トヨタ・ヴィッツ1.3F(FF/CVT)
和製フレンチコンパクト 2014.06.12 試乗記 デビュー4年目を迎えた「トヨタ・ヴィッツ」が大幅にマイナーチェンジ。刷新された1.3リッターエンジンや25.0km/リッターの低燃費ばかりが注目を集めているが、それ以外にも見落とせない進化のポイントがあった。答えはハイブリッドだけではない
燃費のいいコンパクトカーがほしいが、ハイブリッドにはこだわらない、という人も多い。それが証拠に、「日産ノート」は相変わらずよく売れている。昨年夏にモデルチェンジした「ホンダ・フィット」は、販売の7割がハイブリッドだが、コンベンショナルなガソリンエンジンを選ぶ人も3割はいる。ぼくの身近で唯一の新型フィットカスタマーも、1.3リッターのMTを購入した。初代フィットMTからの買い替えだからだ。
トヨタのハイブリッド・コンパクトといえば、ハイブリッド界の断トツ・ベストセラー「アクア」である。しかし、一番安いグレード同士で比べると、「ヴィッツ」や「パッソ」より60万円以上高い。この際、一気にダウンサイジングをしようと、10年モノの6気筒セダンなどから乗り換えれば、アクアは人生観が変わるくらいガソリン代のかからないクルマだが、コンパクトクラスならもともと実用燃費は悪くない。差額60万円の元をとるには、何年何km走らなきゃ……なんてシビアにソロバンをはじき始めたら、このクラスでハイブリッドが唯一の正解でないことは明らかである。逆に言うと、コンパクトクラスはまだまだアンチハイブリッド勢に大きな可能性がある。
というわけで、ヴィッツがマイナーチェンジをした。目玉は新開発の1.3リッター4気筒“1NR-FKE”。この新エンジンを搭載するモデルは、1リッター3気筒版をしのぐヴィッツ最良のJC08モード値(25.0km/リッター)を達成し、アクアやプリウスと同じエコカー減税100%をゲットしている。
パワーもマナーも文句なし
試乗車は新型1.3リッター4気筒を搭載する「F」。アトキンソンサイクル、クールドEGR、電動モーターを使った可変バルブタイミング機構など、最新の省エネ技術を盛り込んだエンジンで、380kmあまりを走った燃費は14.5km/リッター(満タン法)だった。
車載燃費計の推移を見ていると、市街地のほうが燃費は好転し、混んだ都内でも17km/リッターを超した。今回のように全行程の6割が高速道路という走行パターンはお気の毒だったかもしれないが、トータルで14km/リッター台とは、燃費自慢の1.3リッターコンパクトならもう一声かなと思った。車載燃費計の表示は14.2km/リッター。これまでの経験で言うと、トヨタとフォルクスワーゲン系の車載燃費データは、満タン法との誤差が小さく、ガソリンスタンドで軽い失望を覚えることもない。
実走燃費はフツーだったが、99psの新エンジンはパワーもマナーも文句なしである。トップエンドまで回転はスムーズで静か。NA(自然吸気)ながら、力感はノートの1.2リッター3気筒スーパーチャージャーをしのぐ。アイドリング・ストップ機構の作動も、付いていたことを覚えていないくらい密(ひそ)やかである。トランスミッションはCVT。無段変速機にありがちな、「いつもより多めに回ってます」的な違和感もない。
だが、新しいこの1.3リッターヴィッツで最も好印象を受けたのは、実は足まわりだった。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
“猫足”のころのフランス車を思わせる
新型ヴィッツはショックアブソーバーの改良など、シャシーのチューニングも見直された。従来のヴィッツでボディー剛性の不足を感じた記憶はないが、新たにスポット溶接の打ち増しが施されたという。
それらの効果か、乗り心地がいい。サスペンションにはたっぷりしたストローク感があり、路面の細かなデコボコのいなし方もうまい。1.3Fの車重は素の状態で1000kg。50万円近いオプションを付けた試乗車でも1020kg(車検証記載値)だが、猫足時代のフレンチコンパクトを彷彿(ほうふつ)させるようなバネ下のゆったりした動きはとてもそんな軽々しいクルマと思わせない。ヴィッツの新しい芸風と言ってもいいような快適な乗り心地だ。
リアシートを荷室に変える際の使い勝手などはフィットにかなわないが、それでも人や荷物を乗せる能力はフツーにすぐれている。前席には小物入れ多数。高めの座面を持つリアシートは居心地にすぐれる。
助手席クッションの先から “壁”がせり上がり、シートの上に載せたモノが床に落ちるのを防ぐ“買い物アシストシート”はヴィッツオリジナルのアイデア装備だ。今回、山道をハイペースで走ったときにその恩恵にあずかる。
台形の大きなフロントグリルで存在感を増した新型ヴィッツのイメージカラーは黄色である。テレビコマーシャルでは、欧州車的な渋い黄色に見えて期待したが、試乗車で初めて見た“ルミナスイエロー”は鮮やかなレモンイエローだった。レモンイエローのクルマ、好きですか? オジサンはフツーです。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
トヨタ・ヴィッツ1.3F
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3885×1695×1500mm
ホイールベース:2510mm
車重:1020kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:99ps(73kW)/6000rpm
最大トルク:12.3kgm(121Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)175/70R14 84S/(後)175/70R14 84S(ブリヂストン・エコピアEP25)
燃費:25.0km/リッター(JC08モード)
価格:145万145円/テスト車=170万6105円
オプション装備:ボディーカラー<ルミナスイエロー>(3万2400円)/LEDヘッドランプセット<アッパーグリルモール+LEDヘッドランプ+コンライト>(7万6680円)/スマートエントリーセット<スマートエントリー&スタートシステム+盗難防止システム>(4万6440円)/ナビレディセット<オーディオレス+ステアリングスイッチ>(4万6440円)/スマイルシートセット<スタンダードフロントシート+買い物アシストシート+助手席シートアンダートレイ>(1万800円)/SRSサイドエアバッグ<運転席・助手席>&SRSカーテンシールドエアバッグ<前後席>(4万3200円)
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:1245km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:381.6km
使用燃料:26.3リッター
参考燃費:14.5km/リッター(満タン法)/14.2km/リッター(車載燃費計計測値)
![]() |

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
MINIジョンクーパーワークス(FF/7AT)【試乗記】 2025.10.11 新世代MINIにもトップパフォーマンスモデルの「ジョンクーパーワークス(JCW)」が続々と登場しているが、この3ドアモデルこそが王道中の王道。「THE JCW」である。箱根のワインディングロードに持ち込み、心地よい汗をかいてみた。
-
ホンダ・アコードe:HEV Honda SENSING 360+(FF)【試乗記】 2025.10.10 今や貴重な4ドアセダン「ホンダ・アコード」に、より高度な運転支援機能を備えた「Honda SENSING 360+」の搭載車が登場。注目のハンズオフ走行機能や車線変更支援機能の使用感はどのようなものか? 実際に公道で使って確かめた。
-
ホンダ・プレリュード(FF)【試乗記】 2025.10.9 24年ぶりに復活したホンダの2ドアクーペ「プレリュード」。6代目となる新型のターゲットは、ズバリ1980年代にプレリュードが巻き起こしたデートカーブームをリアルタイムで体験し、記憶している世代である。そんな筆者が公道での走りを報告する。
-
日産リーフB7 X(FWD)/リーフB7 G(FWD)【試乗記】 2025.10.8 量産電気自動車(BEV)のパイオニアである「日産リーフ」がついにフルモデルチェンジ。3代目となる新型は、従来モデルとはなにが違い、BEVとしてどうすごいのか? 「BEVにまつわるユーザーの懸念を徹底的に払拭した」という、新型リーフの実力に触れた。
-
NEW
第849回:新しい「RZ」と「ES」の新機能をいち早く 「SENSES - 五感で感じるLEXUS体験」に参加して
2025.10.15エディターから一言レクサスがラグジュアリーブランドとしての現在地を示すメディア向けイベントを開催。レクサスの最新の取り組みとその成果を、新しい「RZ」と「ES」の機能を通じて体験した。 -
NEW
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか?
2025.10.15デイリーコラムハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。 -
NEW
MTBのトップライダーが語る「ディフェンダー130」の魅力
2025.10.14DEFENDER 130×永田隼也 共鳴する挑戦者の魂<AD>日本が誇るマウンテンバイク競技のトッププレイヤーである永田隼也選手。練習に大会にと、全国を遠征する彼の活動を支えるのが「ディフェンダー130」だ。圧倒的なタフネスと積載性を併せ持つクロスカントリーモデルの魅力を、一線で活躍する競技者が語る。 -
なぜ給油口の位置は統一されていないのか?
2025.10.14あの多田哲哉のクルマQ&Aクルマの給油口の位置は、車種によって車体の左側だったり右側だったりする。なぜ向きや場所が統一されていないのか、それで設計上は問題ないのか? トヨタでさまざまなクルマの開発にたずさわってきた多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】
2025.10.14試乗記2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。 -
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する
2025.10.13デイリーコラムダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。