アウディS3セダン(4WD/6AT)
なんだか気ぜわしい 2014.06.16 試乗記 「アウディA3セダン」の高性能モデル「S3セダン」に試乗。280psの2リッター直4ターボエンジンとクワトロ4WDシステムを備えた、小粒でもぴりりと辛いスーパーセダンの走りは? 箱根のワインディングロードを目指した。計算された“狼”
今年早々に「A3シリーズ」に追加された「A3セダン」は、日本向けコンパクトサイズの戦略モデルという触れ込みである。どちらかと言えば地味で普通のコンパクトセダンだが、もちろん普通と言ってもそこはアウディクオリティーである。その清潔さや隙のない出来栄えは、身だしなみに気を配る今時の若い層だけでなく、大きなサイズや派手派手しさを敬遠する年配層にも十分にアピールするはずである。
いまさらではあるが、もともと日本の5ナンバーサイズは全長4.7m×全幅1.7m、エンジン排気量2リッター以下。これを「小型車」と呼び、それ以上を3ナンバーの「普通車」と定め、各種統計もいまだにこの規格に沿っているのだが、実際には近頃あまり話題に上らない。小排気量でも全幅のみ1700mmを超えるせいで3ナンバーになる車が多く、ユーザーの実感にはそぐわなくなっているからだろう。現実の日本の路上で使いやすいサイズを考えればやはり全長4.5m前後、全幅は1.8m以内というところではないかと考える。「メルセデス・ベンツCクラス」や「BMW 3シリーズ」、そして「A4」も昔はこのぐらいの寸法だったが、皆上級移行で大型化したために手薄になったセグメントを代わりのモデルが埋めようとしているのだ。
そんなA3セダンの高性能版が「S3セダン」である。全長4470×全幅1795×全高1380mmのコンパクトなボディーにパワフルなエンジンを詰め込んだ高性能セダン、古くさい言い方なら“羊の皮をかぶった狼”ということになるかもしれないが、この車はちょっと違う。羊に見える狼は、無理を承知で高性能、というメーカー/ユーザー双方の了解があって成り立つもので価格もリーズナブルだった。その点、S3は最初からしっかり計算された最上級モデルという位置づけだろう。何しろ今や「1」を除く「3」から「8」まですべてのラインナップに「S」と「RS」が設定されているからだ。ここまでくると正直、ありがたみも薄れ、ああまたあれね、となってしまうのも無理からぬことだと思う。ライバルに対して隙を見せるわけにはいかない事情も分かるが、豊富な品ぞろえが当たり前になると、特別な店というエクスクルーシブ感が薄れてしまうのでは、と心配にもなる。
鋭く、速く、せわしなく
S3セダンは、車高を下げた(ノーマル比-25mm)専用サスペンションと18インチタイヤ(コンチスポーツコンタクト2)を標準装備、さらにパワートレインは280psを生み出す直噴2リッターターボに6段Sトロニック(DCT)、ハルデックスカップリングによる横置き用クワトロシステムという、一族の4気筒モデル用としては最上級の素材を使った定番の調理法で仕上げられている。簡単に言えば「フォルクスワーゲン・ゴルフR」のアウディ版である。
Sを標榜(ひょうぼう)するからには、当然速く、鋭敏だ。280ps(206kW)/5100-6500rpmと38.8kgm(380Nm)/1800-5100rpmを絞り出すエンジンは、6500rpmからのレッドゾーンを超え、6700rpmぐらいまでジュバーッと一気呵成(かせい)に回り、シフトアップ時はバフッ、バフッ、といかにも高性能ターボらしい息遣いを漏らす。アルミ製ボンネットを採用するなど軽量化に留意されているとはいえ、クワトロゆえにノーマルA3セダンに比べればだいぶ重い1520kgの車重を感じさせない加速力は、0-100km/h=4.9秒という数値を納得させるに十分だ。
ロック・トゥ・ロック2回転強のクイックなステアリングホイールをわずかに切り込めばスパッと向きを変えてくれるし、そこから踏み込むだけでモリモリ加速していってくれる。おそらくは軌跡が膨らまないように内側輪を“つまむ”、いわゆるブレーキステア的な電子制御が入っているのだろう。多少ラフな操作をしてもスロットルを踏み過ぎても、分からない人には分からないまま車がカバーして、ドライバーの腕が上がったような気持ちにさせる一種の“おもてなし”デバイスである。気持ち良く走るにはこれはこれで効果的だが、過信は禁物。物理的な限界を超えたらどうしようもないということを忘れてはいけません。
落ち着かない
軽快感と敏しょうさがS3の持ち味だということは分かったが、問題はしっとりとした緻密な手応えに少々欠ける点である。パキパキした鋭さを優先させたせいか、ハンドリングはリニアというよりはやや人工的な鋭敏さを持ち、常にせかされている感覚で、緻密な上質感というアウディの美点がそがれているような印象を受けた。
乗り心地も落ち着きがない。硬くてラフというわけではなく、ささくれだったザラザラ感とも違うが、絶えずゴロゴロした細かな上下動がつきまとい、足まわりが滑らかに動いていない印象だ。この車はオプションのマグネティックライド・可変ダンピングシステムを装備していたが、こういう落ち着きのなさは基本的にダンパー減衰力を変えてどうにかなるものではない。エフィシェンシー/コンフォート/ダイナミック/オート/インディビジュアルの5種類のモードを選択可能なアウディドライブセレクトもあまり効果的ではなく、例によってどこを選んでもピシリと決まる最適モードが見つからないという状況になる。どうせならもっとメリハリの利いたエコ/ノーマル/スポーツの3段階ぐらいでいいのではないだろうか。運転中は操作しづらいドライブセレクトのスイッチを押していると、翻訳ソフトで処理したような妙な日本語表示が表れるのもちょっと興ざめである。何だか以前に比べて細かい部分への配慮が足りないな、と感じてしまうのは私だけだろうか。
大人には物足りない
後席の足元や膝周りはまずまず不満のない広さといえるが、肩から上はちょっと窮屈だ。顔の横にサイドウィンドウが迫り、圧迫感がある。グリーンハウス部分を台形にギュッと絞ったスタイルの宿命と言えるかもしれない。広々とは感じない室内に比べて、ラゲッジスペースは余裕がある。容量はFFモデルより少ない390リッターだが、形状がスクエアなうえに後席バックレストは分割可倒式、さすがにこういう所の実用性には手ぬかりない。
高性能モデルをイージーに扱えることに異議を唱えるつもりはない。数を売るなら、特別な技量や経験、苦労を必要としない方向に進むのが常道だ。ただ、経験者として言わせてもらえば、簡単に手に入るものは程なく飽きてしまうということも忘れてはいけない。それにボリュームモデルをベースにしたピリリと辛口のホットモデルと言うには、S3は少々お高いかもしれない。ベーシックな1.4 TFSIセダンの334万円に比べて倍近い577万円である。しかもこの車はアウディマグネティックライド(16万円)、アダプティブクルーズコントロール(8万円)、本革シート(21万円)などのオプションを装備しており、トータルでは630万円に達する。もっとも、この価格はライバルを見据えてのこと。ちょうど同じころに導入されたBMWのコンパクトなスポーティーモデル「M235i クーペ」は601万円である。ただしこちらは、エンジンのフィーリングもボディーコントロールの滑らかさについても実に緻密な完成度で最近では出色の出来具合といえる。できれば4WDがいい、後輪駆動は好みじゃないなどなど、嗜好(しこう)はさまざまだからあくまで私の個人的意見だが、いわゆるプレミアムコンパクトに600万円を使うなら、BMWを薦める。
(文=高平高輝/写真=高橋信宏)
テスト車のデータ
アウディS3セダン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4470×1795×1380mm
ホイールベース:2630mm
車重:1520kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:280ps(206kW)/5100-6500rpm
最大トルク:38.8kgm(380Nm)/1800-5100rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト2)
燃費:14.4km/リッター(JC08モード)
価格:577万円/テスト車=630万円
オプション装備:アウディマグネティックライド(16万円)/バング&オルフセンサウンドシステム(8万円)/本革シート(ファインナッパ)+シートヒーター(フロント)(21万円)/アダプティブクルーズコントロール(8万円)
テスト車の年式:2014年型
テスト車の走行距離:3568km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:347.9km
使用燃料:32.5リッター
参考燃費:10.7km/リッター(満タン法)/11.3km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。 -
第858回:レースの技術を市販車に! 日産が「オーラNISMO RSコンセプト」で見せた本気
2026.1.15エディターから一言日産が「東京オートサロン2026」で発表した「オーラNISMO RSコンセプト」。このクルマはただのコンセプトカーではなく、実際のレースで得た技術を市販車にフィードバックするための“検証車”だった! 新しい挑戦に込めた気概を、NISMOの開発責任者が語る。 -
ルノー・グランカングー クルール
2026.1.15画像・写真3列7座の新型マルチパーパスビークル「ルノー・グランカングー クルール」が、2026年2月5日に発売される。それに先駆けて公開された実車の外装・内装を、豊富な写真で紹介する。 -
市街地でハンズオフ運転が可能な市販車の登場まであと1年 日産の取り組みを再確認する
2026.1.15デイリーコラム日産自動車は2027年に発売する車両に、市街地でハンズフリー走行が行える次世代「ProPILOT(プロパイロット)」を搭載する。その発売まであと1年。革新的な新技術を搭載する市販車の登場は、われわれにどんなメリットをもたらすのか。あらためて考えてみた。



























