フォルクスワーゲン・ゴルフTSIハイライン(FF/7AT)
お年寄りからマニアまで 2013.08.04 試乗記 傑作との評判高い7代目「ゴルフ」。ファーストインパクトが鎮まった今、あらためて「TSIハイライン」とデートを試みてみた。もはやラグジュアリーホテル
6月に日本へ導入された7代目「フォルクスワーゲン・ゴルフ」がいろいろなところでベタ褒めされている。何度かふれた感じでは、確かに傑作だと思う。6代目をじわじわと改良したというよりも、ポンとひとつ上のクラスに移ってしまったぐらいの進化を果たした。
本来の意味での純正カーナビが完成する今年の冬まで待ったほうがいいとは思うものの、友人、親戚から向こう三軒両隣まで、「ゴルフってどうですか?」と尋ねられたら自信を持ってお薦めできる。
とはいえ、ここまで大絶賛されると「それほどだったかな……」という疑念も湧いてくる。最初のデートと同じで、コーフン状態に陥って何割増しかで感動した可能性はないか。あと、「万人受けするわけだから、すぐ飽きるんじゃないの」とも思う。
というわけで、ファーストインパクトが鎮まった今、最高出力140psの1.4リッターターボユニット搭載の「ゴルフTSIハイライン」と何度目かのデートを試みてみた。
新型ゴルフに乗り込んで感じるのは、広くて立派だということ。従来型に比べて全高は28mm低くなっているけれど、天井が低くて圧迫感をおぼえることはない。膝まわりのスペースを15mm拡大したという後席は、「余裕をもって座れる」から「くつろいで座れる」へとレベルアップしている。
インテリアに使われるツヤツヤのピアノブラックのマテリアルといい、ドライバーに向けられたセンターコンソールによる囲まれ感といい、もはやビジネスホテルではなく、ラグジュアリーホテルだ。
「もてなされている」という感覚は、スタートするとさらに強まる。乗り心地が抜群にいいのだ。
街中でのスピードから高速まで、速度域と路面の状況を問わずタイヤと地面が接する感触がシルキー。1.2リッターターボエンジン搭載仕様ではトーションビームになるリアサスペンションが、1.4リッターターボエンジン搭載の「ゴルフTSIハイライン」では、マルチリンクを採用する(フロントはともにマクファーソンストラット)。ただし1.2リッター仕様も乗り心地で劣った記憶はない。
サスペンションの形式よりも大きな違いを感じたのが、「ゴルフTSIハイライン」ではオプションで装着できるアダプティブシャシーコントロール“DCC”だ。パワーステアリングの設定やショックアブソーバーの減衰力を電子制御するシステムで、走行モードを「ノーマル」「コンフォート」「スポーツ」の3種類から選ぶことができる。
市街地で「コンフォート」を選べば快適至極、高速道路やワインディングロードで「スポーツ」にセットすると、操作フィーリングはキュッと引き締まる。
マジメなだけでなく、操る楽しさも
1.4リッターのターボユニットは、「1粒で2度おいしい」タイプ。赤信号からの発進加速では、スタートした瞬間から力強いトルクで車体を押し出してくれる。ここで「華やかさには欠けるが頼りになる、肝っ玉かあさん系のエンジン」かと思うと、さにあらず。
4500rpmから上では「コーン」という乾いた音とともに、パワー感が盛り上がる。2段ロケット!
7段DSGは従来型からさらに洗練され、特に微低速でちょっとギクシャクする感じがまるでなくなった。アクセルペダルを踏んだ瞬間の鋭いレスポンスといい、素早くて滑らかなシフトフィールといい、「ゴルフTSIハイライン」のファン・トゥ・ドライブ性の大きな部分を担っている。
ちなみにDSGが量産化されたのが2003年だから、今年で10周年。ついにここまで来た。
ただ扱いやすいだけでなく、操作する喜びも味わわせてくれるパワートレインのJC08モード燃費は、19.9km/リッター。エアコンをフル稼働させながら高速道路を制限速度で巡航すると20km/リッターをちょっと切るくらい。市街地だと15km/リッター前後で、この動力性能と豊かなドライブフィールを考えれば上々だろう。
1.4リッターエンジンには、気筒休止システムが備わる。インパネを見ていると、思ったより頻繁に気筒休止システムが作動して、4気筒のうちの2気筒が“休憩”に入る。けれども、「休憩入りまーす!」と「休憩戻りましたー!」の切り替わりはシームレスだから、意地悪な店長やバイトリーダーでなければ気が付かないだろう。
マジメなだけでなく、操る楽しさを感じさせてくれるのは、足まわりも一緒だ。軽快に曲がるのに安定しているという、二律背反を見事に両立している。軽快に曲がるのは、従来型よりボディーで20kg以上、エンジンで22kgもの軽量化を実現したことが効いているのだろう。
安定感が増したのには2つの理由が見つけられる。ひとつは、従来型比でホイールベースが59mm伸びたことと、前後トレッドがそれぞれ8mm、6mm広げられたという基本骨格の変更。もうひとつが、路面をがっちりつかむための電子制御ディファレンシャルXDSがサポートしていることだ。
自動車界の「あまちゃん」
こうして見ると、ゴルフのよさはすべて自動車の教科書に書いてある通りだ。
軽くて強いボディー、しなやかさとしっかり感を高度にバランスさせたサスペンション、効率的なパワートレイン。どれも根っこの部分がしっかりしていて、そこに大きな花が咲いている。
そして昔の自動車の教科書には書いていなかった、新トレンドもきちんと消化している。
自動停車までする全車速対応のクルーズコントロールは、先行車両の加減速に柔軟に対応して追従する。この手のデバイスが嫌いな方にもぜひ試していただきたいと思えるくらい、よくできている。慣れれば、特に都市部の渋滞で便利に使えるはずだ。試す機会はなかったけれど、30km/h以下なら作動するシティエマージェンシーブレーキも全グレードに標準装備となる。
結論として、運転免許取り立ての方からベテランおじさんドライバーまで、納得できるのが新型ゴルフだ。大絶賛の嵐にさらに絶賛をカブせるようで癪(しゃく)だけれど、いいものはいい。マニアからおじいちゃん・おばあちゃんまで楽しめるという意味で、「自動車界の『あまちゃん』」ということでどうでしょう。
人間の場合は、「ハンサムで知的でやさしくて仕事ができるなんて、実は家でDVやってたりして」という場合もあるけれど、ゴルフにはその心配もなさそうだ。
ここから先は、まったくの余談です。
なんでこんなにゴルフの出来がいいのかと考えていたら、渡部昇一さんが1950年代のご自身の経験を記した『ドイツ留学記』(講談社現代新書)という本を思い出した。
ドイツでは、10代の半ばまでに「職人コース」か「学問コース」のどちらかの進路を選ぶ必要がある。どちらのコースにも共通しているのが、理想の師匠と出会うまで旅をすることだ。自分の思い描くパン職人や教授と出会うまでは、徒歩や自転車や電車で漫遊する。ちなみに、異国の大学で得た単位も自分の単位としてカウントできる。したがってドイツでは、あちこちで旅する若者と出会うのだという。
世界中、どこに行ってもドイツ人旅行者を目にするけれど、それには旅をして出会うことを重んじるという文化的背景があるのだろう。
と、ガラにもなく難しいことを考えるほどゴルフの出来はいい。日本は国土の8割が山岳地帯の島国なので、独自のクルマ文化が発展するのはもっともだ。でも、旅するドイツ車に乗って異国の文化にふれてみるのも、いいのではないでしょうか。
(文=サトータケシ/写真=田村弥)
テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフTSIハイライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4265×1800×1450mm
ホイールベース:2635mm
車重:1320kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直4 DOHC 16バルブターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:140ps(103kW)/4500-6000rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1500-3500rpm
タイヤ:(前)225/45R17 91W(後)225/45R17 91W(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:19.9km/リッター(JC08モード)
価格:299万円/テスト車=324万2000円
オプション装備:バイキセノンヘッドライトパッケージ<LED付き>(10万5000円)/DCCパッケージ<17インチアルミホイール付き>(14万7000円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:5777km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:110.3km
使用燃料:10.1リッター
参考燃費:10.9km/リッター(満タン法)/11.7km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
アストンマーティン・ヴァンキッシュ クーペ(FR/8AT)【試乗記】 2025.10.7 アストンマーティンが世に問うた、V12エンジンを搭載したグランドツアラー/スポーツカー「ヴァンキッシュ」。クルマを取り巻く環境が厳しくなるなかにあってなお、美と走りを追求したフラッグシップクーペが至った高みを垣間見た。
-
NEW
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。 -
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】
2025.10.13試乗記BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。 -
マツダ・ロードスターS(後編)
2025.10.12ミスター・スバル 辰己英治の目利き長年にわたりスバル車の走りを鍛えてきた辰己英治氏。彼が今回試乗するのが、最新型の「マツダ・ロードスター」だ。初代「NA型」に触れて感動し、最新モデルの試乗も楽しみにしていたという辰己氏の、ND型に対する評価はどのようなものとなったのか? -
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】
2025.10.11試乗記新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。