レクサスNX 開発者インタビュー
自信が持てるSUV 2014.08.14 試乗記 Lexus International製品企画 主幹
西山景一(にしやま けいいち)さん
レクサスの新たなSUVとして、2014年7月末に国内デビューを飾った「NX」。その誕生の背景や開発にまつわるエピソードを、開発担当者に聞いた。
小さいだけでは満たされない
――レクサスには既にRXというSUVがあり、市場でも十分存在感を示しているようです。そこに今回、どんないきさつで、新たなSUVを作ることになったのでしょうか?
NXの企画が始まったのは、2009年。ちょうど、RXが3代目になった年ですね。“アメリカナイズ”されたRXは、代が変わるごとに、どんどん大きくなりました。それで、市場からも高い評価を受け続けています。一方で、このころ、「新たな勢力=コンパクトSUVが台頭してきたな」ということも意識されるようになりました。ならばメーカーとしては、商機と捉えて取り組まねば……というのが、経緯です。
――その“新勢力”=ライバル車とは、具体的にはどういったモデルでしょう?
ずばり、アウディの「Q5」ですね。開発当初からベンチマークにしてきました。例えば、ユーティリティーに関わるボディーサイズは、両モデルともほぼ同じ。取り回しのよさを考えて、NXは全幅がより抑えられていますが。
開発の途中で、さらにコンパクトな「アウディQ3」が登場しましたが(2011年)、こちらは価格の点でNXに近い。お客さまから見れば、条件次第でQ5あるいはQ3がライバル、ということになるかもしれません。同様に今は、BMWの「X3」と「X1」、メルセデス・ベンツの「GLKクラス」と「GLAクラス」も比較対象に挙げられるでしょう。
――訴求のポイントは、やはり「今までなかった小さめサイズ」ということになるでしょうか。
ええ。ただ、それだけではダメなのです。ひとくちにコンパクトSUVといっても、“どういう方向性のプロダクトなのか”が大事なんです。
それを探るべく北米でヒアリングをした際にわかったことですが、例えばQ5のユーザーは、より大きな「Q7」のオーナーに対して引け目を感じているところがありました。
軽くて小さいことに十分なメリットを感じられればいいのですが、それが足りないと、「安い方に流れただけ?」などと引け目を覚えることになるわけです。だから、小さいだけではいけない。単なる“ミニRX”は、求められていないのです。
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作り手にも“ささった”コンセプト
――サイズ以外にも、確かに魅力的と感じられる要素とは……?
マーケティング調査を続ける中で、「スポーツカー好きはSUVも好き」という事実もわかってきました。そこで、ラグジュアリーでゆったりしたRXとは対照的な、スポーツカー的な要素を持つ“キビキビしたハンドリングのSUV”を目指して、NXの開発が始まりました。コンセプトを固めるまでが2年間。正式なスタート時期は2011年です。
――コンセプトには「Premium Urban Sports Gear」を掲げていますね。
練りに練ったキーワードです。この言葉は、開発チーム全体にも、非常によく浸透しました。おかげでみんなが一枚岩になれて、いい開発作業ができたと思っています。
このコンセプトを受けて、まずデザイナーが、それにふさわしいカタチを提案する。すると運動性能の開発担当は「あの動物的な外見にふさわしい足まわりを作らなきゃ!」となる。さらに、インテリアは、エンジンは……という具合です。共通項が「スポーツギア」で統一されて、それに見合うパーツ、そして性能が作り上げられることになりました。
――“ギア”という言葉にも、こだわりを感じます。
見てよし、走ってよし……と、いくつか開発のポイントがある中で、それらに先立つものとして、「SUVのユーティリティー」を根本的な条件に掲げました。
デザイナー、人間工学の研究者、被験者などを交えて繰り返しトライ&エラーを重ねた結果は、例えば、高すぎず低すぎず、絶妙に乗り降りしやすい高さにも表れていると自負しています。もっとも、世の中の全てのユーザーをひとり残らず満足させることはできないかもしれない。でも、スポーツカーらしいカタチを生かしながら、最大限、“デザイン”と“ユーティリティーのあるパッケージ”をバランスさせられたと思っています。
また、後席の格納を車内の3カ所からできるようにしたり、剛性感のある折り畳み収納式のトノカバーを採用したりと、細部の使い勝手にもこだわりました。ひじ掛けのところにある、取り外し式のバニティーミラーに気付かれましたか? サンバイザー付属の鏡よりもいいと、女性だけでなく男性にも好評なんですよ。
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世界から期待されるクルマ
――レクサス初となる2リッターターボエンジンもトピックのひとつですね。NXのために開発したものですか?
ターボエンジンは、2005年ごろからパワーユニットの開発部隊が独自に開発を進めていたものです。当時レクサスはハイブリッドに注力していましたが、欧州で高効率なターボエンジンに光が当たり始めたのを受けて、ハイブリッドに続く効率型のパワーユニットとして着手したのです。
その彼らがスポーティーなSUV=NXの開発計画を聞きつけて、「それに載せたらピッタリじゃないか?」と。(トヨタにとって)20年ぶりのターボエンジンというメッセージ性もありましたし。そんな経緯で、“幸せなお見合い結婚”が成立しました。
基本的にNXは、このターボとハイブリッドの2本立てで展開することになります。一部の国では、自然吸気ユニットも投入されますが。
――世界のどの地域で扱われるのでしょう? 特に期待される市場はありますか?
現在レクサスディーラーのあるところ、つまり日本、北米、南米、欧州、中国、ロシア、オーストラリア、東南アジア、中近東など……世界中で販売する予定です。
このクルマは本当に、ありとあらゆる地域から引き合いがあるんです。ワールドプレミアに際しても、「ぜひ、わが国のオートショーで行ってほしい」という申し出を複数いただきました。生産・販売時期との兼ね合いもあって、結果的に中国(2014年4月の北京モーターショー)に落ち着きましたが。
通常、プロトタイプができると、ディーラー関係の商品研修をするんです。このNXもですが、海外・日本を問わず、参加者がみんな笑顔で帰っていったのはとても印象的でした。当初から、このクルマはきっとお客さまに受け入れていただけるという自信はありましたが、それはこの半年間で、“確信”に変わりました。
(インタビューとまとめ=webCG 関 顕也/写真=webCG)

関 顕也
webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。
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