日本の道にジャストフィット
いまや日本の自動車メーカーが日本で作り、国内で販売する乗用車の2台に1台が軽自動車。2013年の軽自動車の新車販売は210万台前後と、過去最高を記録するのが確実だという。
こう聞くと、「やっぱこのご時世、安くて維持費がかからない軽が売れるよな~」と思いがちだ。けれども、この秋にフルモデルチェンジを受けた「ダイハツ・タント」に乗ると、コストだけが軽人気の理由ではないことがわかる。
ダイハツの広報車両の受け渡し場所は、“もんじゃタウン”こと東京は月島にある。「タント カスタム」にはよりパワフルなターボエンジンも用意されるけれど、タントは3気筒658ccの自然吸気エンジンのみの設定で、トランスミッションはCVT(無段変速機)が組み合わされる。(※2013年12月12日に、標準モデル「タント」にもターボ車を設定)
FFと4WDが用意されるなかで、今回お借りしたのはFF仕様。豪華装備の「G“SA”」というグレードだ。駐車場を出発して、一本道を間違えて下町の狭い路地に踏み込んでしまっても、くるっくるっと小回りがきくタントなら涼しい顔でクリアできる。
都市部にばかりいるとわからないけれど、日本の道路の約84%は道幅平均3.8mという狭い市町村道。生活道路の実情は、東京オリンピックの頃に急いで整備した時からそれほど変わっていないのだ。
全幅1480mm以下というのが現在の軽自動車規格で、一方1966年に登場した「トヨタ・カローラ」の全幅が1485mm。つまり今日の軽自動車の幅は、道路が整備された頃の実用車のサイズと一致している。すれ違いや駐車する時に、「やっぱ軽は楽だわ」と思うのは、あたりまえのことなのだ。
軽自動車は「日本でしか通用しないガラパゴス車」と言われることもある。けれども小柄なガラパゴスペンギンと同じで、軽自動車の成り立ちは生活環境に合わせたもの。ガラパゴスで何が悪い、と思う。
自宅駐車場に連れ帰って、モデルチェンジされた部分を確認する。最大の変更点は、従来型では普通のヒンジ式だった運転席側(右側)の後席ドアがスライド式になったこと。ちなみに助手席側(左側)後席ドアは、以前からスライド式である。
資料によると、前後に240mmもスライドする後席を一番後ろに下げると、後席ドアから自転車を積むことができるとある。ママチャリで試してみると、確かにすっぽりと入った。楽々と自転車を積み込むことができる「ホンダN BOX+」の登場に舌打ちしていたダイハツのディーラーの方も、これでひと安心だろう。
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パッケージングこそ命
後席に座ってみる。広い。前後のカップルディスタンス(前席ドライバーと後席乗員の距離)は1120mmで従来型と変わっていないけれど「トヨタ・アクア」の860mmという数値と比較するとどれだけ広いかがおわかりいただけるだろう。
ヘッドクリアランスが20mm増えて230mmになっているのが効いている。窓が大きくて室内が明るいこととあいまって、実に開放的な気分になる。
後席に座りながら思うのは、小回りが利くのにこんなに室内が広いクルマは世界にないということだ。もう一度、ガラパゴスで何が悪い、と思う。
シートアレンジも多彩かつ操作は簡単で、後席シートを楽々操作で格納すると、段差のないフラットな荷室スペースが生まれる。
インテリアのデザインもすっきりまとまっていて、何より「高級車っぽく見せよう」というイヤらしい下心がないところがいい。ドライバー正面、ステアリングホイールの向こうにティッシュボックスが入るインパネアッパーボックスがあったりと、収納スペースへの配慮が行き届いているのは従来通り。
そういう目で見ると外観のデザインも、個人的に愛してやまないヨーロッパ製コンパクトカーとはまったく違うけれど、これはこれでいいと思えてくる。
従来型では49度だったAピラーの角度が新型では56度とさらに立てられ、外から見ても、運転席に座っても、“地下鉄っぽさ”はさらに増した。でも、それがタントの個性だ。
あと少し洗練されれば……
翌日、取材場所に向けて首都高速に乗る。60~70km/hに速度が上がると、市街地でも少し気になった「こつこつ」というタイヤからのショックが、かなり気になるようになる。この速度域から加速しようとアクセルペダルを踏み込むと、回転を上げたエンジンが「ゴーッ」とうなりをあげる。一生懸命にがんばっているのはわかるけれど、ここはもう少しクールにがんばってほしい。
首都高速に上がって何より気になったのは、横風によって進路が乱されることだ。
タウンスピードとハイスピードで、かなり印象が違うというのが率直な感想だ。軽自動車は街乗り主体だし、実用の乗り物なのだから、趣味のクルマと同じ価値観で判断するのは間違っている、という意見もあるでしょう。でも、特にグルメじゃない人でもおいしいものとまずいものの区別がつくように、ファッショニスタでなくても素材のいい洋服の着心地の良さがわかるように、乗り心地の快適さや静かさや安定性は、どんな人にもわかると思う。
パッケージングや細部の造り込みに注いだ気配りを、もう少し快適性や安定性方面に振ったら、どこに出しても恥ずかしくないコンパクトカーになるはずだ。
ガラパゴスでいいと思ったり、いやいやもう少しクルマっぽくなってほしいと思ったり、自分でもコウモリみたいだと思う。でも、いろんなことを考えさせられるのも、タントというクルマがはっきりとした個性を持っているからだ。これだけ小さいのに、こんなに中が広いクルマは、お目にかかれない。狙いがはっきりしていて潔い。
一芸に秀でているという個性はそのままに、あとほんの少しだけ洗練されたら言うことはない。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
ダイハツ・タントG“SA”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1750mm
ホイールベース:2455mm
車重:940kg
駆動方式:FF
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:52ps(38kW)/6800rpm
最大トルク:6.1kgm(60Nm)/5200rpm
タイヤ:(前)155/65R14 75S/(後)155/65R14 75S(ダンロップ・エナセーブEC300)
燃費:28.0km/リッター(JC08モード)
価格:146万円/テスト車=154万850円
オプション装備:スマートフォン連携メモリーナビゲーションシステム(8万850円)
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:406.9km
使用燃料:25.9リッター
参考燃費:15.7km/リッター(満タン法)/16.3km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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