トヨタ・ノアSi 7人乗り(FF/CVT)
待ち望んだ“大本命”の帰還 2014.04.03 試乗記 およそ6年半ぶりにフルモデルチェンジを遂げた「トヨタ・ヴォクシー/ノア」。長らく後塵(こうじん)を拝していたライバルに反撃なるか。その進化を探った。それでも従来モデルは大健闘
日本ほどこのサイズ、つまりトール系のMクラスミニバンが必要とされ、さらに似合う国はないだろう。その中で常に市場をけん引してきた「トヨタ・ヴォクシー/ノア」のフルモデルチェンジはまさに“待望”といえるもの。いや、むしろそのタイミングは遅かったくらいである。
モデルライフは初代のR60型が5年7カ月、先代のR70型も6年半と、経営側から見れば“孝行息子”といえる車種である。もちろんこの激戦区をライバルたちが放っておくわけがない。その急先鋒(せんぽう)が「日産セレナ」、そして「ホンダ・ステップワゴン」であり、特にセレナに至っては2011年から2013年までこのクラスで3年連続販売ナンバーワンを達成している。
ではR70型がダメだったかというと決してそうではない。特に販売面では、モデル末期となった2013年でもヴォクシーが4万1918台/年で16位、ノアが3万2306台/年で22位(いずれも自販連のデータ)とベスト30をキープしている点は見事といっていいだろう。もちろん、そこに甘んじているトヨタではない。当然、新型はユーザーからの声を真摯(しんし)にくみ取り、理想の一台となるよう開発が進められた。その答が本格的ハイブリッドモデルの投入であり、ガソリン車の燃費向上、そして新開発の低床フラットフロアによる圧倒的な使いやすさの実現なのである。
実はヴォクシーよりお得?
試乗したのはガソリン車の最上位グレードでありエアロボディーをまとった「ノアSi」。2013年の東京モーターショーで参考出展された時、ヴォクシーがエアロボディー、ノアは標準車だったこともあり、周りでは「ヴォクシーはカッコいいけどノアはやはりファミリー向け」みたいな声を多く耳にした。しかし、そもそもミニバンはファミリー向けだし、ここで比較するのは筋が通っていない。要は比較するのはエアロボディー同士でなければならない。
なんとなくだが、チーフエンジニアの水澗英紀氏の耳にもそんなうわさは入っていたようで「どうしてもヴォクシーのことが話題になりがちですが、実はノアもものすごく頑張った」とのこと。実際、ノアもエアロボディーらしいワイド感(旧型同様3ナンバーとなる)は十分。従来モデルより25mm全高を下げ、全体の造形を低く構えたようなベース車のデザインとも相まって、迫力あるスタイルを実現している。
両車ともエアログレードには専用のフロントおよびリアバンパー、そして16インチアルミホイール等を装着しているが、実はここにノアとヴォクシーの違いが存在する。それがノアSi専用となるフロントグリルである。ヴォクシーの場合、ボンネット下のフロントグリルは標準モデルと同じ、アルミホイールまで含めたパーツは7つで構成される。一方ノアの場合はこれに専用のフロントグリルがプラスされ8つとなる。
このグリル、上部は太い幅を持つシルバーの加飾が施され、下部は大型のブラック仕上げとなっている。つまり、標準モデルとの比較をするとノアのほうがフロント周りの変化が大きい。もちろんどちらが優れている、とかの話ではないのだが、「ヴォクシーZS」とノアSiの価格は同じながら、ちょっとだけノアへの配慮があるような気がしてうれしいのである。
ヴォクシーが精悍(せいかん)さというか切れの良さを表現しているのであれば、ノアはミニバンの王道ともいえる押し出し感、前車のルームミラーに映った時、いい意味でのワンクラス上のプレッシャーを感じさせるのは、旧型から大きく進化した部分といえるのだろう。
視界良好、2列目最高!
新開発の低床プラットフォームは、乗降性や快適性を含めた新型の大きな魅力となっている。まず外から見た印象では、ウィンドウのベルトラインが下がっていることがわかる。実際どのシートに座っても肩口より下に見える視界は確実に広がっているし、地面から720mmというフロントシートは他車に比べ、よじ登るというより、軽く腰をスライドさせて座る感じ。それでいてミニバンらしい視界の広さを感じることができる。
2列目以降はさらに快適だ。リアドアの開口部は旧型より+75mmの805mm。もちろんアシストグリップも装着される。低床化を最も感じるのがこの時で、フロア高は360mmと旧型より85mmも低くなっている。正確には旧型も足をかける部分、つまりステップの位置は360mmだったのだが、実際のフロアはここから一段登る格好、つまり着座までには地面から階段を二段登るような動作が求められていたわけだ。
一方、全高が25mmも低くなっているのに、室内高は+60mmの1400mmと驚きの空間を実現している。売りのひとつである7人乗り仕様のスーパーリラックスシートは、従来のような複雑な操作ではなく、ひとつのレバーで簡単に操作できる点がよく考えられている。そしてこれを最後端まで下げれば、もはや気分は“VIP”(笑)。またこのモードを使う際にはサードシートを跳ね上げる必要があるが、この状態でもセカンドシートのリクライニング機構を使うことができる点もありがたい。
ただ、この機構を採用するため、今回サードシートのクッション部を薄型化しているのだが、この部分だけはどうもいただけない。トヨタは薄型化しても快適性は損なわれていないと言っているが、重量級の筆者が30分くらい座っていると、臀部(でんぶ)が落ちつかなくなる。機能自体は本当に便利だが、そのためになにかが犠牲になってしまうのは少々残念ではある。
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軽さと滑らかさが持ち味
搭載するエンジンは、ハイブリッド以外のガソリン車は2リッター直4の3ZR-FAE型のみ。旧型からの継続採用となるが、実際は軽量化のために吸気管の長さを変えるACISを廃止している。
パワステの制御の変更、そしてなによりサスペンションセッティングのうまさも手伝って、全体の印象は出だしから軽快である。今回はドライバー席だけでなく2、3列目にも乗ってみたが、そこで感じたのがレーンチェンジ時などに起きやすい後席での大きな揺り戻しや、応答の遅れが少ないことだ。最近はどのメーカーも、この辺の快適性に関していろいろな角度からのアプローチを行っており、「マツダ・プレマシー」や「フォルクスワーゲン・ゴルフトゥーラン」なども高い評価を受けている。今回の試乗車は16インチタイヤを装着するエアログレードだが、サスペンションセッティングは他のグレードと共通(旧型は意図的に変えていた)なので、そちらもおおむね同じ乗り味といえるだろう。
静粛性に関してはかなり改善されている。ノアの中で最も静かなグレードが欲しいというのであれば、遮音膜を挟み込んだフロントガラスなど、専用の対策を行っているハイブリッドを選べばいい。しかしガソリン車のレベルも高く、特に風切り音やフロア周りからの音はうまくカットできている。
加速性能に関しては、前述した軽快感にプラスして、アクセルペダルの応答性の良さとそこから踏み込んだ際のCVTの制御がうまい。もちろん、ほかのCVT車と同じく、床まで踏み込めば若干のタイムラグのあとにエンジンが勢いよく吹け上がり、その後になってようやく加速する傾向がないわけではない。しかしパーシャル状態からは軽く踏み込むだけでも速度が乗り、高速道路での追い越し加速時などでは重宝する。ただ、全体としては制御を燃費志向に振っている感があり、もう少し低速域でのトルクの厚みが欲しいと感じた。
出来のよさゆえの注文も……
ここまで紹介してきたとおり、快適性やハンドリング性能は旧型を大きくしのいでおり、しばらくの間はライバル車に対しても高いアドバンテージをたもてるだろう。しかしベースの出来がいいがゆえに、文句のひとつも付けたくなってしまうのをお許しいただきたい。
まずなにより、昨今では軽自動車にも採用されている「追突軽減ブレーキ」などの先進安全技術が用意されていない点だ。トヨタというメーカーは「石橋をたたいて渡る」企業なので、こと安全性に関しては絶対の自信がないと導入に踏み切れないのかもしれない(あくまでも私見)。ただ捉え方はさまざまだが、ファミリーが主戦場であるミニバンゆえに安全に関してはより先進的な技術でフォローする必要もあるのではないだろうか。
また今回の試乗とは直接関係ないのだが、実際ディーラーでも多く聞いた意見として、このエアロボディーをまとったハイブリッドモデルがない点も今後の課題だろう。これに関しては16インチタイヤやエアロパーツの重量増により、ハイブリッドならではの燃費性能が維持できないという課題があるようだが、この辺は次回のマイナーチェンジまでの宿題ということで預けておきたい(もっとも、そんなことはトヨタも重々わかっているはずなので、いずれラインナップに追加されるはず)。
さらに重箱の隅をつつくようで恐縮だが、燃費情報などを表示する「マルチインフォメーションディスプレイ」が、なぜかこのエアログレードではモノクロの3.5インチタイプと下位グレードと同じなのが不思議だ。ハイブリッドや他のガソリン上位系グレードには、4.2インチのTFTカラータイプが採用されているのだが、もしエアログレードにカラータイプが欲しいのであればメーカーオプションのSDカードナビを装着する必要がある。コスト増による価格アップを抑えた設定というのがあからさまに臭ってくる。こういう部分をケチらず、顧客のためになにが必要なのかを考えることで、このクラスのトップブランドとしての地位は盤石なものとなるはずだ。
(文=高山正寛/写真=向後一宏)
テスト車のデータ
トヨタ・ノアSi 7人乗り
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4710×1730×1825mm
ホイールベース:2850mm
車重:1610kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:152ps(112kW)/6100rpm
最大トルク:19.7kgm(193Nm)/3800rpm
タイヤ:(前)205/60R16 92H/(後)205/60R16 92H(ヨコハマ・デシベルE70)
燃費:16.0km/リッター(JC08モード)
価格:267万4285円/テスト車=327万5845円
オプション装備:ボディーカラー<ホワイトパールクリスタルシャイン>(3万2400円)/ワンタッチスイッチ付きパワースライドドア デュアル<両側>(5万9400円)/SDナビゲーションシステム+ノア・パノラミックサウンドシステム(39万2040円)/SRSサイドエアバッグ+SRSカーテンシールドエアバッグ(4万8600円)/寒冷地仕様<ウインドシールドデアイサー+PTCヒーターなど>(6万9120円)
※8%の消費税を含む
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:1309km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(7)/高速道路(3)/山岳路(0)
テスト距離:240.1km
使用燃料:26.8リッター
参考燃費:9.0km/リッター(満タン法)/8.7km/リッター(車載燃費計計測値)
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高山 正寛
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