トヨタGRMN iQ スーパーチャージャー(FF/6MT)【試乗記】
アツさ忘れぬオヤジたちに 2012.04.26 試乗記 トヨタGRMN iQ スーパーチャージャー(FF/6MT)専用仕立ての内外装とパワフルなエンジンを持つ、特別な「トヨタiQ」に試乗。その実力は……?
意外性のかたまり
これは愉快だ痛快だ。「GRMN iQ スーパーチャージャー」でカッ飛ばすのは、ただのドライビングというよりスパーリングの感覚に近い。舞台は富士スピードウェイのショートサーキット。合計12周ほどしか許されなかったが、う〜ん、降りられませんなあ。
それにしても、「これぞホットハッチ本来の姿だ」と、胸いっぱいに叫びたい。最近どうも世の中みんなぜいたくに慣れちまったけれど、庶民的なサンダル代わりの実用車、つまり小さなホットハッチに鼻のアブラを擦り込んで、心臓(エンジン)や足(タイヤとサスペンション)をちょいとばかり強化。
「え〜っ、あのクルマが、こんなに!」と驚かせる意外性にこそ、ホットハッチの妙味が宿るはず。だったら、「トヨタiQ」に換骨奪胎的な手術を施した「GRMN iQ スーパーチャージャー」こそ、ホットハッチの代表みたいなものだろう。
全長わずか3m、まるでマンガみたいにかわいい側面観の「iQ」なのに、パドックで出会ってみると、かなり印象が違う。ほんの子犬だったはずが、ヒンズースクワット500回くらいして頑張ったのか、けっこう逞(たくま)しいのだ。
前後のバンパーを拡大して全長は3140mm(+140mm)に。グッと張り出したオーバーフェンダーで全幅は1705mm(+25mm)と筋肉増強剤を効かせたうえで、低く固めたサスペンションで、全高は30mmもダウンの1470mm。そこに、195/55R16 87V(ブリヂストン・ポテンザRE050A) の“生意気なタイヤ”を履いたあたり、「おとな子供」みたいな雰囲気だ。
ここもあそこも専用仕立て
それにしても、見た目がなんだか突っ張っていると思ったら、ルーフの両端とかボディー側面とか、アクセント的なプレスラインの峰が鋭い。なんと、ボンネットとルーフ以外、見える部分のパネルすべて専用に作り直したのだとか。
1.3リッターエンジンにスーパーチャージャーを組み合わせて94psから130psへと4割近くも鍛えあげただけでなく、専用クロスレシオ・ギアを組み込んだ6段MT、22%も低い4.562のファイナルなど、見えない部分にもこだわりが深い。
ダッシュボードまわりはノーマルに近いが、目の高さに生えた専用タコメーターが気分を盛り上げる。シートも両サイドの深い本格バケットだから、思わずロールケージや5点式ベルトも取り付けたくなってしまう。
でも、あくまで「サーキット走行会やジムカーナも楽しめる公道仕様のスポーツタイプ」だから、内張りなどノーマルのままで快適だし、エアコンも取り外してない。もちろん専用マフラーの排気音は、「ちょ〜っと元気かな?」という程度に調律してある。
そんな「GRMN iQ スーパーチャージャー」、走りだした瞬間のダッシュ力で、まずニヤリとさせられる。それもそのはず、最大トルク180Nm(18.3kgm)といえば、普通のNAエンジンなら1.8リッター級に匹敵する。それをこんな小さなボディーに詰め込んで、しかも各ギアすべて低めなのだから、蹴飛ばされたように加速できて当たり前。だからといってパンチがあり余るほどではなく、少し乱暴にクラッチミートしても、キュッとも鳴かずに確実に発進してくれる。
ホットな中にも安定感
全体の完成度は、最初のコーナーを突破した瞬間すぐわかる。ホイールベースわずか2mの短さからは信じられないほど、どう振り回しても安定しきっているのだ。
例えばヘアピンを思い切り乱暴に突破して、その過程でわざとアクセルを大きく戻しても、ちっとも不安定な姿勢にならないし、コーナリング・ラインが乱れることもない。これではFFタックイン走法を楽しむ余地もなさそうだ。試しにVSC(車両安定維持装置) を解除しても、ジャジャ馬的な顔など少しも見せない。
それより気になったのは、せっかく専用設定してくれたギアレシオが低すぎること。富士のショートサーキットでさえ、わざわざ2速までシフトダウンできるのは1カ所だけ。
本当にパンチらしいパンチが出るのは2500rpm以上だから、各ギアが互いにクロスしているのはありがたいけれど、低いだけにすぐ吹けて、5000rpmを超えるとトルクが頭打ちになってしまう。このギアボックスとノーマル・ファイナルの組み合わせの方が、各ギアでの伸びを生かしやすいのではないだろうか。
………と、オチャメな「GRMN iQ スーパーチャージャー」だが、まるで別車種と言えそうなほど手を加えたのに、たった100台だけの限定販売とは残念すぎる。
正式な発売は今年の夏で、まだ価格は発表されていない。2009年の“第一次iQ GRMN”(NAでボディーもノーマルに近い)が197万2000円だったことから想像すると、今度は300万円くらいするかも……。
どうやら最近、若者は「86」に夢中らしいから、こちらの嫁ぎ先は、往年の「ミニクーパー1275S」あたりに血潮をたぎらせた“young at heartのオヤジ”100人ということか。でも締め切りアウトなら、299万円の「アバルト500」に方針変更するか、第三次iQ GRMN企画を待つか……眠れないほど悩むよなあ。
(文=熊倉重春/写真=小林俊樹)

熊倉 重春
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。