第360回:「ケンメリ」から「ビートル」まで、クルマ系Tシャツでキメろ!
2014.08.15 マッキナ あらモーダ!自動車販売店で買ったTシャツ
今日、自動車ブランドを冠したアパレルは花盛りである。メルセデス・ベンツやフェラーリもオフィシャル・マーチャンダイジング商品のなかに膨大な数のアパレルコレクションを擁している。マセラティも、ポロ用ウエアで有名な「ラ・ルティナ」と華やかにコラボレーション展開している。これについては本連載の第353回で紹介したとおりだ。
しかしながら、かなり早い時期にそれを手がけていたのは、何を隠そう、日産の「スカイライン」だったと思う。1970年代中盤、広告キャッチに合わせた「Ken&Mary」のTシャツをプリンス系販売店の片隅で販売していたのだ。子供向けも用意されていた。
ただしボクの小学生時代、わが家に見知らぬ自動車販売店で服を買う習慣はなかった。さらに、くだんのキャッチは相合い傘マークとともに描かれている。学校などに着ていったら、たとえボクが「ケン」ではなく、かつ学級内に「メリー」がいなくても、「◯◯君は△△さんが好きだ」系冷やかしネタに飢えている同級生の餌食になることは明らかだった。
幸い、1977年になると「ケンとメリーのスカイライン」から「スカイラインジャパン」に変わった。そして80年にターボ仕様が追加されると、今度は「2000GT TURBO」と記されたTシャツが発売された。中学生になり、自分で服を選ぶ自由が保証されたボクは、自転車をこいで市内のプリンス販売店まで行き、それを買い求めた。女子が多い学校だったので、同級生の大半は2000GTターボのカッコよさをわかるはずもないのに、自慢げに着て通学した。
だが、しばらくして同級生のひとりが「日産ローレル」のエンブレムが刺しゅうされたセーターを着てきた。ボクが買ったTシャツより明らかに立派な、ご成約プレゼント級の品だった。彼女の家がローレルに乗っていたかどうかは知らないが、タクシー会社の社長の娘だったから、当然もらえたのだろう。ボクの2000GT TURBOのプライドは、いとも簡単に砕け散った。
クルマ系Tシャツ
今週はそのTシャツの話である。
欧州の自動車愛好者イベントに顔を出すと、マジキャラな一般的日本人像とは対照的な、ラテン的怪気炎を上げるボクに衝撃を受けるのか、参加者は別れ際に「これは友情のしるしだ」と、クラブでメンバー用に製作したグッズを贈呈してくれることが多い。
困るのはキャップ、つまり帽子である。日ごろかぶり慣れていないボクが着用すると、クライアントの催しに借り出されたPR会社の課長級おじさんのようになってしまう。
いっぽうで重宝するのはTシャツである。特に夏場は、ありがたい。ここに紹介するのは、過去数年にボクが手に入れたクルマ系Tシャツである。
【写真A】は2010年、イタリアの「スマート」愛好会「スマートフォーラム」のミーティングを訪ねたとき主催者からもらったものだ。スタッフ用である。まあ客室乗務員の制服と違って、ボクにくれても問題なかったのに違いない。女房からは「そろそろ処分せよ」と言われているが、表に何のプリントもなく、背中も文字だけ入っているシンプルさが気に入って、気がつけば4年も着ている。
【写真B】も4年ものだ。2010年、フランスで行われた「ルノー4」愛好者の国際大会を訪問したときのTシャツである。ただし、フランスのものではない。イタリアにおけるルノー4保存会「レジストロ・ストリコ・ルノー4」のメンバーからもらったものだ。
彼らは、たとえボクが日本人とはいえ、イタリアに住んでいると聞いてうれしかったのだろう。森の石松の「あんた江戸っ子だってねえ、食いねぇ、すしを食いねぇ」ならぬ、「イタリアに住んでるんだってねえ、持ってきねぇ、Tシャツ持ってきねぇ」という流れだったと記憶している。ぱっと見にはクルマ系とわからないグラフィックが良い。
フォルクスワーゲンファンの愛した数式
最近の秀作は、前回本欄で紹介した「インターナショナル・フォルクスワーゲン・ミーティング」で、参加グループのひとつからもらった。2本目の動画の最後で盛り上がっている若者たち、「ラ・ファルマチア・デイ・マッジョリーニ」が製作したものだ【写真C】。
フォルクスワーゲン(VW)ファンなら即座におわかりのように、数式風に記された数字は、いずれも往年のモデル名sである。「1302」「1303」はフロントに従来のトーションバーではなく、ストラット式サスペンションを備えたビートルのモデル名、「T1」「T2」はトランスポーターの第1世代、第2世代を指す。そして「6V」は電装系が6ボルトだった時代のVWのことである。前述のルノー4Tシャツ以上に、クルマ系と悟られないところが気に入っていた。
ところが、後日それを着ているボクを見た複数の人から意外な反応があった。
「どういう意味の数式なんだ?」というわけだ。住んでいるのが中世からの大学都市ゆえか、真面目に考えてしまう人がいるのである。クルマに興味がない人にそれを説明するのは極めて難しいし、解説したところでウケないから、さらに気まずい。
いっぽう、クルマ系ではないものの、会った相手にダイレクトにウケるのは、【写真D】の品である。Tシャツがふさわしい季節に日本に行けないのが惜しいが、東京の編集部をあいさつまわりするとき、さりげなく着用しているとよいかもしれない。えっ、この連載もかって? いえいえ、めっそうもないですwebCG編集部さま。
(文と写真 = 大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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