ホンダ・フィット/フィットハイブリッド 開発者インタビュー
“本質”で勝負 2013.07.19 試乗記 本田技術研究所四輪R&Dセンター LPL
主任研究員
小西 真(こにし まこと)さん
コンパクトカーのビッグネーム「ホンダ・フィット」がモデルチェンジ。3代目となる新型の開発は、どのように進められたのか? 開発責任者に聞いた。
市場にこびずに作りたい
「ホンダ・フィット」のプロトタイプ試乗会の冒頭で、開発のまとめ役を務めた小西 真LPL(ラージ・プロジェクト・リーダー)は「2代目の現行型とははっきりと違う、新しいフィットができました」とあいさつした。
こう言ってはなんだけれど、開発責任者の決まり文句だ。けれども、いざ新しいフィット(のプロトタイプ)を眺め回して、乗り回してみると、確かに現行モデルとはまるで違うクルマに仕上がっている。こういう言い方もヨーロッパかぶれみたいで気が引けるけれど、ヨーロッパ製コンパクトカーのようにしっかりと走る。内外装のデザインのレベルも、グッと上がった。
――現行フィットは、モデル末期にもかかわらず月間1万台近く売れている人気モデルです。そのフィットを、これだけ変えるのには覚悟が必要だったのではないでしょうか。
これでもし売れなければ、というプレッシャーはあります。でも個人店主ではないので、失敗しても命まではとられない(笑)。遊び心みたいなものが(開発に)あってもいいのかな、とは思います。
――では、現行フィットのどこをどう変えたいと思われたのでしょうか。
現行モデルには、完成されていると思える部分もあるし、あまり好きじゃないところもあります。例えば、走りがあまりよくない。
面白いと思ったのは、小西さんが「走り」を打ち出していることだ。実用コンパクトカーであるからして、「燃費」「価格」「広さ」などをアピールしても不思議ではない。
――コンパクトカーにとって、「走り」が重要だと思われますか?
何が正解かはだれにもわからないですよね。でも、マーケットばかり見て、ユーザーにこびるようなクルマ作りはよくないと思っています。ユーザーにアンケート用紙を配って、みなさんの回答を見ながらクルマを作るようなことはしたくない。
理想は「普通に乗っていいクルマ」
ここで小西さんは、ご自身がテレビを買い換えた時のエピソードを例に挙げた。
シャープにするかソニーにするかは、カッコいいデザインだからインテリアがモダンになるとか、音がいいから映画がもっと楽しめるとか、メーカーの提案を受け取って決めるわけじゃないですか。“簡単な操作”なんてあたりまえ。作り手が主導して、何かを提案したいという姿勢が重要ではないでしょうか。
――小西さんが提案したかったことのひとつが、楽しく走れるクルマということでしょうか?
初代や2代目のフィットにお乗りの方が3代目に買い換えていただけるとしたら、それは何のためか? ということを自問自答しました。壊れたから買い換える、というのでは掃除機と一緒。みなさん、生活を変えたいと思うから新しいフィットに買い換えるわけですよね。そうした期待に応えるには、走りだしてすぐに「いい!」と思っていただく必要があると思いました。
――普通の人が普通に乗って「いい!」と思うというのは、言葉にすると簡単ですがかなりレベルが高い話だと思います。
そうです。でも、専門家が120km/hの限界走行で走らないとわからないようではダメなのです。このクルマは燃費は世界一、操縦安定性も完璧、というように本質で勝負したかった。だからあえて、ディテールにこだわるような開発はしませんでした。
確かに3代目フィットのプロトタイプはよくできている。乗り心地のよさといいステアリングホイールを切ったときの反応といい、2代目の一般ユーザーがディーラーで試乗したら目が点(あるいはハート)になってしまうだろう。
――9月に3代目フィットが発表されると、ユーザーは「じゃあ、トヨタの『アクア』とどっちがいいの?」という点に興味を持つはずです。
楽勝でしょう(笑)。インテリアも走りも後席の居住性も、勝負にならない。断言できます。
似てないのも強み
フィットは、グローバルに展開するモデルだ。地域によって道路事情や使い方が異なるので、開発にあたっては日本以外の場所のことも考えたと想像する。
――例えばヨーロッパでは、この3代目フィットはどういった点で存在感を示すことができるでしょうか?
現在のヨーロッパのBカテゴリーはパーソナル感を重んじるのがトレンドです。つまり、後席の居住性をあまり考えていない。小さなクルマに賢く、スマートに乗る、というイメージでしょうか。でも、似たようなコンセプトで競うつもりはありません。新しいフィットは、スペースの広さが特徴になると思います。コンパクトカーのライバルが多いヨーロッパにおいては、似ていないことが大事であり、武器になるはずです。
新型フィットで特筆すべきは、このスペースユーティリティーを犠牲にせずに、印象的なスタイリングを与えたことだ。きれいなルーフのラインや、ボディーサイドの彫刻刀で彫ったような鋭いキャラクターラインによって、精悍(せいかん)な雰囲気になっている。もともとドアの設計が長かったという小西さんに、デザインと生産の関係についてうかがう。
――ああいったキャラクターラインは、生産に手間がかかるというイメージがあります。
あれくらい激しいと、ズレることがありますね。でも、製作所の方がプレス技術などで協力してくれましたから。
――生産現場とうまく協力できたように、一致団結できたのには何か理由があるのでしょうか?
開発時期が、ちょうど震災と重なったんです。栃木の研究所が被災して、設計のスタッフが1カ月も2カ月も和光の研究所に疎開したり……。クルマが作れる状況ではないのですが、でも開発を止めるわけにはいかない。
ここで小西さんは、記憶を確認するように、少し間を置いた。
日本という国や日本の自動車メーカーがダメになるんじゃないか、という危機感がありました。そこで団結できた、というのはあるかもしれません。みんな和光のレオパレス21から通勤して、思い出深い開発でしたね。
(インタビューとまとめ=サトータケシ/写真=本田技研工業)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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