メルセデス・ベンツA250 シュポルト 4MATIC(4WD/7AT)
これからが楽しみである 2014.07.30 試乗記 「メルセデス・ベンツAクラス」の上級グレード「A250 シュポルト」が進化して4WDシステムを得た。211psを誇る2リッターユニットと、AMGが開発に携わったスポーティーな足まわりがもたらす走りは、4MATICに進化してどう変わったのか。見せ方がうまい!
Aクラスは革新的であり、確信的なメルセデスだ。その思いは、AMGの手によってブラッシュアップされた「A250 シュポルト 4MATIC」に乗って、さらに強くなった。
A250 シュポルト 4MATICは、2リッターの直噴ターボ(211ps)を搭載する4WDのハッチバックである。「A180」をはじめとしたFWD(前輪駆動)モデルをベースに、最新のハルデックスカップリングを装着することで4WDを名乗っている。
その駆動力は、電動油圧制御式のマルチディスククラッチによって前後比で100:0から50:50までの間でフレキシブルに分配される。4WD採用の主眼は、コーナリング性能の向上というよりも、路面状況の悪化に対する直進安定性の確保にある。実際、A250シュポルト 4MATICを運転していても、このトルクスプリットがどう効いているのかはハッキリと体感できない。そもそもFWD時のスタビリティーが高いから、そうそう4WDモードには入っていないのではないだろうか。
その乗り味には、早朝ロケで寝ぼけた筆者を、薫り高いブラックコーヒーで目覚めさせてくれるかのような「お出迎え感」があった。ビシッと決まった黒いステアリング(赤ステッチ入り)。表面はふっかりとしながらも、奥の方ではコシがある座り心地を持ったレザーシート。まるでニューヨークの若手エリートビジネスマンが仕事をする、シックなインテリアで統一されたオフィス(!?)のような雰囲気を持つ室内空間である。
走りだしてもその印象は変わらない。ステアリングコラムの剛性感は高く、足まわりも適度にビシッとしており、頼もしい。パッと乗って、誰もが「高級なクルマに乗っているな」と感じることができる乗り味である。
速いシャシー、穏やかなエンジン
ただ、徐々に目が覚めてくると、ちょっとした違和感が生じてきた。ステアリングを切り始めたときの反応が、クイックに過ぎるのだ。まるでフロントに強いトーインを与えたかのように、最初が“グイッ”と曲がる。パワーステアリングは重めで、前述の通り直進感もいいのだが、ステアリングを切ると“キュッ”と行こうとする。首都高をはじめとする高速道路のレーンチェンジでは、ちょっとだけ落ち着きがないのだ。
今回は高速道路主体の試乗で、ワインディングロードなどには赴かなかったが、深めのコーナーでステアリングを切り増していくと、メルセデス特有のハイキャスターな感じが効いてきて、フロントが入ろう、入ろうとする。ただしそれはFRメルセデスの「クルマ全体で曲がろうとする感じ」とは違う。
ちなみにこのときは「S」モードだったので、これを「E(エコノミー)」モードにしてみると、かなり自然な切れ込み感にはなったのだが、今度はダンパーの伸縮がズレた。バンプ側の減衰力がやや弱められてリバウンド側主体となるため、突き上げ感は少し弱まるものの、段差での“落ち感”や、“揺り戻し感”が強まってしまうのだ。どちらも「メルセデスに期待する質感」に照らし合わせると、帯に短し襷(たすき)に長しという印象が拭えなかった。
一方、エンジンは実直な印象だ。直噴ターボの加速力に過不足を感じないのは、211psの最高出力というより35.7kgmの最大トルクのおかげだろう。ピークトルクは1200rpmから4000rpmの間で維持されるのだ。いわば現代のトレンドを踏まえたパワーの出方である。
意地悪く言えば、面白みはない。スロットルペダルを大きく踏み込んだところで、「ゴルフGTI」のようにはじけるかのごとき音の演出もない。実に普通に、しっかり加速していくだけだ。ここが派手なら、まだハンドリングとのマッチングにも納得できるのに……。ラインナップの上位に「A45 AMG 4MATIC」があるから遠慮しているのだろうか?
その実直さに拍車を掛けるのが、7段デュアルクラッチ「7G-DCT」の変速模様だ。パドルでシフトダウンすると、エンジンをごく軽くブリッピングして、予定した回転数に向かってタコメーターの針を素早くピタッと移動させる。その動きはまるでロボットのようで、新鮮かつハイテク感満載なのだが、その変速音をよく聞いてみると、クラッチのつながりそのものはワンテンポ遅れることがあるのがわかる。“デジタルによる高級感の演出”というものが、わからぬように仕込まれている感じである。
若返ったことは確かだが……
以上をまとめると、A250 シュポルト 4MATICとはこんなクルマである。まず車重が1520kgもあるから「小型車」と言うのがはばかられる。そしてメルセデスはFWDというものを、まだ完全にモノにしたとは言えそうにない。かつ、それを覆い隠すかのように、AMGが足まわりに派手な味付けをしている。もっとも、シャシーの味わいそのものは重厚だし、まっすぐ進んでいる限りはメルセデスらしい安定感に満ちているから、自動車ジャーナリストは褒めるし、市場はそのわかりやすいハンドリングに喜ぶ。
そのおかげもあってか、Aクラスは立派にメルセデスブランドを若返らせているように見える。新しい購買層の獲得に貢献したクルマと言えるだろう。なんでも、年を取るとせっかちになって、クイックな味付けを好むようになるというから、若者だけでなく熟年層も獲得しているのかもしれない。
でも“真のメルセデスファン”は、これぐらいではまだ納得しないのではないだろうか? 甚だ無責任な言い方をするなら、メルセデスが本当にダウンサイジングというものを世に問いたいのであれば、最新の技術で現代版「190E」を作ったらいい。あのサイズ(全長は4450mmで全幅は1690mm、つまり5ナンバーサイズだった)を維持して、Aクラスを名乗ればいい。
それはともかくもっと現実的なところで考えるなら、今後メルセデスがAクラスをどう改良していくかはとても興味深い。メルセデスと聞いて誰もが想像するような、伝統的な“らしさ”を与えていくのか? それとも、かつてポルシェが散々な言われ方をしながらも「ボクスター」を必死で磨き上げていったように、このまま新境地を進み、この路線を磨き上げるのか? いずれにせよ、それは大っぴらにアナウンスされぬまま進行していくだろう。Aクラスは、これからがとても楽しみなクルマだ。
当たり前のことだけれど、メルセデスはそういったことを重々わかった上で、このAクラスをローンチしている。現状を見る限り、手放しで喜んでいるのは、多分僕たちのほうである。
(文=山田弘樹/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
メルセデス・ベンツA250 シュポルト 4MATIC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4355×1780×1425mm
ホイールベース:2700mm
車重:1520kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:211ps(155kW)/5500rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1200-4000rpm
タイヤ:(前)235/40ZR18 95Y/(後)235/40ZR18 95Y(ミシュラン・パイロットスポーツ3)
燃費:14.6km/リッター(JC08モード)
価格:457万7000円/テスト車=504万6600円
オプション装備:メタリックペイント(ノーザンライツブラック)(6万4800円)/レーダーセーフティパッケージ(17万4800円)/AMGエクスクルーシブパッケージ(23万円)
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:472km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:318.3km
使用燃料:25.9リッター
参考燃費:12.3km/リッター(満タン法)/11.6km/リッター(車載燃費計計測値)

山田 弘樹
モータージャーナリスト。ワンメイクレースやスーパー耐久に参戦経験をもつ、実践派のモータージャーナリスト。動力性能や運動性能、およびそれに関連するメカニズムの批評を得意とする。愛車は1995年式「ポルシェ911カレラ」と1986年式の「トヨタ・スプリンター トレノ」(AE86)。