BMW i3(RR)
電気で駆けぬける歓び 2013.11.12 試乗記 BMW iの最初の量産モデルとなる「i3」のステアリングを握る日がやってきた。電気はわれわれにどんな「駆けぬける歓び」をもたらしてくれるのだろうか。興味かき立てるカタチ
日本からの直行便にて降り立ったのはオランダはアムステルダム。見渡せば、街中の至るところに車両充電用のスポットがあり、その多くに当たり前のように電気自動車(EV)がつながっている。ここはインフラはもちろん、車両購入時のインセンティブ等々の充実した、そして実際の販売も飛び抜けた実績をもつ、強力なEV推進都市なのだ。
そんなおあつらえ向きの街へと来たのは、いよいよ登場した市販仕様の「BMW i3」に試乗するためである。ショー会場やテストコースでではなく、街中でカムフラージュなしで見るi3は、本当に鮮烈な印象をもたらしていた。
全長3999mm×全幅1775mm×全高1578mmという短く、背の高いフォルムは、切り詰められた前後オーバーハング、標準で155/70R19、今回の試乗車では175/65R19という細身かつ大径のタイヤ、上側をブラックに塗り分けたツートーンのボディーカラーなどと相まって、サイズ以上の存在感を醸し出している。
未来的ではあるけどクールには過ぎず、ファニーなカタチであることは間違いないけれど、顔にはちゃんと凛々(りり)しいBMWらしさも宿る。この辺りの案配はなかなか巧みだ。どんな乗り味なんだろうと興味をかき立てる、無視できない魅力がある。
もちろん、見た目が斬新なだけではない。BMWが今新たに、BMW iというサブブランドを立ち上げてi3、そしてプラグインハイブリッドスポーツカーの「i8」を世に出すのは、新しいかたちのサスティナブルなモビリティーを提案するためである。
パワートレインの電気化だけが、その新しさではない。車体も、アルミ製のシャシーに、カーボンファイバー強化樹脂(CFRP)のキャビンを組み合わせた新構造により、徹底的な軽量化が行われる。また、単にクルマが高効率だというだけにとどまらず、クリーンエネルギーにてすべてが賄われる専用工場での生産など、クルマが生まれ、使われ、いずれ廃棄に至るまでのすべての場面での環境負荷低減が指向されている。BMW iとは、そんな極めて意欲的なプロジェクトなのだ。
加速してよし、曲がってよし
「MINIクラブマン」のクラブドアのような、観音開きの小さなリアドアが付いた変則4ドアとなるi3。センターピラーがないため、後席への乗り込みも容易だ。この構造も、CFRPの耐クラッシュ性の高さがあってこそ実現できたものである。
天然素材やリサイクル材などが多用されたインテリアは、決して安っぽくはなく、すがすがしい雰囲気。素材感や薄型のシートのおかげか、どことなく北欧家具のような感じも漂う。一方で目の前を見れば、iDriveのディスプレイだけでなくメーターパネルにもTFTモニターが使われるなど、先進的に仕立てられている。それがうまく解け合っているのが面白い。
スイッチオンでシステムを起動させ、ノブを奥に回してDレンジへ。いよいよ発進させるとi3は、まずは期待以上の加速で迎えてくれた。踏み込んだ瞬間に背中がシートバックに押し付けられる力強さも、最高出力170psという高出力に対して車重が1195kgにとどまることを思えば納得。例えば「日産リーフ」は109ps、1430kgなのだから差は歴然だ。しかも、感触はあくまで静かで滑らか。未来的、といえばまさしくそんな感じもする上質感を味わえる。
フットワークも上々だ。容量22kWhのバッテリーが床下に敷き詰められているおかげで重心が低く抑えられ、しかも駆動輪はBMWらしく後輪なだけに、それこそ交差点ひとつ曲がるのでも軽快感にうれしくさせられる。以前にテストコースで走らせたプロトタイプでは、軽くスライドさせながらの走りまで許容したほどだから、加速含めてその走り、決して草食系なんかじゃない。
乗り心地も文句なし。やはりボディー剛性の高さゆえか、細かな入力はすべてさらりといなし、大入力にもビクともせず、サスペンションがよく動いてくれる。リアなどは見るからにストロークが短く、大きなうねりを突破する時などには多少あおられる感じもあるが、不満といえばそのぐらいだ。
いわゆるRRレイアウトではあるが、直進性も十分。120km/h以上では多少気を使うところも出てくるが、つまり日本でなら問題にはならないだろう。
EVの現状に一石を投じるか?
こんな気分になるのは久しぶりだなと感じるぐらい、とにかく爽快な走りっぷりだった。i3のステアリングを握っていたら、このままもっと遠くまで走っていきたいなという気持ちにさせられてしまった。
けれども、その航続距離には限りがある。満充電の状態から通常で160km、空調まで抑えることで距離を稼ぐECO PROモードでも、200kmがマックスだ。
「MINI E」などを使っての実証実験の結果、BMW iは航続距離はこれで十分という感触を得ているという。しかし都心部のユーザーにとって、仮にガレージに充電器を設置できる環境だったとしてもなお、1台しか持てないクルマをコレにするのは簡単な決断ではないだろう。
そこでi3には、発電用の650ccエンジンを載せて航続距離を300kmまで伸ばすレンジエクステンダーも用意される。しかし、これを使えば当然、効率性は大きく落ちる。また価格的にも、うまみは少なくなる。
これはi3だけでなくEV全体の課題だが、普及への最大の問題は、やはりここにある。個人的な話をすれば、それ以外は本当に、わがガレージに迎え入れたいぐらい気に入ったi3なのだが、現時点では購入は難しい。せめて都内から箱根の往復ぐらい、途中で充電することなくこなせたら……というのは、モータージャーナリストなんて特殊な職業でなくても、現実的に誰もが思うことだろう。
ちなみに日本仕様に特化した話をすれば、車両と同時に、タイマー充電などさまざまな機能をもった専用の充電機も用意されることになりそうだ。もちろん、それがなくても200V電源があれば大丈夫。そして急速充電はCHAdeMOに対応する。これは間違いなく朗報だ。
こうした部分に価格まで含めた日本仕様の詳細、日本でのBMW iの展開については、そろそろ明らかになる予定である。インフラの充実度ではオランダにだって負けていないにもかかわらず、EVに対していまだ追い風とまではいえない日本で、彼らはユーザーにどんなベネフィットを届けるつもりなのか。お手並み拝見である。
(文=島下泰久/写真=BMWジャパン)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
BMW i3
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3999×1775×1578mm
ホイールベース:2570mm
車重:1195kg(DIN)
駆動方式:RR
モーター:交流同期モーター
定格出力:170ps(125kW)
最大トルク:25.5kgm(250Nm)
タイヤ:(前)155/70R19/(後)175/65R19
航続距離:130~160km(コンフォートモード時)、200km(ECO-PROモード時)
価格:--円/テスト車=--円
オプション装備:--
※数値は欧州仕様のもの。車重はドイツ工業規格(DIN)に準じる。
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
スズキDR-Z4S(5MT)【レビュー】 2026.1.7 スズキから400ccクラスの新型デュアルパーパスモデル「DR-Z4S」が登場。“Ready 4 Anything”を標榜(ひょうぼう)するファン待望の一台は、いかなるパフォーマンスを秘めているのか? 本格的なオフロード走行も視野に入れたという、その走りの一端に触れた。
-
NEW
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。 -
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気
2026.1.15エディターから一言日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。 -
ルノー・グランカングー クルール
2026.1.15画像・写真3列7座の新型マルチパーパスビークル「ルノー・グランカングー クルール」が、2026年2月5日に発売される。それに先駆けて公開された実車の外装・内装を、豊富な写真で紹介する。 -
市街地でハンズオフ運転が可能な市販車の登場まであと1年 日産の取り組みを再確認する
2026.1.15デイリーコラム日産自動車は2027年に発売する車両に、市街地でハンズフリー走行が行える次世代「ProPILOT(プロパイロット)」を搭載する。その発売まであと1年。革新的な新技術を搭載する市販車の登場は、われわれにどんなメリットをもたらすのか。あらためて考えてみた。






























