ランボルギーニ・ウラカンLP610-4(4WD/7AT)
ファイティングブルの再定義 2014.07.15 試乗記 まれに見る成功作の後継モデルなら、守りに回るのがビジネスの常道であろう。しかし、ランボルギーニは攻めの姿勢を崩さなかった。「進化」ではなく「革新」を選んだ新たなるミドルサイズ・ファイティングブル「ウラカン」で、同社の本拠地であるイタリアはサンターガタ・ボロネーゼからフランス南部のポールリカール・サーキットを目指した。攻めのモデルチェンジ
失敗が許されないモデルチェンジ――これが、「ガヤルド」の後継モデルとしてウラカンを投入するランボルギーニに課せられた絶対的な命題だったことは疑う余地がない。
2003年のデビューから2013年までに合計1万4022台が生産された前作、ガヤルドは、“猛牛”にとって史上最高のセールスを記録したモデルであり、これまでランボルギーニのビジネスを支えてきた屋台骨でもあった。これほどの成功作を引き継ぐモデルであれば、方向性を大きく変えない“キープコンセプト”とするのが自動車メーカーの常とう手段である。
けれども、ランボルギーニはウラカンの開発に際して、あくまでも攻めの姿勢を崩さなかった。ダウンサイジングコンセプトが主流の昨今、あえて大排気量マルチシリンダー自然吸気(NA)エンジンにこだわったいっぽうで、駆動系を一新。エクステリアデザインだけでなく、その骨格となるボディー構造にも大胆に“メス”を入れた。
それらは、次の10年間に向けても「ランボルギーニはランボルギーニらしさを失わない」という明確な主張を込めたメッセージだった。
いっぽうで、自動車産業を取り巻く環境が、ランボルギーニのようなスーパースポーツカーにとって極めて困難なものになっているのも事実。とりわけ、CO2排出量削減に対する要求は厳しいものと推測される。そのほかにも安全性の向上などで生じる開発費の高騰は、年産2000台ほどと極めて規模の小さなランボルギーニにとっては想像を超す重荷となっているはずだ。
しかし、ランボルギーニはフォルクスワーゲン・アウディ・グループの一員として、グループの開発成果を享受するとともに、自らの開発成果をグループに提供する役割も担っている。あまり声高に説明されることはないが、ウラカンが次期型「アウディR8」と多くの部分を共用していることは周知の事実。それゆえに潤沢な開発資金が用意され、先進的な技術を投入しやすかったとも推測される。
とはいえ、ランボルギーニはあくまでもランボルギーニ。それらの先進技術は、冒頭に述べた「失敗の許されないモデルチェンジ」のため、つまりガヤルドを上回るニューモデルを作り上げるために用いられたと見ていい。
では、ランボルギーニの次の10年を担うウラカンはどのような成り立ちをしているのか? まずはこの点を理解するために、ランボルギーニ研究開発部門取締役のマウリツィオ・レッジャーニ氏によるプレゼンテーションに耳を傾けてみることにしよう。
ギアボックスはDCTへ
レッジャーニ氏が最初に説明したのはANIMA(Adaptive Network Intelligent Management)である。イタリア語で“魂”の意味になるというこの略語は、エンジン、トランスミッション、4WDシステム、ESCなどのドライビングダイナミクス関連システムをひとつのスイッチで統合的に設定できるコントロールシステムを指す。いわばアウディ・ドライブ・セレクトのようなものである。
ただし、ランボルギーニが採用するだけあって、そのシステムは技術的にはるかに先進的なものとなっている。例えば、ヨーレートセンサーを3軸個別に持たせることで処理速度を速めたほか、フィードバックだけでなくフィードフォワード制御も導入。しかも、これらをドライビングコンディションなどにあわせて可変制御するため、アウディのようにサスペンション制御やステアリング制御などを個別に調整できるインディビュジュアルモードはあえて設けず、ステアリング下部にあるひとつのスイッチでコントロールする形式が選択された。
いっぽう、パワーユニットとしてはガヤルドの後期モデルと基本的に同じV10 5.2リッターNAエンジンを搭載しているが、直噴とポート噴射を組み合わせることで最高出力610ps/8250rpmと最大トルク57.1kgm(560Nm)/6500rpmを達成している。直噴とポート噴射の役割分担は、フルスロットルなどの大負荷時は直噴、パーシャルスロットル時はポート噴射が主になると考えるとわかりやすい。レッジャーニ氏は、この新エンジンではパフォーマンスと環境性能(CO2排出量:290g/km)が改善されたほか、エンジンレスポンスも大幅に向上していると説明した。
これに組み合わされるギアボックスは、LDF(ランボルギーニ・ドッピア・フリッツィオーネ)と呼ばれる7段DCTオートマチック。いわばアウディSトロニックだが、ガヤルドはいうにおよばず、「アヴェンタドール」もシングルクラッチ式を用いるのに対し、ウラカンでランボルギーニ初となるDCTが登場したことは実に興味深い。
さらに4WDシステムはガヤルドのビスカスカップリングから電子制御油圧多板クラッチ式に進化したほか、サスペンションには磁性体粒子により減衰力を可変させる電磁ダンパーコントロールシステムを装備。そしてボディー構造は、カーボンファイバーとアルミを融合させたハイブリッドシャシーを採用することで高剛性化と軽量化を両立させたという。
つまりウラカンは、ガヤルドとハードウエア的な結びつきがほとんどない、全面的な刷新が図られた完全なニューモデルなのである。
ANIMAシステムで柔にも剛にも
今回のツアーは、ランボルギーニの聖地であるサンターガタ・ボロネーゼからフランス南部のポールリカール・サーキットまでの600kmあまりを、ウラカンとアヴェンタドールを乗り換えながら走ったうえに、ポールリカールではショートサーキットでの走行まで許されるという実にぜいたくな内容。ウラカンの進化ぶりを見極めるにはおあつらえ向きなルートといえるだろう。
まずはサンターガタのランボルギーニ工場を出発。ANIMAはストラーダ(ストリート)モードで走りだす。最初に印象に残るのは、LDFの作動が極めてスムーズなことだ。これまでのようにパーキングスピードで微妙な操作を繰り返してもギクシャクすることがなく、変速もスムーズで素早い。これであれば市街地走行もまったく苦にならないだろう。
エンジンは低速回転域から力強いうえに、うたい文句どおりレスポンスは良好。また、ストラーダの状態ではエキゾーストノートも低く抑えられており、周囲の歩行者を気遣う必要もない。
これをスポルト(スポーツ)に切り替えるとエンジンサウンドは騒がしく、シフトショックは激しく、そして乗り心地もよりハードになる。ただし、いずれも市街地走行ではパフォーマンスの向上代を享受するというよりは、そのスパルタンな印象に戸惑うことが多いといったほうがいい。
けれども、アウトストラーダに足を踏み入れて速度域を高めれば、スポルトのよさがジワジワと見えてくる。まず、それまで硬いと思っていた乗り心地がすっと滑らかに感じられるようになる。あわせてステアリングの据わりがよくなり、ちょろちょろと蛇行する傾向が収まる。そういえば、急な加減速が減ったせいか、シフトショックの大きさを意識することもなくなった。どうやらウラカンの速度がスポルトの設定域に近づいてきたようだ。
「ガヤルド」をしのぐ完成度
では、ショートサーキットでの走行にコルサがぴたりとはまったかといえば、そうとも言い切れない。いや、正確にいえば、スポルトとコルサのそれぞれに美点があり、どちらがいいとは一概に言い切れなかったのである。
先にスポルトでコースを走る。足まわりの設定はコルサよりも一段柔らかめになっているはずだが、サーキット走行でも決してロールが過剰とは感じられない。定常円旋回によく似た、大きな弧をぐるりと回り込むコーナーで限界付近の挙動を試した際にも、ステアリングやスロットルの操作に素早く追従してくれるのでコントロール性は良好。フルタイム4WDゆえ、ステアリング特性そのものは基本的にアンダーだが、スロットルをじわりと抜けばテールがアウト側にスライドしようとするのでラインをトレースするのは容易である。
いっぽう、ここでコルサに切り替えると、サスペンションはさらにソリッドな印象を与えるようになり、ステアリングレスポンスはより鋭敏になる。前述したコーナーで同様にハンドリングを試すと、こちらのほうがわずかなスロットル操作でアンダーやオーバーに持ち込めることがわかる。しかも、ステアリングレスポンスがシャープになった分、カウンターステアは思いのまま。まさにクルマを振り回して楽しむにはぴったりな設定といえる。
もっとも、これはあくまでも想像だが、サスペンションがしなやかにストロークするスポルトのほうが、タイヤのグリップを余すところなく引き出してラップタイム的には速いのではないか、という気もしなくもなかった。ただし、今回のサーキット走行で先導役を務めたレーシングドライバーのマルコ・アピチェラ氏は「コルサではすべてのセッティングがラップタイム優先に切り替わる」と語っていたので、これは単に筆者の錯覚にすぎなかったようだ。
それにも増して印象に残ったのは、ANIMAを得たことでウラカンはガヤルドよりはるかにスイートスポットの広いスーパースポーツカーになったということ。すなわち、市街地ではより快適に、そしてサーキットではレーシングカー並みにドライビングに没頭できるポテンシャルを得たのだ。その背景には、ボディー剛性の高いハイブリッドシャシー、レスポンスのいいエンジン、よりスムーズで素早くシフトするギアボックスなど、個々のコンポーネンツの大幅な進化が存在しているわけだけれども、どんな目的で使っても前作をしのぐパフォーマンスを発揮することがウラカンの目指すところであったとすれば、それは見事に達成されたというべきだろう。
これでランボルギーニは次の10年もまず安泰といってよさそうだ。
(文=大谷達也<Little Wing>/写真=アウトモビリ・ランボルギーニ)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウラカンLP610-4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4459×1924×1165mm
ホイールベース:2620mm
車重:1422kg(乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:610ps(449kW)/8250rpm
最大トルク:57.1kgm(560Nm)/6500rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20/(後)305/30ZR20
燃費:12.5リッター/100km(約8.0km/リッター)(1999/100/EC 複合モード)
価格:2970万円/テスト車=--円
オプション装備:--
※諸元は欧州仕様、価格は日本市場でのもの。
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードおよびトラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
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