第152回:やっぱり「カブ」も最新が最善? 新型「スーパーカブ50」で東京の坂道を巡る
2012.06.22 エディターから一言第152回:やっぱり「カブ」も最新は最善?新型「スーパーカブ50」で東京の坂道を巡る
いきなり暗い話題で恐縮だが、私は先月「ホンダ・スーパーカブ50」を盗まれてしまった。
あちこち走り回ったお気に入りの愛車で、ついこの前も20日間ほどかけて九州をツーリングし、帰ってきたばかりだったので大変なショックである。
さて次期マシンはどうしようかと思っていたところ、新型のスーパーカブが発売されたので早速試乗させてもらった。
四角目になってもカブはカブ
去る5月25日に46年ぶりのモデルチェンジを果たした「ホンダ・スーパーカブ50」。
私は以前、旧型の「ミニ」を所有していたのだが、古い設計の乗り物は乗っていると我慢しなければならないことがたくさんある。
しかし、スーパーカブは旧モデルでも実用にそれほど支障はなかった。
洗濯機だって炊飯器だって掃除機だって、50年も昔に設計されたものなど店頭には並んでいないのだから、スーパーカブがいかに優れていたかが分かる。
そんな、世界で一番売れた乗り物の新型モデルはどんな具合に進化しているのだろうか。
まず一番目につく変化が、その外観だ。
スーパーカブのアイデンティティーともいえる丸目ヘッドライトが、角目になった。
これは個人的な感想になってしまうが、私が所有していたカブは「カスタム」というグレードのエグゼクティブ向け最高級モデルで(通常の3段・キックスタートに対し4段・セル付き!)、それを誇らしげに主張する角形ヘッドライトが自慢でお気に入りだった。
なので、角目のカブに対して違和感はない。
リア周りのライト類もずいぶん近代的になったが、オフィスビルの駐輪場に紛れ込ませると、ビジネスバイクとして驚くほどぴったりと風景に溶け込んでしまった。
この分だときっと、そば屋の出前機を取り付けてもしっくりとくるだろう。
![]() |
![]() |
![]() |
「屋さん系バイク」で巡る東京の坂道
スーパーカブの“活躍の舞台”といえば住宅街である。
カブといえば、新聞屋さんに郵便屋さんにラーメン屋さん。
スポーツカーなんかのキャッチコピーに「サーキットで鍛え抜かれた」というフレーズが使われるが、カブは○○屋さんに鍛えられた「屋さん系バイク」だ。
そんなカブにふさわしい試乗コースをと思ったのだが、当てもなく街中を走り回るのもつまらないので、東京都内の住宅街に横たわる坂道を巡ってみることにした。
まず向かったのは文京区にある「鷺坂(さぎざか)」。その昔、近くに詩人の堀口大学が住んでおり、(とても長くなるからその経緯は省略するけれど)坂の名前の起こりにも関わっているらしい。
鷺坂は途中でほぼ直角に折れ曲がっている急坂で、道の両脇は石塀となっている。
1速に落とさないと上れないほどの勾配に、カブのエンジンは両足の間でうなる。
盗難に遭って以来久々に聞くこのうなり声、これぞカブだよ。
でもカブなんだけど、ちょっと上品なうなり声になっているように思う。
アマチュアバンドのボーカルがボイストレーニングを受けてきた、みたいな、シャウトに安定感が伴っているような、そんな感じだ。
新型スーパーカブ50の売りのひとつが、発進用と変速用にそれぞれ独立したクラッチを備えた2段クラッチシステムだ。
今までの、「ガション、ガション」というギアチェンジが「カショッ、カショッ」くらいにスムーズになった。おかげでシフトダウンも楽しくなったのだが、シフトペダルの後ろ側を踏み込む際、新たに設けられたスイングアーム付け根のカバーに踵(かかと)が当たってしまうことがあった。足がでかい人は慣れるまで気をつかうかもしれない。
続いて「鉄砲坂(てっぽうざか)」、そして文京区から豊島区へと移動して「のぞき坂」を巡った。
鉄砲坂というのは、ここに射撃練習場があったからその名が付いたそうだ。
のぞき坂は自動車が通れる道としては都内でもNo.1クラスの急坂といわれている。
こういった、街の中にある細かなポイントを巡るのにスーパーカブは最適で、狭い路地を行ったり来たりするのは得意中の得意だ。
もちろんそれは車体の取り回しの良さもあるのだけれど、なによりも街に溶け込むことができるという「屋さん系」カブならではの特権が大きい。私はカブでのツーリングが大好きなのだが、知らない街の細い路地に入っていってもカブだと威圧感を与えないせいか、地元の人に話しかけてもらいやすいし、話しかけやすい。
実は旅の移動手段としてもカブは優れていると思うのだ。
「ふつう」になったウインカー
その後、新宿区の「闇坂(くらやみざか)」、港区の「寄席坂(よせざか)」、目黒区の「別所坂(べっしょざか)」を上り下りした。
いずれも1速じゃなきゃ、すんなり上れない坂だった。これだけ巡ってくると、2速で上れるような坂なんて坂じゃない気がしてきた。
別所坂はクネクネと曲がったあげく、上りきった先は階段になっている。
階段の真ん中部分は自転車用のスロープになっているのだが、そこを新聞配達の「プレスカブ」が駆け抜けていった。
さすが、プロフェッショナルである。
そしてシメは、品川区の「幻坂(まぼろしざか)」だ。
高輪の高級住宅街の一角にある坂道なのだが、古い(けれど貴重っぽくない)建物が残っていていい味だった。
ところで、新型スーパーカブ50に乗ってみて一番戸惑ったのが、ウインカースイッチの場所だ。
これまでのカブは、ハンドル右側に上下に操作するウインカースイッチがあった。
一般的なバイクだとハンドルの左側、それも左右に操作するスイッチになっているのだが、今回のモデルチェンジでそれが「ふつう」になった。
これが一部のカブ好き(私のことだが)には不評なのである。
なぜなら「出前のオカモチを左手に持ったまま片手運転できるように操作系を右に集中させようって本田宗一郎が考えたんだぜ!」という、カブの基本的な哲学を説明する一番のエピソードを(まるで自分の手柄のように)語ることができなくなったからだ。
ところが、いざ乗ってみるとこの左側に付いた最新式のプッシュキャンセル式ウインカーがとても便利なのだ。
さすが現代。
まだ慣れないので交差点のたびに右の親指が空を切るのだが、そのうちきっと「やっぱ新しい方がいいね」ってことになるだろう。
あ、「そのうちきっと」なんて書いてしまった。
そうなのだ。もう新型カブを買う気マンマンなのである。
やっぱりカブに乗って街を探索するのは、とっても楽しい。
(文=工藤考浩/写真=工藤考浩、webCG)

工藤 考浩
-
第848回:全国を巡回中のピンクの「ジープ・ラングラー」 茨城県つくば市でその姿を見た 2025.10.3 頭上にアヒルを載せたピンクの「ジープ・ラングラー」が全国を巡る「ピンクラングラーキャラバン 見て、走って、体感しよう!」が2025年12月24日まで開催されている。茨城県つくば市のディーラーにやってきたときの模様をリポートする。
-
第847回:走りにも妥協なし ミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」を試す 2025.10.3 2025年9月に登場したミシュランのオールシーズンタイヤ「クロスクライメート3」と「クロスクライメート3スポーツ」。本格的なウインターシーズンを前に、ウエット路面や雪道での走行性能を引き上げたという全天候型タイヤの実力をクローズドコースで試した。
-
第846回:氷上性能にさらなる磨きをかけた横浜ゴムの最新スタッドレスタイヤ「アイスガード8」を試す 2025.10.1 横浜ゴムが2025年9月に発売した新型スタッドレスタイヤ「アイスガード8」は、冬用タイヤの新技術コンセプト「冬テック」を用いた氷上性能の向上が注目のポイント。革新的と紹介されるその実力を、ひと足先に冬の北海道で確かめた。
-
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ 2025.9.18 BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。
-
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学 2025.9.17 栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。
-
NEW
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】
2025.10.15試乗記スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。 -
NEW
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して
2025.10.15エディターから一言レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。 -
NEW
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか?
2025.10.15デイリーコラムハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。 -
MTBのトップライダーが語る「ディフェンダー130」の魅力
2025.10.14DEFENDER 130×永田隼也 共鳴する挑戦者の魂<AD>日本が誇るマウンテンバイク競技のトッププレイヤーである永田隼也選手。練習に大会にと、全国を遠征する彼の活動を支えるのが「ディフェンダー130」だ。圧倒的なタフネスと積載性を併せ持つクロスカントリーモデルの魅力を、一線で活躍する競技者が語る。 -
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。