プジョー307 2.0(5MT)【海外試乗記】
徹底した実用車、かつスポーティ 2001.08.02 試乗記 プジョー307 2.0(5MT) 2001年3月のジュネーブショーで正式に披露されたプジョーの新型メイン車種「307」。コンセプトモデル「プロメテ」の市販版ともいえる「2ボックスモノスペース」に、プジョー504を愛車としたこともある自動車ジャーナリスト、笹目二朗がモロッコで乗った。時間とともに理解を深める
プジョー「307」は、いうまでもなくベストセラーモデル「306」の後継車である。206と406とのギャップを埋める使命から、これまでよりやや上級移行して、ボディサイズは、全長4202mm、全幅1746mm、全高1510mmと大きくなった。国際的にみればフォルクスワーゲン・ゴルフと真っ向からぶつかるクラスで、実際、307には“フランス風味のゴルフ”といった趣がある。
プジョー自身が「2ボックスモノスペース」と説明するように、全長に比して短めのノーズと大きなキャビンが特徴で、個性的な外観から想像されるより、なかに座るとずっと広い。ボディが大きくなったことを実感する。先代の、ピニンファリーナによる正統派スタイリングと比較すると、307は、206や日本未導入の607にも似た、より斬新なフォルムときつい目元が特徴だ。ほかのどのクルマにも似ていないエクステリアは、接する時間とともに理解を深めていくタイプだ。車型はいまのところ、3ドアと5ドアのハッチバックのみ。カブリオレやブレーク(ワゴン)は、当面306シリーズのそれが継続生産される。
搭載されるエンジンは、「206 S16」や「406 2.0」でお馴染みの2リッターDOHC16バルブ(138ps)をメインに、最近一新された1.6リッターツインカム16バルブ(110ps)、そして2リッターHDiディーゼル(90ps)の3種である。
日本への登場は通例より早めで、とりあえず「2リッター/4AT/右ハンドル」仕様が、この秋の東京モーターショーに登場して、すぐ販売が開始されるだろう。毎月、前年同月比の販売記録を更新し続けているプジョージャポンにとって、このエース登場は、さらなる飛躍のチャンスである。
日本でも使いやすかろう
試乗会はモロッコという、プジョーお得意の舞台が選ばれた。大粒のザラザラした小砂利が敷き固められたような、舗装路とはいえ路面からの入力が大きなテストコースをわざわざ走らせるのは、ノイズや振動などの処理に自信があるということだろう。
プジョー307は、本当にゴルフみたいだった。やや立ち気味に座るドライビングポジション、高いルーフ、ステアリングホイールまでもセンターオフセット(偏心)されてしまい、これまたまるでゴルフだと思った。
上下動を抑えてピターッとフラットに走るプジョーらしさも薄らいで、やや硬めのサスペンション設定は、ふんわりしたなかにもダンピングの良さが強調されたもの。フランス車の面影はもうなかった。
5段のマニュアルトランスミッションはややローギアードな設定で、5速100km/hでのエンジン回転数は3100rpmと、少々高い。セカンド、サード間がクロースしたものだから、積極的にパワーユニットを回して使うには面白いクルマだ。「ストップ&ゴー」が多い日本の交通事情では、上のギアでクロースするドイツ流より乗りやすかろう。
また、2リッターエンジンは、2000rpm前後の低中回転域でもトルクが豊かで、レスポンスよくモリモリと力持ち。だから、“日本仕様”たるオートマチックトランスミッションとのマッチングもいいはずだ。
足まわりに見るプジョーらしさ
フレンチ風味が効いているのは、120から140km/hくらいで、軽くコーナーをかわすような状況で気持ちがいい。電動ポンプをもつパワーステアリングのフィールは第一級。優劣がハッキリする切りはじめの微舵領域での、操舵感の良さがピカイチだ。プジョーのステア特性は、完璧なニュートラルステアを志向している。たとえばESP(Electric Stability Program:アンチスピンデバイス)といった電子制御装置を搭載したクルマのように、車両の挙動が破綻をきたした状況からの救済措置ではなく、素の状態からニュートラルな特性を身につけている。これは生来の安定性を確保していないと難しい。よほど自信がないとできないことだ。だから普通は、切り過ぎても大きく影響しないアンダーステア寄りに、設定されるものなのだ。
つまり、プジョーは徹底した実用車をつくり、ことさら「スポーティなドライビング感覚」などとは宣伝はしない。「スポーティ」という言葉はビジュアル系の使い方をされるケースも多いが、スポーティかどうかは運転する側の判断である。ステアリングホイールを握るヒトからの要求に応えられるかが問題なのだ。プジョーファンとしては、307の見た目より、実際に運転しての内容に満足するヒトが多いだろう。
リア・サスペンションは、これまでのフルトレーリングアームから、流行しているトーションビーム式(アーム間を捩れるビームで結ぶ)に改められた。しかしチューニングはプジョーらしく、一般的にはアーム付け根近くで左右が結ばれるのに対して、307ではアーム中間付近を結ぶことから、より積極的に捩じらせて、速いストローク域での追従性をあげる工夫もみられる。
そのため、リジット(固定軸)的な一体感は希薄な方で、左右位相差のあるストローク域では、中間でよく捩じれて独立した動きのように感じる。ダート路面を飛ばす状況もあったが、接地性よくバネ下が凸凹を追従する能力の高さを確認できた。こんな時には、トーションビームを中間寄りで繋いだ意味がよく理解でき、バタバタと素早い上下動を繰り返す状況では、動的な瞬間アーム長が短いゆえの周期の短さで対応していた。
アーム取り付け部は、中間の捩じれや単突起のハーシュネスに対するコンプライアンスの容量が十分に大きい。つまり、よく変形を吸収する。一方、トーイン化を大きく許さない設定がなされ、ジャッキングにも対処していた。
プジョー307は、ゴルフを強く意識しているし、個性を殺してインターナショナル化した。けれども、徹底した実用車のカタチや内容を備えたうえで、実はスポーティな操作も受け付けてくれるという、プジョーの血統をちゃんと受け継いだクルマに仕上がっていた。
(文=笹目二朗/写真=プジョージャポン/2001年7月)

笹目 二朗
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