スバル・レヴォーグ1.6GT-S EyeSight プロトタイプ(4WD/CVT)/レヴォーグ2.0GT-S EyeSight プロトタイプ(4WD/CVT)
単なるワゴンにあらず 2014.02.03 試乗記 スバルが日本国内市場のために開発したという、新型ワゴン「レヴォーグ」。その走りは? そして乗り心地は……? 発売に先がけて、サーキットで試した。悟りをひらいたスバル
新しい「スバル・レヴォーグ」を貫くキーワードは「適切」。肩肘を張って力むより、凝りに凝った先進メカニズムを叫ぶより、涼しい顔でスラ~ッと行く大人の味わいこそ本当のスバル。世界のラリーやツーリングカーレースなど、頂点に挑み続けたあげくたどり着いた、悟りの境地とでも言えるだろうか。クルマの楽しさを味わい尽くし成熟したユーザーなら、一瞬にしてその真価を見抜くはず。これまでスバルと縁の薄かった人たちも、これなら納得すること間違いない。
スバルだから当然と言い切ってしまえるほど、レヴォーグの走りには破れ目がない。例によってスムーズきわまる水平対向エンジンの“回転感”、どこから踏んでも素直に立ち上がる深い力感、ステアリングを切り込んだ瞬間すぐ直観できる重心の低さ、お家芸シンメトリカルAWDならではの卓越したトラクション性能が光る、安心感そのものの加速………など、もはや耳タコの世界だろう。
そんなレヴォーグで注目したいポイントは、あえて「日本専用」と銘打ったこと。これまでスバルの上級車といえば「レガシィ」が定番だったが、歴代だんだん大型化したばかりか、次はもっと大きくなるのだとか。主な輸出先アメリカでの大歓迎ぶりに応えるにはやむを得ないだろうが、ぴったり身に付くドライビング感覚が薄れるのを危惧したくもなる。大きすぎては、普段の実用にも邪魔くさい。
見るからに豊か
それに対してレヴォーグはホイールベースと全長を少し縮め、日本の5ナンバー枠に収めた。1780mmの全幅(5ナンバーは1700mm以下)が日本向けかどうか議論は残りそうだが、これが実は見逃せない特徴だったりする。
これまでスバルといえば理論と技術で構成した骨格に、つじつまを合わせるように衣装を着せたイメージで、ある種のストイックさが信仰の対象にさえなってきた面がある。ところがレヴォーグは幅に余裕を持たせたぶんドアの厚みを実感させる姿になり、全体の雰囲気として豊かさが倍増した。少し無愛想だった内装にも心が配られ、翼のように伸びるダッシュの輪郭が滑らかにドア内張りにつながったり、メーター類にクロムの飾り物が輝いたり、こういう質感にこだわる日本の多数派にとっても、受け入れやすいものになった。
つまり最初にマーケティングがあり、その中に珠玉のメカニズムを組み込んだわけで、クルマ作りの順序が180度の大転換を果たしたことになる。スバル史に特筆大書される「事件なクルマ」だ。
グレードは、1.6(266万7600円~305万6400円)と2.0(334万8000円~356万4000円)の、基本2シリーズ。2.0用は最近のスバル各車を輝かせている2リッターの300psだが、1.6用はレヴォーグのために新開発された1.6リッターの170ps(どちらも直噴ターボ)。変速機は1.6が完成度の高さで定評ある新世代CVT(リニアトロニック)。その連続自動変速モードを少し攻撃的に味付けしたスポーツリニアトロニックが2.0に搭載される。
数字だけではわからぬ走り
今回、今春の正式発売(先行予約は1月4日から受け付けていて、なかなか好評らしい)に先立ち、短時間ながらテストできたのは1.6、2.0の「GT-S」グレード。両車種とも、エンジンと変速機はグレードによる違いはないが、GT-Sはビルシュタインダンパーを備え、標準の215/50R17より1サイズアップの225/45R18タイヤ(ダンロップSP SPORT MAXX 050)を履くなど、ファンを喜ばせるスペックになっている。
例によって、電源オンと同時にメーターの針が大きく行って帰るのを確かめてスターターボタンを押すと、繊細に抑制されたエキゾーストノートが周囲の地を這(は)う。身震いなど皆無に近い。
そのうえで結論から報告するなら、諸元表の数字とは裏腹に、1.6のさっそうたるスポーティー感覚が全身に迫る。パワーは十分だがあり余るほどではないから、遠慮なく踏んだり放したり、どこまでもドライバーが主役として操縦している実感が濃い。
CVTにはマニュアルモードもあり、シフトレバーのほかステアリング裏のパドルでも操作できるが、それより自動変速のSレンジ(やや中速~高回転をキープしながら変速比を変換する)を選び、クルマの反応に応じて踏み方を工夫する“知的ゲーム感覚”が痛快だ。絶対的な速さでは、有無を言わさずズワ~ッと行ってくれる2.0が当然ながら勝るけれど、そのぶん人間の役割が減ったような気がして悔しい。
長距離乗るにはうってつけ
ハンドリングは、基本的にどこまでもオン・ザ・レール感覚。このところスバルが叫ぶ標語「Confidence in motion」は、このレヴォーグでさらに深まった様子で、本当にどこでも安心しきってというか、そちらに行きたいと思っただけで自然に腕がDシェイプステアリングホイールを適切に切り込み、ノーズがコーナーに飛び込むと同時に、強烈な踏ん張り感が返って来る。したがってコーナリングの平均速度は高く、そこから4輪こぞって立ち上がり加速を演じてくれるので、簡単かつ速い。
そのうえ、動力性能に対して燃費が良く(1.6が最高17.4km/リッター、2.0が13.2km/リッター)、1.6なら満タン1000kmという航続距離を誇るから、はるか地平の果てまで雲を霞(かすみ)と駆け抜けるロングツーリングにうってつけ。やや硬めかなと思わせる、奥にずっしり落ち着いたフラット感を忍ばせる乗り心地も、ついつい乗り続けたくなる重要ポイントだ。
おっと、いけない、ロングツーリングで思い出した。「B4」(セダン)が人気のレガシィとは異なり、レヴォーグは流麗なワゴンのみ。日本サイズとはいえ、豊富な経験に裏打ちされたラゲッジスペースは広い。それでもメーカー自ら「スポーツカーです」と胸を張ってしまえる走行感覚を放つあたり、だた者ではない。だからこそ、時代の空気を敏感に読み、思い切ってハイブリッド化まで挑戦してほしかったというのは、ぜいたくすぎる感想だろうか。
(文=熊倉重春/写真=荒川正幸)
![]() |
テスト車のデータ
スバル・レヴォーグ1.6GT-S EyeSight プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1780×1490mm
ホイールベース:2650mm
車重:1550kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.6リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:170ps(125kW)/4800-5600rpm
最大トルク:25.5kgm(250Nm)/1800-4800rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:16.0km/リッター(社内測定値)
価格:--
オプション装備:--
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:945km
テスト形態:ロードインプレション(サーキット構内路)
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター(満タン法)
![]() |
スバル・レヴォーグ2.0GT-S EyeSight プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4690×1780×1490mm
ホイールベース:2650mm
車重:1560kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター水平対向4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:CVT
最高出力:300ps(221kW)/5600rpm
最大トルク:40.8kgm(400Nm)/2000-4800rpm
タイヤ:(前)225/45R18 91W/(後)225/45R18 91W(ダンロップSP SPORT MAXX 050)
燃費:13.2km/リッター(社内測定値)
価格:--
オプション装備:--
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:990km
テスト形態:サーキット
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター(満タン法)

熊倉 重春
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
NEW
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】
2025.10.17試乗記「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。 -
NEW
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する
2025.10.17デイリーコラム改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。 -
アウディQ5 TDIクワトロ150kWアドバンスト(4WD/7AT)【試乗記】
2025.10.16試乗記今やアウディの基幹車種の一台となっているミドルサイズSUV「Q5」が、新型にフルモデルチェンジ。新たな車台と新たなハイブリッドシステムを得た3代目は、過去のモデルからいかなる進化を遂げているのか? 4WDのディーゼルエンジン搭載車で確かめた。 -
第932回:参加者9000人! レトロ自転車イベントが教えてくれるもの
2025.10.16マッキナ あらモーダ!イタリア・シエナで9000人もの愛好家が集うレトロ自転車の走行会「Eroica(エロイカ)」が開催された。未舗装路も走るこの過酷なイベントが、人々を引きつけてやまない理由とは? 最新のモデルにはないレトロな自転車の魅力とは? 大矢アキオがリポートする。 -
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか?
2025.10.16デイリーコラム季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。 -
BMW M2(後編)
2025.10.16谷口信輝の新車試乗もはや素人には手が出せないのではないかと思うほど、スペックが先鋭化された「M2」。その走りは、世のクルマ好きに受け入れられるだろうか? BMW自慢の高性能モデルの走りについて、谷口信輝が熱く語る。