ルノー・ルーテシア ルノースポール シャシー スポール(FF/6AT)
口当たりの良さが今風 2014.03.06 試乗記 「R.S.」のツーレターは速さのしるし。野性味にあふれる、時に荒々しい悍馬(かんば)を期待するのは、昔語りなのだろうか? 新型「ルーテシア ルノースポール」で箱根を目指し、その魅力をあらためて考えた。硬いほうがエライか?
若いうちは硬いほうがエライ、と単純に考えていた。難しいほうがエライ、とも思っていた。例えば、ゴルフクラブのシャフトもテニスのラケットもスキーの板でも、硬く薄く“スイートスポット”がごく小さいプロ用コンペティションモデルが一番格上で、一般人にはどうしたって使いにくい、そんな道具を正確にコントロールして使いこなしてこそ上級者、と訳も分からず信じ込んでいた。憧れと現実を一緒にしてしまったわけですね。ちなみにスキーはとにかく長いほうがカッコいいと信じられていた。もちろんカービングスキーが登場するずっと前の話だが、学生の頃に使っていたスキー板なんて本格的なジャイアントスラローム用で2m余りもあった。レースになんて出ていなかったくせに……。
車も同じだったはず、少なくとも私が若い頃はそうだった。あまり深く考えずについついSとかRとかのバッジに引き寄せられて、よりスポーティーでハードっぽいモデルに人気が集まったものだ。まこと若いとは愚かである。若さゆえの過ちは認めたくないものだそうだが、私は認めます。もちろん若い時から賢い人もいるが、普通は見えを張らない年齢になってようやく気づくのではないだろうか。
という今となっては恥ずかしい話を思い出したのは、4代目「ルノー・ルーテシア」の高性能バージョンである「ルノースポール(R.S.)」が発売され、しかも「シャシー スポール」と「シャシー カップ」の2種類のモデルが用意されているという話を聞いたからである。ルノースポールにシャシー スポールが加わってずいぶんと長い名前になる上に、スポーツを二枚重ねするルーテシアはよほどすごいのか、さらにシャシー カップは文字通りのワンメイクレース用カップカーか、などと想像していたのだが、実はそういうわけでもないらしい。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
意外に淡泊、だが速い
ルーテシア ルノースポールのボディーは普通のルーテシアと同じく5ドアハッチバックのみ、バンパーなどにコスメティックな違いがあるだけでサイズも事実上変わらない。この辺がブリスターフェンダーを与えられた従来のR.S.とは異なる点で、当然特別なすごみも感じられない。よりハードなセッティングというシャシー カップは標準装備のホイールが18インチとなり、車高がさらに3mm低くなるというが、3mmの違いなど見た目ではわからない。エンジンは標準型ルーテシアの1.2リッター直噴ターボに代えて、日産由来(「ジューク」などと基本的に同じ)の1.6リッター直噴4気筒ターボを搭載、200ps(147kW)/6000rpm、24.5kgm(240Nm)/1750rpmを生み出すエンジンと組み合わされるギアボックスもノーマルモデルと同じくEDC(エフィシェントデュアルクラッチ)と称する6段DCTのみとなる。価格はこのシャシー スポールが299万円、シャシー カップが10万円高の309万円である。
近ごろはやりのダウンサイジング・ターボユニットの中には、数字ほどのパワーを感じられないものもまま見受けられるのだが、実はこのR.S.のエンジンもそうだった。従来の自然吸気2リッターや「プジョー208GTi」の1.6リッターターボもピークパワーの数値は同レベルだが、それらに比べてやや淡泊というか、なぜか骨太なパワー感に欠ける印象を受けた。燃費にも配慮した最新のターボユニットはほとんどが厳格なフラットトルク型で、明確な“パワーバンド”を感じさせないものばかりだが、その中でも目立って従順なユニットといえるだろう。もちろんそれは非常に洗練され、扱いやすいということでもあるが、気になったのはトップエンドの伸びがいまひとつであることだ。オープンロードでフルスロットルを与えると、シュバーッと一気呵成(かせい)に吹け上がり、おおこれは、と体温が上がったと思ったら6000rpmそこそこでスコッとあっけなくシフトアップしてしまうのだ。そこまで鋭く痛快に吹け上がって大いに期待させておいて、一番のクライマックスでぷいとそっぽを向くような感じ。もうちょっと粘ってくれると落差を感じないですむように思う。
もうちょっと荒々しくてもいい
この意外な頭打ち感は全体的にローギアードであるせいだろう。パワーが限られているコンパクトカーならいざ知らず、と思ったら案の定、1.2リッターターボ(120ps)のノーマル・ルーテシアとギア比もファイナルもまったく同一だった。これだけのトルクとパワーがあるのだから、もう少しギアリングが高くてもいいのではないだろうか。レースモードを選びマニュアルシフトすれば6500rpmのレッドゾーン入り口まできっちり使い切れるが、それ以外では6000rpmちょっとで早々とあっさりシフトアップ、特にその場合70km/hぐらいまでしか伸びない(6500rpmでも80km/h弱)2速はちょっと物足りない。
もちろん絶対的にはかなりの駿足だ。0-100km/h加速データは先代R.S.の6.9秒から6.7秒に向上しているし、山道だろうが高速道路だろうが実際のパワーに不足を感じることはない。それゆえあくまでフィーリングの話だが、シャシー スポールと同じ価格でエンジンも同じ1.6リッター4気筒ターボ(200ps)のプジョー208GTiは、トルクの強力さと踏めばガシッと応えるレスポンスのおかげでもっとパワフルに感じる。シャープな回転フィーリングと滑らかさではルーテシアR.S.のほうが明らかに上だが、MTの208GTiはその気で踏めばゼブラゾーンを飛び越えてリミッターが作動する6800rpmまで半ば荒々しく回り、2速も100km/h以上まで伸びるのだ。実際には速いが、あまりそれを感じられないのは車重のせいもあるかもしれない。ライバルより大柄なボディーのルーテシアの車重は1280kgと208GTi(1200kg)よりかなり重く、本来もうひとつ上のクラスである「フォルクスワーゲン・ゴルフ」並みの重量なのだ。
無論この“もう少し”という印象は、「R.S.」に対する期待値の違いによるものだろう。私のような古い人間はもっと野性味あふれる性格を期待していたために物足りなく感じるのだろうが、今時のスポーツハッチとしてはこのぐらいのすっきり味がちょうどいいのかもしれない。
これをスタンダードに
2種類のシャシーを用意するほどこだわっている足まわりだが、このシャシー スポールの乗り心地についてはまったく心配する必要はない。むしろ、非常にしなやかで洗練されているから、スパルタンなものを期待しているマニアックなドライバーはその点に気を付けたほうがいい。より強力なスプリングを持つシャシー カップにしても、これまでのR.S.に比べればずっと文化的である。
フロントサスペンションはノーマルモデルと同じマクファーソンストラットだが、R.S.ではHCC(ハイドロリック・コンプレッション・コントロール)ダンパーなるものを採用している。これはメインダンパーの中にバンプストップラバーとして働くセカンダリーダンパーを設けたものだという。もともとルノーは、構造は手堅く保守的であっても大入力で音を上げず最後までコントロールが利くタフな足まわりを特徴としていたが、フルバンプした場合の制御まできちんと手当しているコンパクトカーはなかなかお目にかかれるものではない。
実際に新型R.S.はさらりと気持ち良く、しかも速く走れる。ピリピリと神経を研ぎ澄ませて、最後にはパワーに抗し切れず外側にはらむフロントタイヤを宥(なだ)めすかす、といった従来型R.S.とはまったく別種の走りっぷりだが、しなやかにストロークする足まわりと荷重の変化を意識しながらのコーナリングには特有のやりがいと楽しさがある。ドライバーが気づかないうちに内側ホイールにブレーキをかけるというR.S.デフの効果もあり、目をつり上げることなくラインをキープできる気軽さもある。難しいほうがやりがいがあり、達成感も大きいかもしれないが、日常的な実用性と懐深いコントロール性を併せ持つこのような車を仕立てることは、硬く敏しょうなだけのスポーツハッチを造るよりずっと難しいはずだ。問題は、引き続きR.S.という名を使いながら新型のキャラクターが大きく変わったことを正しく周知できるかどうか。「ルーテシア1.6」というスタンダードモデルにしたほうがすっきり明快じゃないでしょうか。
(文=高平高輝/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
ルノー・ルーテシア ルノースポール シャシー スポール
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4105×1750×1435mm
ホイールベース:2600mm
車重:1280kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:200ps(147kW)/6000rpm
最大トルク:24.5kgm(240Nm)/1750rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88Y/(後)205/45R17 88Y(グッドイヤー・イーグルF1)
燃費:--km/リッター
価格:299万円/テスト車=299万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:4849km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:441.0km
使用燃料:43.2リッター
参考燃費:10.2km/リッター(満タン法)/9.8km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。