スバルWRX STI tS TYPE RA 開発者インタビュー
数字よりフィーリング 2013.08.02 試乗記 スバルテクニカインターナショナル商品開発部
マーケティンググループ/パーツ企画グループ 担当部長
森 宏志(もり ひろし)さん
スバルの“実戦部隊”ことSTIが作り上げた「WRX STI tS TYPE RA」が、300台限定で登場。現行型「WRX STI」最後の限定モデルに込められた、開発者のこだわりを聞いた。
速さの「S」、気持ちよさの「tS」
モータースポーツ界での華やかな戦歴で知られるSTI(Subaru Tecnica International)だが、市販モデルで最近こだわっているのは「tS」路線。「誰もが、まるで運転がうまくなったように感じる」というトータルバランスをうたう。その最新作が「WRX STI tS TYPE RA」だ。
そのポイントを「sport always」と簡潔に言い切るのは、開発の陣頭に立った森 宏志さん。富士重工で30年以上にわたり「レガシィ」や「インプレッサWRX STI」などを手掛け、組織が新しくなったSTIでは商品開発部マーケティンググループの担当部長をつとめている。
「(インプレッサWRX STIのラインナップの中で)『S○○○』というのは、速さの点では頂点です。それに対してtSは勝ち負けではなく、乗る人の自然な感覚に訴える自然さを目指してるんです。だからエンジンも、S○○○のような320psではなく、ベースとなった『スペックC』の308psをそっくりそのまま使ってます。6段MTも、AWD機構も、機械式リアLSDも同じ。もともと性能面では十分ですからね。そのうえで、速いだけじゃなく、操って気持ちいいかどうかを大切に考えたんです」
車両実験グループ担当部長の渋谷 真さんも「数字よりフィーリングです」と言う。
「細かい部分にずいぶん気を遣ったんですよ。例えばタイヤも、『ブリヂストン・ポテンザRE070』という名前や245/40R18のサイズはスペックCと同じですけど、微妙に性格を変えてあるんです。切った瞬間ガシッとたくましく応えるんじゃなく、じんわりカドがない曲がり方になるようにね。そのために、ケース剛性の高さだけを求めるより、切り込むに従って曲がり方も増すというリニア感を持たせるように作ってあるんです」
なるほど、性能の限りを尽くしてストップウオッチやライバルと戦うのではなく、瞬間ごとにクルマと語り合う納得感というわけか。だとすると、サスペンションもtSならではの味付けということになる。
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WRX STIベースのオリジナルカー
「サスペンションも基本はスペックCですけどね。あれはあれでスポーツ感覚たっぷりなんですけど、そのうえでtSらしい味わいを盛り込むとか、乗り心地のフラット感を強く出すとか、ここにも細かい配慮がたくさんあります」
そう自慢げに語るのは、車体技術部長の毛利豊彦さん。その弁に続いて、「それはね」と森さんが説明してくれたのは「フレキシブルドロースティフナー」だ。
「高性能車のサス・チューンの場合、固めるって思いがちですけど、このクルマはそうじゃないんです。(フレキシブルドロースティフナーとは)よくあるストラットタワーバーのほかにある、見えないところに付いた細い棒なんですけどね。サスペンションの取り付け部分と、その近くの対応するボディーの部分を結んで、最初からテンションをかけておいて、コーナリングとか大きな応力がかかった時の微妙なひずみの分をあらかじめ抑え込んであるんです。
これを使えたから、ステアリングのギア比を13:1から11:1に速くしても、妙にピキピキ敏感になりすぎずに、自然に少ない身動きのまま、望んだ量だけ楽に切り込めるんです。フレキシブルドロースティフナーをリアにも採用したから、後輪タイヤのコーナリングフォースもすばやく立ち上がって、それがステアリングの反応をよくする効果も生んでるんですね。何かをゴツくするようなことは、やってないんです」
「要するに、クルマ全体として『固める』のと『いなす』のと、バランスを取ったってことですよ」と渋谷さんが付け加える。こうしたチューニングに、専用のステアリングホイールなどインテリアの仕立て方も加えると、スバルのクルマというより、インプレッサWRX STIを素材としてSTI独自の配慮を行き届かせたオリジナルカー。どことなくBMWを換骨奪胎したアルピナを連想してしまう。
これが最後なんて言わずに……
それにしても、ここまで精魂こめた珠玉のtS TYPE RA、たった300台の限定車だけに、瞬く間に売り切れる運命にあるのが残念すぎる。その中でもニュルブルクリンクのイメージを投影した200台限定の「NBR CHALLENGE PACKAGE」は、熱いスバリストの口コミ効果か、正式発表までに完売だったとか。きっと今ごろ、乗り遅れたファンの涙と叫びがSTIに殺到しているはず。だとすれば、これを最終バージョンなどと言わず、しばらく時を置いて、さらなる限定生産車を考えてくれてもよさそうなものだ。森さんたちSTI の首脳部も心の底からクルマ好きの技術者だから、やり残したこと、もっと煮詰めたいことがあるのではないだろうか。
「いやあ、軽量化のための薄板ガラス採用とか、ボールベアリングターボとか、ベル部分をアルミ化した2ピースブレーキローターと、ブレンボの6ピストンフロントキャリパーとか、すでにスペックCの段階でやっちゃってますからねえ。あと、どうするかなあ、う~ん………」
そういえば、以前はニュルブルクリンクの実戦を想定したカーボンルーフ仕様もあったではないか。
「まあ、あれで7kg軽くなって、重心も3~4mm は低くなりますけどねえ。でも今度のクルマは、レースとは違う世界を走るわけで」
それでも「あれを使うと、ここ(と頭のあたりを指して)から上が軽くなった実感、あるんですよね」とうれしそうに語る渋谷さんに対し、森さんも毛利さんもまんざらではない表情。いつのことやら見当はつかないが、言下に否定されなかったところに、一縷(いちる)の望みだけはつないでおこうか。
(インタビューとまとめ=熊倉重春/写真=荒川正幸)

熊倉 重春
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