スバル・インプレッサS206 NBR CHALLENGE PACKAGE(4WD/6MT)【試乗記】
ケンカもできるスポーツマン 2011.12.18 試乗記 スバル・インプレッサS206 NBR CHALLENGE PACKAGE(4WD/6MT)……596万4000円
「スバル・インプレッサWRX STI」をベースに、STIがスペシャルチューンを施したコンプリートカー「S206」。中でも特別な「NBR CHALLENGE PACKAGE」で、その実力を試した。
驚きのエンジン
「スバル・インプレッサWRX STI」ベースの新しいコンプリートカー「S206」のステアリングを握った瞬間、ズバッと全身を刺し貫いた第一印象は鮮烈。一言で総括すると、MACHINEがCARになった。目からウロコが何枚もパラパラ落ちるほどの成長。いや、成熟と言うべきだろう。
スバルのファン(と言うより“信者”。実は私もその一人)は、スペックの隅々までこだわる傾向があるが、やはり「走り」こそ金看板。まずは発進してみよう。
機械的な抵抗を極限まで削り取ったボールベアリング・ターボの威力が、これまで以上に直感できるのが最初の驚きだ。これまでも「Sシリーズ」のエンジンは、低回転で滑らかに粘りながら、3500rpmを超えるや猛然と咆哮(ほうこう)を高め、同時にトルクも一気に絶頂めがけて駆け登った。つまり、明確な“山”があった(そこが魅力でもあった)のだが、今度のは、どこから踏み込んでも涼しい顔でスイ〜ッと立ち上がる。7900rpmのレブリミットまで目いっぱい引っ張り上げるか、早めにシフトアップして余裕の伸びを味わい尽くすか迷うほど、守備範囲が広すぎる。
もちろん、パンチの強烈さは折り紙付き。いかに過給とはいえ、たった1994ccから最高出力320ps/6400rpm、最大トルク44.0kgm/3200-4400rpm(普通のNAエンジンなら4000cc以上に匹敵)を絞り出すばかりか、渋滞でも不機嫌にならないとは、半端な力量でできる仕事ではない。
そんな肺活量と筋力を、本質的に一次振動のない水平対向ならではのスムーズさで見せつけられるという一種のミスマッチ感覚も、このクルマに乗るスバリストだけに与えられた特権だ。それもそのはず、Sシリーズでは動的内部部品のひとつひとつが、普通のインプレッサよりさらに綿密にバランスを取り直してから組み上げられるのだ。こんなに滑らかだと、かえって等長排気系になる前の、「ドコドコドコッ」とぶっ切れたような排気音が懐かしくなってしまったりする。
スポーツドライビングの極み
そして、こんな珠玉のフラット4を余すことなく生かすのが、強じんなボディー。入れ物がしっかりしているからこそ、たくましいサスペンションも使いこなせ、怪力(快力)を効果的に路面に刻み込むことができる。基本的にガシッとくる乗り心地だが、じっくり重厚な味わいも表面に出ている。冒頭で「MACHINEがCARになった」と書いたのはその点で、スポーツセダンの中の“セダン”の部分が、みごとに磨き上げられている。
ハンドリングも、すっかり大人びた。標準装着されるミシュラン・パイロットスーパースポーツ(新種)のしなやかさも効いたのだろうが、どう扱ってもネバ〜ッと執拗(しつよう)な接地感が薄れない。従来のSシリーズ(特に「ピレリPゼロコルサ」装着車)では接地感を実感しにくく、瞬時に最大の負荷をかけるサーキット以外では真価を発揮できなかったのと対照的だ。
だから、世界最高クラスの感触を誇る6段MTと、高熱になればなるほど微妙的確なタッチが増すブレーキ(ブレンボ製キャリパーより、ドリルドディスクローターに秘薬が潜む)を駆使してワインディングロードを駆け抜ける境地は、スポーツドライビングの極みと言いたい。これに比べれば、これまでの「S」は、ドライビングよりもスパーリングに近かったかもしれない。
ここで注目すべきは駆動系の肝であるセンターデフ。前48%、後52%のトルク配分を基本としながらDCCD(ドライバー・コントロール・センターデフ)のダイヤルを操作して、フロント重点にもリア寄りにも任意に設定できるのだが、白目に血管が浮き出るほど攻めた結論は、AUTOポジションに任せるのが一番ということ。
フロント寄りだと、コーナーの出口で踏めばてきめんにノーズから大きく膨らみ(実質的にパワフルなFF車状態)、リア寄りだと限界近くで唐突にテールがイキかける。それがAUTOだと、「後ろから押す」のと「前から引っ張る」のが瞬間ごとに“絶妙なカクテル”のようになり、ドライバーは4WDの良さを余さず満喫できる。
………という第一印象を報告しただけでは、ヤンチャ系インプレッサに親しんできた元気者を落胆させるかもしれない。
だが心配は無用。新しいS206は鋭い牙を抜かれたのではなく、立派な大人でありながら喧嘩(けんか)も上等という多重人格者(車)なのだ。
理想のロードカーをめざす
それは、富士重工の特殊精鋭部隊であるSTI(Subaru Technica International)の今とこれからを雄弁に語る変身でもある。かつてWRCを制した名機(日本車として最多勝)が翼を連ねて飛び立った基地STIだけに、競技車両のFIA公認取得のためのベース車か、前線の戦塵(せんじん)を持ち帰るワークスレプリカというのが、これまでのスペシャル・インプレッサの姿だった。
それに対してこれからは、「ラリーで培った膨大な知識と経験をフルに注ぎ、インプレッサを素材としたコンプリートカーとして、理想のロードカーをめざす」というわけだ。
それが達成できてこそ、今までの努力も本当に実を結んだことになる。そしてその道筋は、S206を生んだ顔ぶれを見ればわかりやすい。
いまSTIで開発陣のボス役をつとめる辰巳英治さんは、かつて富士重工の“トップガン”として、初代「レガシィ」の味付けを一身に任された貴重な経験の持ち主。開発責任者の桂田勝さんに「レガシィをどう走らせるかは、みんなで相談した最大公約数じゃありません。私が見込んだテストドライバーひとりにすべて委ねたんです」と言い切らせたほど、研ぎ澄まされた感性の持ち主だ。
その辰巳さんは、S206の先代にあたる「インプレッサR205」で試み、さらに現在の「レガシィtS」系で実践しているように、「速きゃいいんだろ」的なクルマ作りはしない。
「乗ってみて『俺って、運転うまくなっちゃったかな!?』と思わせたいんです」と言うように、普通の人が気持ちよく走れるクルマを理想に、あれもこれもと欲張った開発に全力を注いでいる。それは、これからのSTIにとっても重要な指針になるはずだ。すべてうまくいけば、STIに育まれた特別なスバルが、ちょうどメルセデスの擁するAMGのように、心底クルマを愛する私たちの暮らしを艶めかせてくれるに違いない。
そんな予感に満ちたインプレッサS206は限定300台ぽっきりで540万7500円。そのうち100台の「NBR CHALLENGE PACKAGE」は、2011年のニュルブルクリンク24時間耐久レースでのクラス優勝を記念する本当の意味でのレプリカ(カーボン製ルーフパネルを持ち、これだけで重心が3〜4mm下がる)で、593万2500円もする。
思わず心臓が痛む値札だが、聞いてビックリ、2011年11月24日の発売からわずか半月で完売だそうだ。特にNBR CHALLENGE PACKAGEなど、発表前にうわさが流れた瞬間スパッと売り切れたとか。
初代Sシリーズ「S203」の元オーナーとしては出遅れが悔しいが、ホッとしたのも事実。まだ買えたら、金策に悩み悶(もだ)えたあげく、勝ち目のない夫婦ゲンカが待ちかまえていたに違いない。
(文=熊倉重春/写真=高橋信宏)
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熊倉 重春
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