランドエスクードは、エスクード5ドアモデルのホイールベースを320mm、全長を485mm延長したモデル、とはいえ、全長×全幅×全高=4575×1780×1740mmのボディサイズは、いまだ三菱パジェロよりひとまわり小さい。
「パジェロさんにもビッグホーンさんにも、7人乗りがありますから」というエンジニア氏の言葉通り、シートを3列にして、乗車定員を7名としたことが最大のウリだ。
1620kgと200kg以上重くなったウェイトを補うため、V6ユニットの排気量は、2.5リッター(160ps)から2.7リッター(177ps)に拡大された。
価格は、5ドアの2.5リッターモデルより27.0万円高い、229.8万円。
流行のあとに
スズキのクルマに乗るたびに、「いいな」と思うのが、シンプルなインテリアである。グランドエスクードも、スズキ4WD車のフラッグシップだけあって、本革巻きステアリングホイールや、シフターまわりに木目調パネルが奢られるが、造形に妙に凝ったところがないのでイヤミがない。「万人向け」というより、「謙虚なよさ」がある。
「軽ナンバーワンのスズキ」だけあって(?)、同社のクルマはシートサイズが小さめのモデルが多いが、グランドエスクードは座面長にも不満がない。ソフトだけれどコシのある、いいシートだ。この日は寒かったので、シートヒーターがありがたかった。
ミニバン的側面「シートアレンジメント」も豊富で、6:4に分割されたセカンドシートは、個別にスライドすることが可能。前後に200mmも移動することができる。
3列シート車の弱点として、荷室は小さく、奥行きは30cmほどしかないが、これはサードシートのバックレストを簡単に倒してラゲッジスペースを拡大することができるから、一家郎党7人で夜逃げ、という事態でも生じない限り、実質的な不便はあるまい。
以前、2.5リッターのエスクードに乗ったとき、「ヨンクにはもったいない」と感じたほど嬉々として回ったV6は、200ccの排気量拡大を受け、若干重くなった印象を受けた。しかし、依然としてドライブすると心地よい。
一方、ウィークポイントは、市街地での乗り心地。実際には改まっていうほどは悪くないが、しかし、トヨタRAV4をはじめ、ハリアー、マツダ・トリビュート、日産エクストレイルなど、乗用車ベース、4輪独立懸架のシャシーをもつ「街乗りヨンク(FFモデルあり)」が続々と登場するいま、ラダーフレームと後リジッドサスペンションがもたらす乗り心地は、さすがに古くさい。
シフターの後に備わった、2WD-4WD切り替え用の副変速機を指して「本格4WDの証」、とエバってみても、「カッコだけワイルドっぽければ、オッケー!」という風潮のなかでは、効果なかろう。
しかし、エスクード・シリーズは日本国内ではけっして人気車種とはいえないが、北米ではサイドキック(シボレー・トラッカー)、欧州ではビターラと名を変えて親しまれる国際派である。
「4WDっぽいのが好き!」な人たちが、本格クロカンの乗り心地に疲れ、SUVの大きさに辟易し、再びセダン、ワゴン、もしくは別形態のクルマに移っても、エスクード・シリーズは一定の人気を保っているだろう、というのは、楽観的に過ぎましょうか。
(文=web CG 青木禎之/写真=小河原 認/2000年12月14日)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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