第18回:地味グルマからマッスルカーまで勢ぞろい − 冬休みに観たいクルマ映画DVD
2011.12.26 読んでますカー、観てますカー第18回:地味グルマからマッスルカーまで勢ぞろい冬休みに観たいクルマ映画DVD
60、70年代のアメリカ車がいっぱいの『スーパー8』
『タンタンの冒険』の記事でちょっと触れたように、現在公開中の『宇宙人ポール』はスティーブン・スピルバーグへのオマージュが込められた映画だ。サイモン・ペグとニック・フロストのコンビが、「ウィネベーゴ・モーターホーム」で宇宙人と一緒に旅をするすてきなロードムービーである。もうひとつのオマージュ作『スーパー8』は夏前の公開だったので、もうDVDが発売されている。
時代設定は1979年。『未知との遭遇』が1977年、『E.T.』が1982年の公開だから、その頃に合わせてあるわけだ。監督のJ.J.エイブラムスがこれらの作品を観て憧れていた青春時代を再現しているのだろう。主人公のジョー(ジョエル・コートニー)は14歳だから監督より10歳ほど若いが、自主制作のゾンビ映画を撮っているという設定は経験が反映されているはずだ。
夜中に線路脇で撮影していると、軍用列車が通過しようとするところに「フォードFシリーズ」らしきトラックが突っ込んで派手に爆発炎上する。その後、町では人や犬がいなくなるなど、奇妙な出来事が次々と起こる。軍は厳しく町を監視していて、何かを隠しているようだ。ついにはゾンビ映画のヒロインであるアリス(エル・ファニング)が失踪してしまう。事件のとき撮影していたフィルムを現像すると、そこには何やら怪しげな生物が映り込んでいた……。
かくして宇宙人の隠れ家探しが始まる。ジョーたちは子供のくせに、ちゃーんと移動手段としてクルマを確保している。家のクルマを勝手に乗っているのだが、それが「ビュイック・スカイラーク」である。イエローのコンバーチブルで、10年落ちほどのオンボロだ。ヤレ加減がとてもいい。人と荷物でぎゅうぎゅう詰めになって深夜に映画の撮影に向かうところなどは、いかにも楽しそうだ。この時代のアメリカのおおらかな気分があふれている。
ほかにも、「シボレー・インパラ」「プリムス・ヴァリアント」「フォード・トリノ」など、60年代から70年代にかけてのアメリカ車が多数登場する。たまに80年代のクルマが映り込んでいても、あまり気にしてはいけない。
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地味グルマが雰囲気を作る『わたしを離さないで』
『わたしを離さないで』は、カズオ・イシグロの小説が原作の映画だ。美しい自然の中にある寄宿舎で、キャシー(キャリー・マリガン)、トミー(アンドリュー・ガーフィールド)、ルース(キーラ・ナイトレイ)らは学んでいる。「体の内と外の健康」を保つように命じられ、規律正しい生活を送るのだ。寄宿舎の外に出ることも許されない。彼らは、他人に臓器を提供するために育てられていた。
成人した後、外での暮らしが許可されるが、生きられる時間は短い。次々に臓器を摘出されてしまうのだから、次第に弱っていく。限られた生の中で諦念と情熱が混じり合う恋愛は、はかなく美しい。
クローン技術が使われているらしいことから考えると、近未来のようである。しかし、登場するクルマを見ると、時代は少しさかのぼる。「シトロエン・アミ8」がいるかと思えば「ボルボ240」も走っている。60年代から90年代にかけてのさまざまなクルマが存在する世界なのだ。時代を特定することなく、どこにもない世界として描いている。地味ながらもどこか懐かしさを感じさせるクルマを選ぶことで、静かな悲しみをたたえた世界を作り出している。
キャシーが乗っているのは、「マツダ323」である。日本の「マツダ・ファミリア」で、6代目のセダンモデルだ。地味の極致だけれど、薄いブルーをまとった節度あるフォルムが、ヒロインの無垢(むく)な心を表しているように思えた。おそらく、映画史上もっとも叙情的なマツダ車だろう。
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『台北の朝、僕は恋をする』の切ないタクシー
叙情的な「トヨタ・カローラ」が出てくる映画もある。正確には「カローラ・アルティス」である。アジア向けの仕様なのだ。台湾映画の『台北の朝、僕は恋をする』では、このクルマのタクシーが冒頭で切ない別れのシーンを演出する。
暗い夜道でタクシーに乗り込む若い女性と、そばにたたずむ気弱そうな青年。パリへと旅立つ恋人を、両親の料理店を手伝っているカイ(ジャック・ヤオ)が見送ったのだ。花の都に行ったのだから、故郷のさえない男なんて忘れて楽しい毎日を過ごすのは当然の成り行きだ。電話をしてもいつも留守電で、カイは自分もパリへ行こうと決心する。フランス語を習得するため本屋で立ち読みを繰り返しているうちに出会ったのが、アルバイト店員のスージー(アンバー・クォ)だった。
カイがパリへと出発する前夜、二人は密輸をめぐる争いに巻き込まれ、ドタバタの逃走劇が始まる。一夜の騒動の後、またもカローラのタクシーが別れの場面に現れるのだ。話としては、たわいのない小品である。しかし、実によくできた映画なのだ。最近の台湾映画は、『モンガに散る』や『台北に降る雪』など、良作(りょうさく)が続出している。ただし、この映画のエンディングはなぜかインド風なのだ。驚きの展開を楽しんでほしい。
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マッスルカーなら『ドライブ・アングリー』を
最後に、これぞクルマ映画という作品を紹介しておこう。タイトルからして『ドライブ・アングリー』というストレートさなのだ。ジョン・ミルトン(ニコラス・ケイジ)は「ビュイック・リビエラ」で現れ、いきなり悪漢3人をぶち殺す。カルト教団にさらわれた孫娘を捜して救い出そうとしているのだ。よくある復讐(ふくしゅう)劇かと思ったら、その後の展開がとんでもなかった。映画自体が、カルト的なのだ。
セクシー・ウェイトレスのパイパー(アンバー・ハード)と「ダッジ・チャージャー」で孫娘救出に向かうと、途中で泊まったモーテルでカルト教団の襲撃に遭う。ミルトンは涼しい顔で撃退するのだが、そのやり口が凄(すさ)まじい。葉巻を吸いながらバーボンをラッパ飲みし、さらにモーテルの姉ちゃんとつながったままでショットガンをぶっ放すのだ。
この男、とんでもなく強い。銃で撃たれても死なないぐらい強いのだ。さらに、もっと強いターミネーターみたいな男も登場する。自称FBIで、こいつは「シボレー・インパラ」に乗っている。チャージャーはカーチェイスを繰り返すうちに壊れ、最後の決戦には「シボレー・シェベル」で向かう。とにかくマッスルカーでなければいけないようだ。
ミルトンは、脱獄囚らしい。しかし、普通の刑務所ではなさそうだ。そういえばジョン・ミルトンという名は、『失楽園』(渡辺淳一のエロ小説ではなく、本物のほう)の作者と同じだ。実は、そのあたりにヒントがある。最後に刑務所から迎えのクルマとして用意されるのが「シボレー150」である。作り手の趣味だけで選んでいる感じが潔い。
ニコラス・ケイジは、あの名作『リービング・ラスベガス』でアカデミー主演男優賞を受賞したが、その経歴を汚しかねない妙な映画に平気で出演する。自身がクルマ好きであることもあって、こういう作品は願ってもないものなのだろう。『60セカンズ』でも、楽しそうに演技をしていた。その意気やよしである。
この欄でこれまで紹介してきた作品も、続々とDVD化されている。『ハングオーバー!! 史上最悪の二日酔い、国境を越える』『カーズ2』『ラスト・ターゲット』『ミスター・ノーバディ』『SOMEWHERE』はもうレンタルビデオ店に並んでいるはずだ。見逃した人は、この休みにぜひご覧あれ。
(文=鈴木真人)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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