アストン・マーティンV12ヴァンテージS(FR/7AT)
止まらぬ進化 2013.11.20 試乗記 レーシングカーと限定生産のスーパースポーツカー「One-77」を除けば、史上最速のアストン・マーティンとうたわれる「V12ヴァンテージS」。その走りをアメリカ、カリフォルニアのパームスプリングスで試した。いよいよ573psへ
ブリティッシュスポーツカーの名門、アストン・マーティンは今年、創立から100年目を迎えた。その生みの親であるロバート・バムフォードとライオネル・マーティンが、ロンドンの一角にアストン・マーティンの前身といえるバムフォード&マーティン・エンジニアーズを設立したのが、今からちょうど100年前の1913年なのである。
その記念すべき年に、4ドアの「ラピードS」をはじめとして、アストン・マーティンは例年にも増して多くのニューモデルを世に出したが、その後半に「ヴァンキッシュ ヴォランテ」とともに登場したのが「V12ヴァンテージS」である。これは、現行アストンで最もコンパクトな「V8ヴァンテージ」のボディーのエンジンルームに、「DB9」系列と基本は同じ5.9リッターV12エンジンを押し込んだ、「V12ヴァンテージ」の発展進化型といえるクルマだ。
従来型たるV12ヴァンテージとの相違点は多岐にわたるが、ドライビングに直接かかわる重要なポイントは以下の3点に集約できる。まずエンジンが、同じ5935ccの排気量からパワーは517psから573psに、トルクは570Nm(58.1kgm)から620Nm(63.2kgm)に、増強された。このエンジンのチューンには、CNC旋盤で切削加工した燃焼室や中空カムシャフトなど、モータースポーツで培われた技術がフィードバックされているという。
ポイントその2はトランスミッションで、V12ヴァンテージの3ペダル6段MTに対して、ヴァンテージSにはシングルクラッチながら2ペダルの電子制御7段MTが与えられた。イタリアのグラツィアーノ製ギアボックスをベースにしたこれは、従来型の3ペダル6段MTより25kg軽量であることも、大きなメリットになっている。
ポイントその3は、サスペンションが電子制御の3ステージ・アダプティブダンピングシステムを採用したことだ。「ノーマル」「スポーツ」「トラック」の3ステージが選択可能なそれは、新たにZFサーボトロニックパワーアシストを採用したパワーステアリングのアシストレベルとも連動して作動するという。
エクステリアはよりダイナミックに
そういった多岐にわたる改変の結果、V12ヴァンテージSのパフォーマンスは飛躍的に向上した。メーカー公表のデータによれば、0-100km/h加速は4.2秒から3.9秒に短縮され、最高速も305km/hから330km/hへと大きく伸びている。
さらにその高性能ぶりをアピールするべく、エクステリアにも効果的な手が入れられている。ボディーの基本はV12ヴァンテージと変わらないが、ライトブルーやイエローといった他のアストンにはない鮮やかなボディーカラーが採用されているのがまず目につく。
それに加えて、V12を収めたボンネットの上のエアベントが拡大されると同時に、その部分やフロントグリルをカバーするのが伝統的なアルミニウムベーンに代わって、カーボンファイバーのブラックもしくはチタニウムシルバーに変更されている。それらは新しいボディーカラーとのコンビで、従来型より一段とモダンかつダイナミックな印象を与える。
同様にインテリアにも手が入れられているが、シリーズ最強の硬派モデルであるにもかかわらず、標準のシートがフルバケットではなく、電動アジャスト式のスポーツシートであるところがアストン・マーティンらしい。もちろん、コックピットをもっとスパルタンに仕上げたい顧客のために、カーボンファイバー製の軽量シートも用意されているが。
ところで、今回の国際試乗会はアメリカ、カリフォルニア内陸部の砂漠と岩山に囲まれたリゾートタウン、パームスプリングスを起点に開かれた。V12ヴァンテージSに乗ったのは試乗2日目のことで、砂漠のなかのキャンプサイトからパームスプリングスに戻るというルート。そこで僕にステアリングが委ねられたのは、ブルーのインテリアにパール系ホワイトのエクステリアを持つV12ヴァンテージSだった。
走りは硬派、しかし我慢は不要
走りだして最初に感じたことのひとつは、クルマのイメージからすると意外ではあるが、その乗りやすさだった。573psのV12は、いかにもイギリスのスポーツエンジンらしく実用域から有効なトルクを捻(ひね)り出すので、高回転まで引っ張り上げる必要はなく、早め早めのシフトアップで高いギアに送って流すことも無理なく可能なのだ。
ただし、スポーツシフトIIIと呼ばれるシングルクラッチの7段MTは、ご多分に漏れずDレンジの自動的なシフトアップがあまり上手ではないから、ステアリングコラム固定式の剛性感あるパドルを使ってマニュアルシフトする方がずっと心地よい。
とはいえこのエンジン、実はもうひとつの顔を持っていて、ギアを2つ3つシフトダウンしてスロットルを踏み込むと、6000rpmに近づくあたりから回転上昇の勢いを増して、7000rpmプラスのリミットにスムーズに飛び込んでいく。というわけでV12ヴァンテージS、そのイメージにマッチした硬派な部分も、当然のごとく備えているわけだ。
では硬派に望まれるもうひとつのファクター、コーナリングはどうかというと、これも完成度が高い。従来型のV12ヴァンテージもそうだったが、V8ボディーにV12を収めたことから当然予測されるフロントヘビーは感じられず、ヴァンテージSは軽いアンダーステアと極少のロールを維持してコーナーを抜けていく。試乗車がハイグリップのピレリPゼロ コルサを履いていたこともあって、公道上で限界を味わうのは困難だったほどだ。カーボンセラミックローターを備えるブレーキも、実に頼りになる存在だった。
となると、乗り心地は相当に硬いかと想像するかもしれないが、それもまた違う。3ステージダンパーを中間の「スポーツ」にセットしてあっても、強い突き上げを食らうといったことはなく、乗り心地は日常的に乗ることになっても十分許容範囲内にある。
たとえシリーズ随一の硬派モデルであっても、そのステアリングを握るドライバーに我慢を強いるようなクルマには仕上げない。それがブリティッシュの老舗アストン・マーティンの芸風ではないかと、V12ヴァンテージSに乗ってあらためて思った。
(文=吉田 匠/写真=アストン・マーティン)
テスト車のデータ
アストン・マーティンV12ヴァンテージS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4385×1865×1250mm
ホイールベース:2600mm
車重:1665kg
駆動方式:FR
エンジン:5.9リッターV12 DOHC 48バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:573ps(421kW)/6750rpm
最大トルク:63.2kgm(620Nm)/5750rpm
タイヤ:(前)255/35ZR19/(後)295/30ZR19(ピレリPゼロ コルサ)
燃費:--km/リッター
価格:2239万8000円/テスト車=--万円
オプション装備:--
※欧州仕様車の数値。価格のみ日本市場のもの。
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

吉田 匠
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