第50回:シュワちゃん復活! 400km/hで逃走するZR1を追え! − 『ラストスタンド』
2013.04.24 読んでますカー、観てますカー第50回:シュワちゃん復活! 400km/hで逃走するZR1を追え!『ラストスタンド』
「I'll be back」……10年ぶりのガチアクション!
あの有名なセリフの通り、アーノルド・シュワルツェネッガーが10年ぶりに帰ってきた。本格的な映画出演は、『ターミネーター3』以来である。州知事をやったり私生活でゴタゴタしたりして、映画にはすっかりご無沙汰だった。肉体派として売ってきたシュワちゃんも還暦を過ぎ、もう65歳なのだ。稲川淳二、蛭子能収と同い年である。頬には、深いシワが刻まれた。全盛期のようなアクションはキツいはずだ。それでも、老体にむち打ってガチな立ち回りを演じる。
昨年の『エクスペンダブルズ2』が、完全復活に向けてのプロローグだった。シルベスター・スタローンが率いる“消耗品軍団”が大暴れする戦争アクションで、往年のスターが勢ぞろいした。ブルース・ウィリス、ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ドルフ・ラングレンという豪華メンバーが集まり、チャック・ノリスまで顔を出した。80年代にスクリーンの中で散々ワルモノを殺しまくってきたヤツらである。老いてもなお意気は盛んで、ブルース・ウィリスは『ダイ・ハード/ラスト・デイ』でシリーズ5作目に出演し、シルベスター・スタローンは『バレット』の公開が控えている。
『ラストスタンド』では、シュワルツェネッガーはベテラン保安官のレイ・オーウェンズを演じる。メキシコとの国境近くにある小さな町ソマートンで勤務している。至って平和な毎日で、副保安官のジェリー(ザック・ギルフォード)とフィギー(ルイス・ガスマン)は暇をもてあましている。あまりに退屈で、軍事オタクのルイス・ディンカム(ジョニー・ノックスヴィル)と一緒につるした肉を銃で撃っていてレイに叱られたりしている。
1000馬力のモンスターマシンで逃走
一方LAでは、FBIが麻薬王のコルテス(エドゥアルド・ノリエガ)を監獄から移送しようとしていた。警護を指揮するのは、鶴瓶似のジョン・バニスター捜査官(フォレスト・ウィテカー)だ。麻薬組織は厳戒態勢をものともせず移送車の隊列を襲撃し、やすやすと麻薬王を奪還する。FBIはやることなすこと後手にまわり、コルテスはメキシコ国境に向けて逃走を開始するのだ。
検問を突破するために用意されたのが、「シボレー・コルベットZR1」である。スーパーチャージャー付きの6.2リッターV8エンジンを積む高性能スポーツカーだ。しかも、これはノーマルモデルではない。モーターショーに展示されていた1000馬力のモンスターマシンを盗んできたのだ。最高速は400km/hだという。そんなハイパワーを使いこなすことができるのか心配になるが、コルテスは自宅に専用サーキットを持ち、10代からレースに参戦していた腕っこきである。SWATが2台のSUVで逃走を阻もうとしても、間をすり抜けて反転し、返り討ちにしてしまう。(ページ最後の動画をご覧あれ)
ただ、本当はそんな小手先の技などいらない。なにしろ、めちゃ速いのだ。検問で止められても、すさまじい加速で簡単に通り抜けてしまう。ヘリが追ってくるが、あまりの速さについていけない。これまでさまざまな映画でカーチェイスが描かれてきた。『ブリット』のサンフランシスコの坂道を「フォード・マスタング」がサスペンションを底付きさせながら走り回る迫力は忘れがたいし、『ボーン・アイデンティティー』は「MINI」のコンパクトさを利用してパリの狭い路地をすり抜けていく技に興奮した。そんな先人たちの苦労をあざ笑うかのような、“スピード命”とばかりの潔さが新しい。
シンプルで斬新なカーチェイス
そういえば、『ダイ・ハード/ラスト・デイ』のカーチェイスも斬新だった。こちらはスピードではなく、パワーと硬さで突き進む。路駐のクルマが邪魔でもノープロブレムだ。ワルモノが乗っているのはロシアの装甲車なので、ガンガン踏みつぶしていく。対向車線を逆走する時だって、ハンドル操作で間を縫うように走る必要などなく、直進して跳ね飛ばしていけばいい。マクレーン警部は硬さでは引けをとらない「メルセデス・ベンツGクラス」で対抗し、組んずほぐれつの肉弾戦となる。老優ふたりのカーアクションは、1周して“シンプル・イズ・ベスト”にたどり着いたらしい。
ちょっと心配なのは、ZR1のガソリンである。407km/hで走る「ブガッティ・ヴェイロン」は、全開で走るとリッターあたり800mしか走れないという話だ。もう少しマシな燃費だとしても、フル加速を繰り返していたZR1は国境に着く前に燃料切れになってしまう可能性が高い。たぶん、知らないうちにどこかでこっそり給油していたのだろう。
FBIは万策尽き、コルテスはあと少しでメキシコに逃げおおせてしまうところまで来た。ただ、国境に到達するには、ソマートンの町を通らなければならない。立ち向かうのは、保安官レイと仲間たちだ。軍事オタクのルイスは、コレクションから第二次大戦で使われていた武器を提供し、コルテスを迎え撃つ準備を整える。この町が、まさに“ラストスタンド(最後のとりで)”となるのだ。
最後の対決はまるで西部劇
ここからが、シュワちゃんの見せ場だ。“われわれの町は通さない”と宣言し、無謀な戦いを開始する。その勇姿は、『コマンドー』や『ゴリラ』などの黄金時代を思い出させる。ワルモノを殺す前に気の利いたセリフを一言発するのも、あの頃の流儀だ。ただし、カラダは昔のままではない。全力で走ると息が切れ、思わず「Old!…」とつぶやく。
町の大通りにクルマを並べてバリケードを築き、敵を待ち受ける。その様子は、西部劇の対決シーンのようだ。監督はこれがハリウッドでの初作品となる韓国のキム・ジウンで、彼のウエスタン好きがこのテイストを生んでいるのだろう。2008年の『グッド・バッド・ウィアード』はマカロニウエスタンの『続・夕陽のガンマン』にオマージュをささげた作品で、満州を舞台に馬賊や列車強盗が戦いを繰り広げていた。日本にも三池崇史監督の『スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ』があるが、それに匹敵する怪作と言えるだろう。
本作では、馬の代わりにクルマで雌雄を決する事になる。相手がモンスターマシンでも、ノーマルのクルマで負けないところがシュワちゃんの偉いところだ。最強の相手を前に、「My honor is not for sale」と言い放つところも文句なしにカッコいい。
アクションスターが年老いていくのは、本人にとっては寂しいことだろう。しかし、いつまでも若者ぶっているのはむしろ痛々しい。弱みを自覚することで生まれるリアリティーがあり、新たなヒーロー像が作られる。アンチエイジングなどという悪あがきに真っ向から立ち向かうシュワちゃんに、盛大な拍手を送ろう。
(文=鈴木真人)
「シボレー・コルベットZR1」のカーアクションシーン映像を公開!

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。