ランボルギーニ・ウラカンLP610-4(4WD/7AT)
ランボの新時代ここに始まる 2014.10.02 試乗記 「ガヤルド」の成功に甘んじることなく、「ウラカン」で“攻めのモデルチェンジ”を敢行したランボルギーニ。そのステアリングを握って筆者が感じたのは、このモデルはゴールなどではなく、ランボルギーニの新時代を示唆する、むしろスタートであったということだった。富士スピードウェイで試乗した。“異様”なまでの存在感
今も昔も富士スピードウェイの名物の、1.5kmにも及ぼうという長いホームストレート。その半ばの、コンクリートウォールごしに平行するピットレーンに、ランボルギーニ発の新しい猛牛、ウラカンが並べられた姿は、やはり壮観だ。
シザーズドアがこれ見よがしに跳ね上がり、乗り降りそのものが“エンターテインメント”と化する「アヴェンタドール」に比べれば、前ヒンジで開くオーソドックスなドアを備えたこちらは、少しは「身の丈に近いモデル」と言えるのかもしれない。
けれども、その独特の佇(たたず)まいから発せられるオーラの強さは、やはり並のスポーツカーとは一線を画したもの。それはまず、まさに“異形”と形容をするべきその独特なプロポーションに由来する。
4.5m弱と1.9mをわずかに超える全長×全幅サイズには、驚きはない。が、そこに1.2mに満たない全高が組み合わされるとなれば、その佇まいにはもはや「フツーではない」感が一杯だ。
かくして、“そうした物体”が5台も6台もまとまってうずくまるとなれば、そこに一種異様な空気が漂うことは避けようがない。
「アジアで初めての開催」と紹介されたウラカンのサーキット試乗会は、いかにもエクスクルーシブでエキゾチックな雰囲気が漂う、そうしたシーンと共にスタートを切った。
ランボとて例外ではない
ランボルギーニ車の流儀にのっとって、「最高出力610psを発するエンジンを縦置きとした、4WDシャシーの持ち主」であることを示すサブネームが与えられた、ウラカンLP610-4。その途方もないパワーを発する源は、自らが属するフォルクスワーゲングループがその先導役を果たした、いわゆる“ダウンサイジング”の流れなどあえて無視するかのような、5.2リッターという大排気量の自然吸気エンジンだ。
もっとも、だからといってさすがのランボルギーニも世の時の流れには逆らえない。
基本は、10年間で1万4000台以上を販売し、「ランボルギーニ史上最大のベストセラー」となったことで知られる前任モデルのガヤルドから踏襲された、ドライサンプ式のV型10気筒ユニット。ただし、そこには新たに直噴とポート噴射を併用するデュアルインジェクションシステムが採用されるなど、「高出力化と低燃費化」を目指した大きなリファインの手が加えられた。
あまつさえ、非公式ながら「燃費規制はわれわれの存在意義を危うくする」というコメントさえ聞かれたひと昔前のこのブランドには考えられなかったアイドリングストップメカまでを搭載するというのだから、やはり時代は変わりつつあるのだ。
とはいえ、「そんな厄介なこと(?)は忘れて、今日は存分にアクセルを踏んでもらおう」というのが、今回のイベント(であったはず)。義務付けられたヘルメットをかぶり、グローブをはめてはやる気持ちを抑えながら、ドライバーズシートでポジションを決めてスタートの時を待った。
最もモダンなランボルギーニ
メーターパネルのほぼ全面にナビゲーションマップを映し出すことを可能とするなど、希望に応じて3種類のグラフィック表示をチョイスできるのが、ウラカン自慢の12.3インチTFTパネル。今回はもちろん、中央部分にタコメーターを主役に迎えた「フルドライブ」のモードを選択。フルスケールが1万rpm(!)、レッドゾーンが8500rpmからというタコメーターの表示から、このモデルの心臓の特性が典型的な“高回転・高出力型”であることを、まずは無言のうちに教えられる。
一方で驚かされたのは、サーキット走行に備えてすでに火が入れられた心臓が放つ、余りに静かなアイドリング音だった。
「えっ!? 新しいランボってこんな“良い子”になってしまったの?」と、当初は正直、むしろ落胆の思いが混じったもの。
が、どうやらそれは、実は仮の姿なのだと、すぐに教えられることになった。「アニマ」なる愛称が与えられた、ステアリングホイール下部の小さなモード切り替えスイッチで、ノーマル位置に相当する「ストラーダ」から「スポーツ」、もしくは「コルサ」(レース)へと切り替えると、そこでは期待通りの力強い排気サウンドがよみがえってくれたからだ。
ランボルギーニのサーキット試乗会の常で、今回もインストラクター操る先導車に続いての走行。ピットレーンをスタートしてすぐに気付いたのは、微低速域でのアクセルワークに対する挙動が、ガヤルドに比べて圧倒的にスムーズであることだった。
「eギア」と称したガヤルドのトランスミッションがシングルクラッチ式だったのに対して、「LDF」と名付けられたこちらはいわゆるDCT(ダブルクラッチトランスミッション)。それゆえ、シフトアップもシームレスに行われ、駆動力の途絶が存在しない。このブランドで唯一DCTを手に入れたウラカンは、それだけで「最もモダンなランボルギーニ」になったのだと、すでにこの時点で実感させられた。
すさまじいまでの加速力
0-100km/h加速タイムが3.2秒にして、最高速は325km/h以上――そんなスペックの持ち主ゆえに、「当たり前といえば当たり前」ではあるのだが、シート背後でV10サウンドを炸裂(さくれつ)させながら4輪が大地を蹴り続けるウラカンの加速力は、やはりすさまじいものだった。
最高700psというさらにとんでもない心臓を積むアヴェンタドールの、まるで「血の気が引いてしまうような加速感」に比べれば、こちらの方がほんのわずかながらも“平和的”と思えたのは確か。が、それでもサウンドの高まりと共に、後方への景色の流れが一気に速さを増していく感覚は、やはり並のスポーツカーで味わえるものではない。周囲が開けたサーキットでさえそう感じるのだから、一般道でフル加速を試したら、その感覚はいかばかりのものだろうか。
タイトな最終コーナーを抜け、いよいよ冒頭記した1.5kmのストレートに差し掛かる! が、残念なことに、ここで250km/hを超えるような超高速域までを試すことはならなかった。
先導車は、「グループ内の最も遅い車両にペースを合わせる」のが決まりごと。実は不運にも、2度の走行チャンス共にサーキットスピードに乗れないメンバーが混じったため、先導車はすでにストレート前半にして、ペースを落としてしまったのだ。
加えれば、たびたびそんな“後続車待ち”が入ったために、すべてのコーナーでは、限界よりもはるか下でのスピードによる通過を余儀なくされることに……。
結局、前出「アニマ」のポジションの違いによるハンドリングの特性変化も、試しようがなかった。何しろ、4輪はしっかりと常に路面を捉えて離さないのだ。フル電動化されたパワーステアリングが、全く違和感のない手応えを提供してくれることは確認できた。が、とにかく終始前方を先導車に抑えられたため、とてもカウンターステアをあてるような領域にまでは至らなかったのだ。
将来の方向性を示唆する
そうこうするうちに、そもそもごく短時間だったサーキット走行に用意された時間帯はあえなく終了。正直なところ、何とも“不完全燃焼”な思いのままにクルマを降りるしかすべはなかった。
このわずか数周の、しかも本来のサーキットスピードからすればはるかに遅いペースでの走りが自身でのウラカンでの体験のすべてゆえ、今回ばかりはその印象について、多くを語ることができないのは何とも残念。そしてもちろん、いつの日かそれをリベンジできる時が訪れることを願わずにはいられない。
が、逆にそれがほんの一瞬だけの体験であったがゆえ、ハッキリと感じられたこともある。
それは、ウラカンというモデルが単なるガヤルドのフェイスリフトなどではなく、フラッグシップモデルであるアヴェンタドールすらも凌(しの)ぐ圧倒的にモダンなテイストを身につけた、文字通り新世代のランボルギーニという雰囲気にあふれる存在であったことだ。
DCTの採用で変速クオリティーが一挙に高まり、それもあって「ガヤルドよりもさらに乗りやすくなった」という表現は、当たっていると思う。それも含め、このモデルの走りが、多くのメカニズムを共有することになるであろう次期型「アウディR8」のそれと、どう差別化をされているのか……も、大いに気になるところだ。
もっと言えば、そこにはこの先、アヴェンタドールがどのような進化を遂げていくのか、といった、将来の方向性を示すヒントが隠されているようにも思う。
かくして、かつてなく“いろいろと考えさせられるランボルギーニ”となったのが、ウラカンというモデルといえそうだ。
(文=河村康彦/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウラカンLP610-4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4459×1924×1165mm
ホイールベース:2620mm
車重:1422kg(乾燥重量)
駆動方式:4WD
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:610ps(449kW)/8250rpm
最大トルク:57.1kgm(560Nm)/6500rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20 90Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:12.5リッター/100km(約8.0km/リッター)(1999/100/EC 複合モード)
価格:2970万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。