第332回:「クルマのボディーカラーはレッド&オレンジがはやる!」それって、ホント?
2014.01.31 マッキナ あらモーダ!オレンジ&レッドが新しい!
「次の流行ボディーカラーはオレンジとレッド」 そうした予測が、欧米の自動車関連ウェブサイトを賑(にぎ)わせている。
彼らは、2014年1月に開催されたデトロイト国際オートショーでコンセプトカーの多くにオレンジやレッドが多くみられたことを例として挙げている。米国の『オートブログ』が紹介しているのは、自動車塗料にも深く関与する世界的な化学メーカー「BASF」のテクニカル・マネージャー、ポール・チョルニー氏の見解だ。氏の解説によると、オレンジやレッドは「楽観」「再生」を意味し、不景気からの脱出願望の反映であるという。
人気色の変遷、イタリアの場合
色といえばイタリアやフランスにおいて、さまざまな人が今も回想するのは、1960年代の高度成長期である。あるフランスの知人は、「当時は、クルマだけでなく、家具や電化製品など、家のなかのさまざまなモノが、明るい色であふれていた」と証言する。
イタリアで最後に明るいボディーカラーがもてはやされたのは、2000年頃までだった。当時のフィアットの初代「プント」や「クーペ」、「バルケッタ」といったモデルには、いずれも鮮やかなボディーカラーが、たくさんカタログに載っていた。特に初代「ランチア・イプシロン」は、カラーバリエーションの豊富さを前面に打ち出していたものだ。
その後イタリアで、人気色はグレーやブラックに移ってゆく。背景には、フィアットの経営危機および販売低下があった。それに入れ替わるかたちで販売を伸ばしたドイツ製プレミアムカーのカタログカラーはグレーやブラックで、そのトレンドはコンパクトカーにまで広まったのだ。
メンズファッションのトレンドが、ダークカラー主体に傾いたことも、傾向を後押しした。ドイツやオーストリアのテレビ司会者がサーカス団長ばりの派手なジャケットを着ていることが多いのに対して、今でもイタリアではたとえバラエティー番組であっても、黒かグレーのスーツが一般的である。イタリア人に理由を聞くと、口々に「明るい色はエレガンテ(上品)ではないから」と言う。
こうした傾向がクルマにも反映されていったのは、想像に難くない。白もイタリアでは長らく敬遠されてきた。タクシーの統一色と同じだからだ。そのため、実際にタクシーに多く使われているCセグメント以上のクルマで長らく受けなかった。
一連の趣向は、「グレーかブラックにしておけば、リセールバリューも無難」と考える人たちによって、より拍車がかかった。
そうしたイタリアの色彩保守化傾向に変化をもたらしたのは、2007年に発売された「フィアット500」であった。形状から決してタクシーをイメージさせず、かつ先代のイメージを強く引き継ぐため、たとえ白でも人々は受け入れたのだ。
やがて2代目「アウディA3」(2003-2013年)や「MINI」といったヒット車種が、白いボディーでも人々の目にスタイリッシュに映ったことが、ホワイト人気をバックアップした。
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「iPhone5c」復権の鍵は「ダイハツ・コペン」?
ところで、新・流行色とされるオレンジ&レッドは、実際のところイタリアでどうなのか? 路上でトレンドをリードしているのはルノー系である。
数年前、その先鞭(せんべん)をつけたのは、同社のローコストブランド、ダチアのミニクロスオーバー「サンデロ ステップウェイ」だった。低価格でありながら、「ミニクロスオーバー」のムードをしっかりと備えていたことが受け、イメージカラーであるレッドが普及した。その流れを新型「ルノー・メガーヌ」や「クリオ」(日本名:ルーテシア)が引き継いだ。
ちなみに、もちろん流行カラー効果だけが理由ではないだろうが、2013年のイタリア国内新車登録台数が、全体では前年比-7.1%だったのに対し、ダチア・サンデロは67.4%増、ルノー・クリオは37.5%増と、いずれも好結果を残した。
太陽光が強く、路上駐車しておくと退色しやすい赤が、今後どのくらい普及するかは未知数だが、取りあえずレッド復権の兆しは確実だ。
冒頭のBASFのチョルニー氏によると、自動車のボディーカラーは、しばしば世相を反映する。例えば、9・11以降アメリカ人は、白い色がもつ純粋なイメージに「再生」を感じ、白を基調としたアップル製品(ホワイトのiPhoneやiPadを指すと思われる)がそれを後押ししたと分析する。
彼は2013年に起きた事件から、近未来のカラートレンドも予測している。事件とは、元CIA職員エドワード・スノーデンによる通信傍受暴露事件だ。プライバシーの安全に不安を抱いた人々によって、「信頼」を感じさせるブルーやグリーンが好まれるようになるのでは、とみている。
ふと思いだしたのは、2013年9月に発売されたiPhone5cの行方だ。新聞によると、世界的に販売が予想を下回り、早くも減産が行われているという。その機能や価格設定など、複数要素があるのは承知だが、カラフルなボディーを「クールさ・高級感が足りない」と見る向きは少なくない。
いっときはクルマにまで影響を与えたアップル製品の色だが、今回はクルマに本格的影響を確認できる前に、疑問が投げかけられてしまった。これからもアップル製品の色がクルマに波及効果をおよぼすならば、同社が次にどのようなボディーカラー戦略を打ち出すのか興味深い。
逆に、2013年東京モーターショーにおいて着せ替えボディーパネルで話題をよんだ「ダイハツ・コペン」の市販バージョンがヒットし、それに引きずられて日本でiPhone5C人気に火がついたら、これまた痛快だが。
(文=大矢アキオ<Akio Loenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA, KIA)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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