第71回:アイスランドで旧ソ連のクルマが大活躍!
『LIFE!』
2014.03.18
読んでますカー、観てますカー
戦前型シボレーが登場した1947年版
ベン・スティラーの作品である。製作・監督・主演を彼が務める。1947年に作られた作品のリメイクだ。原作の小説はジェームズ・サーバーによるもので、1939年に発表されている。ならばノスタルジックな匂いのする映画なのかといえば、まったくそんなことはない。ハリウッドきっての知性派が、見事に現代の寓話(ぐうわ)としてよみがえらせた。
小説と1947年版映画の日本語タイトルは『虹を掴む男』だったが、原題は『The Secret Life of Walter Mitty』である。今回も同じタイトルが使われている。邦題が『LIFE!』となったのは、著名なグラフ誌『LIFE』の編集部が舞台になっているからだ。主人公のウォルター・ミティはネガ管理室に勤務しているが、経営悪化により休刊が決まり、リストラ対象になってしまう。この映画の時代背景は、『LIFE』が歴史を終えた2007年ということになるだろう。
街を走るクルマから時代を特定できればいいのだが、主人公のウォルターが編集部のあるニューヨークでクルマを運転するシーンはない。彼は125ストリートからタイムライフビルまで、電車で通勤しているのだ。1947年版では、ウォルターは戦前型のシボレーで駅まで乗り付けていた。70年近く前のことだから、ニューヨークの交通事情もずいぶん違っていたのだ。
変わっていないのは、ウォルターの空想癖だ。彼は中二病を克服できないまま大人になってしまったようで、頭の中ではいつも無敵のヒーローである。この日も、電車を待つ間に電話をかけていて、しばらくの間フリーズしてしまう。そばにあるビルが爆発し、中から小さな犬を助けだすという白昼夢を見ていたのだ。
赤と青、どちらもマティス
犬を助けたウォルターは、飼い主の女性に感謝される。空想の中のその人こそ、彼が思いを寄せているシェリルだ。彼女は経理を担当する会社の同僚だが、実際には話しかけることもできない。前に紹介した『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』で脚本を担当して自ら主演したクリステン・ウィグが、想い人のシェリルを演じている。あの映画では恐ろしく下品なキャラだったが、今回は上品な女性である。
会社が買収され、新たな経営陣のもとで『LIFE』誌の最終号が作られる。著名なカメラマンのショーン(ショーン・ペン)の写真を表紙に使うことになるが、ウォルターのもとに届いたネガは指定された25番だけがなぜか欠けていた。見つけ出さなければ、真っ先にリストラされてしまうのは間違いない。携帯電話を持たないショーンとは連絡が取れず、ウォルターは彼に直接会いにいくことにする。送られてきた領収証などから居場所を探ると、彼はグリーンランドにいた。
さまざまな移動手段を使い、ウォルターは彼に近づこうとする。もちろん、まずは飛行機に乗った。グリーンランドの空港に着くと、レンタカー店でクルマを借りる。カウンターの男は、青いクルマと赤いクルマがあるという。色が違うだけで、どちらも「大宇マティス」だった。港まで急いで行くが、ショーンの姿は消えていた。ヘリコプターで操業中の漁船まで運んでもらい、その船でアイスランドまでたどり着く。そこからは自転車だ。しかし途中で壊れてしまい、おもちゃの人形と交換したスケートボードで誰も通らない道を疾走する。あらゆる手段でショーンを追うが、彼をとらえることはできない。
才人なのは知っていたけど、ベン・スティラーのスケボの腕前には驚いた。ハイスピードで高速コーナーをこなしていく姿は気持ちよさそうだ。クルマの出番が少ないのは少々気になったが、この後ちゃんと見せ場がある。現地の言葉がわからないせいでウォルターは危機に陥るが、ヘビーデューティーの極みであるあのクルマが救助に来る。最近日本ではとんと見かけなくなった「ラーダ・ニーヴァ」である。
今も現役のラーダ・ニーヴァ
1947年版では、ウォルターの空想シーンは一部がミュージカル仕立てだったりして、全体的に牧歌的な雰囲気だった。主演はダニー・ケイだから、コミカルでロマンチックな手触りになる。安手の推理小説を出しているピアース出版が舞台になっていて、知らぬ間に国際的な陰謀に巻き込まれて命を狙われるという話だった。ウォルターは校正係で、地味な仕事で不器用な性格だという設定は同じだ。
ほかにも、前の作品の要素のいくつかは巧妙に取り入れられている。オフィスに雑誌の表紙のポスターが掲示されている中を、両手に物を抱えたウォルターが歩いていくシーンはそっくりだ。会社のエレベーターホールでは、必ず何かが起きる。もちろん、時代は遠く隔たっている。1947年当時は『LIFE』誌の全盛期で、ロバート・キャパやユージン・スミスが活躍していた。今回の作品では、デジタル化の進行でグラフ誌自体の寿命が尽きようとしている。映画の中で紙雑誌の発行が終了してオンラインメディアに移行する様子が描かれるが、実際に今『LIFE』誌はデジタルアーカイブとして公開されている。
ニューヨーク近辺を走り回るだけだったウォルターは、世界を股にかけて冒険を行うようになった。1947年版では外国での行動は白昼夢として描かれたが、今作では彼が現実に北極圏まで足を伸ばすのだ。テクノロジーの発達は、世界を一変させた。それでも彼の窮地を救ったのが旧態依然たるラーダ・ニーヴァだったことは、何かを含意しているように見える。
旧ソ連時代に誕生したラーダ・ニーヴァは、実は現在でも作り続けられているらしい。1980年代のごく短い期間だが日本に輸入され、質実剛健な成り立ちと見た目が一部のマニアに人気を博した記憶がある。変わらぬ姿で現役なのは、ちょっとうれしい。
そして、何よりも変わっていないのは、ウォルター・ミティなのだ。それは平凡な人間のLIFEなのであり、私たち自身の姿でもある。どうやら、人は想像力を最大限に働かせることで、新たな一歩を踏み出すことができるらしい。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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