トヨタ・ランドクルーザー“70”シリーズ 開発者インタビュー
「武骨」が求められている 2014.10.04 試乗記 トヨタ自動車製品企画本部 チーフエンジニア
小鑓貞嘉(こやり さだよし)さん
強力な悪路走破性能と高い耐久性、信頼性により、世界各地で活躍する「トヨタ・ランドクルーザー“70”シリーズ」。1年限りの日本復活に込められた思いを、開発者に聞いた。
想像を絶する使われ方をするクルマ
――まず、現在の「ランドクルーザー“70”シリーズ(以下70系)」を取り巻く世界的現状をお聞かせください。
70系は今年で30周年を迎えたわけですが、その間に約180カ国で販売されてきました。現在の輸出先は約100カ国。主力市場は中東地域やオーストラリアという感じになりまして、おおむね月に6500~7000台を生産しているというところです。
――台数もさることながら、中東にもそれほどのニーズがあるんですね。
ラグジュアリーな用途のお客さま向けには「200系」も販売させてもらってるんですが、やっぱりこのクルマでないとどうにもならないというニーズはあるんですね。例えば現地の遊牧民族。ベドウィンと呼ばれる方々ですね。砂漠の中に住む彼らの生活環境は過酷なので、70系クラスの性能が求められます。都市部でいえば、魚屋さんなんかはこのクルマの後ろに水槽を乗せて商売に使われています。
――日本的にいうところの活魚車ですね。
そう。70系は車台の特性を生かして架装のニーズにも応えていますから。でも、後ろに水槽を積まれることを想像してみてください。とんでもない荷重が掛かりますよね。
――さすがにそこまでは想定できないと。
まぁ本来はそう言いたいところです。架装は特に過積載が想定されますから。でも、彼らにとっては他に選択肢がないこともあり、われわれとしてはそれに最大限応える努力をしなければならないわけです。結果として、現在70系にはスタンダードとヘビーデューティーという、2つのシャシースペックがあります。
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日本仕様に大きな変更はなし
――ちなみに日本仕様はどういう設定になっていますか?
日本仕様はバン、ピックアップのいずれもスタンダード仕様をベースとしています。バンは中東仕様モデルを右ハンドルとし、ピックアップは南アフリカ仕様をそのまま用いました。
――ローカライズのために変更した項目は?
排出ガス基準は仕向け地の仕様そのままで適合していますから、保安基準のためにリアバンパー両端のリフレクターと、左フェンダーの補助ミラーを追加しました。あとはほぼ輸出仕様のままです。
――エンジンに関しては、ディーゼルを望む声もあったかと思いますが。
もちろん排ガス基準の問題もありますが、今日では70系においてディーゼルはむしろ少数派で、主力はこの4リッターV6なんですね。上質感に関しては言うに及ばず、走りに関しても特に低回転域での粘り強いトルクデリバリーを重視して徹底的にチューニングしてあります。乗って体感してもらえれば満足いただけるものになっているはずです。
――上質感という点においては、乗り心地のよさにびっくりしました。オンロードでもオフロードでも。
乗り心地はランドクルーザーにとって非常に重要な項目です。この手のサス型式を持つクルマはいくつかありますが、走破性を犠牲にせず、かつライバルを凌駕(りょうが)する快適性を常に目指しています。現行型に関しては、シートに助けられているところも大きいですね。低反発のフォームを用いることで、ホールド性と衝撃吸収性をうまく両立することができました。
スタイリッシュとはいえないけれど
――試乗車の車検証をチラ見したのですが、1年という期間限定の発売にも関わらずちゃんと型式認定を取られているんですね。
車両そのものの法規に関してはほとんど手間はありませんが、型式認定を取るにはひと通りの書類を作成しなければなりませんから、大変といえば大変です。まぁわれわれはメーカーでもありますし、いくら期間限定とはいえ、販売店さんに登録の手間をとらせるわけにもいきませんから(笑)。
――それでいえば、いくら期間限定とはいえメーカーが正式に販売するということは、今後10年単位での整備や補修を担うことになります。それがタフな70系とあらば、10年どころじゃない話にもなりかねない。その辺の社内調整は大変だったのではと察しますが。
部品供給に関しても整備性に関しても、特に難しいところがあるクルマではありません。むしろ30周年を祝うための再販という気持ちが大きかったですね。あと、やっぱりこれでないとだめなんだというユーザーさんの声はたくさん伺ってましたから、期間限定であれ、なんとか普通に買える機会を作ってお応えしたかったというのもあります。
――そこには法人からの要望も多くありましたか?
北海道や東北の自治体や消防団、林野庁さんなど、ニーズが考えられる行政機関はいくつかあります。が、他車種への代替も進んでいますし、そればかりを前提にしたわけではありません。あくまで個人需要へお応えすることがメインですね。
――すでに販売店には多くの注文が入っているそうですが。
われわれが思いもよらなかったのは、年齢や性別に関わらず、非常に多くの方々からの共感をいただいていることです。MT専用のマニアックなモデルですし、とにかく機能第一主義で設計されていますから、お世辞にもスタイリッシュというものではありません。でも若い方々がディーラーでじっくり吟味してくださっているのを見たりすると、クロカンからSUVへという流れも一巡して、再びこういう武骨な道具が求められるようになった、時流が繰り返しているのかなぁと勉強させられますね。
(インタビューとまとめ=渡辺敏史/写真=向後一宏、webCG、トヨタ自動車)
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渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。