レクサスRC F(FR/8AT)/RC F“カーボン エクステリア パッケージ”(FR/8AT)/RC350“Fスポーツ”(FR/8AT)
さらなる高みへ 2014.11.07 試乗記 レクサスのフィジカルはどこまで進化した? スポーツイメージをけん引する新型クーペ「RC」シリーズ。その中から「RC F」と「RC350“Fスポーツ”」をサーキットで試した。ジャーマンスリーと真っ向勝負
“ジャーマンスリー”の本拠地ドイツを中心とする、欧州のマーケットを切り崩すまでにはいまだ至っていない。しかしレクサスは、上陸後たちまち成功を収めたアメリカと、母国である日本を筆頭とした国々においては、「自他共にプレミアムブランドとして認められる」というレベルにまで成長を遂げている。
日本で唯一、そんな立ち位置をとるこのブランドにとって、前出のジャーマンスリー、すなわちメルセデス・ベンツやBMW、アウディを筆頭とする欧州発のライバルたちと真に対等に向き合うためには、美しいスタイリングのクーペと、国際的なモータースポーツシリーズへの参戦は不可欠であるはずだ。
そう、レクサスのブランニューモデルである「RC」とその高性能版「RC F」の投入は、まさにそうした狙いどころを意識した、満を持しての戦略であるに違いない。
ちなみにドメスティックなレース活動としては、すでにSUPER GTにRC Fベースのマシンが参戦中。それに加えて、グローバルなモータースポーツの場には、FIA(国際自動車連盟)公認のGT3規格に対応したマシンを開発し、「世界中のチームへの車両供給と、参戦サポート活動を行う予定」とも発表されている。
すなわち、RC/RC Fはレクサスにとっては単なるスタイリッシュな2ドアモデルの追加というだけでなく、そのブランド力をさらに強固なものとしていくための深い意味を持っていることになるわけだ。
「RC F」にはカーボンパッケージも
そんなRC/RC Fの試乗会が、大分県のサーキット「オートポリス」とその周辺を舞台に開催された。
サーキット試乗会の場合、まるで「イベントをやりました」というアリバイづくりが目的(?)であるかのように、ほんの数周程度しかクルマに触れる機会が与えられない場合も実は少なくない。が、今回のイベントではうれしいことにそうした制約は一切なし。
「スタート後、3周目には一度ピットに戻ってください」とだけは言い渡されたものの、そもそもはF1レースの誘致を目指してデザインされたこのコースは、1周が4674mと富士スピードウェイ(4563m)以上の長さだから、1セットの試乗でさえも“走りで”はそれなりにある。
加えて、10人ほどのゲストに対して7台のテストカーが用意され、望むとあれば昼食を挟んでの4時間近くを、先導車もナシに延々と“乗り放題”も可能。それゆえ、これまでの自身のサーキット試乗の経験の中でも、“満腹度”は相当に高いものであった。
サーキット試乗セッションのために用意されたのは、「GS」や「IS」にも積まれてすでに定評あるデュアルインジェクション方式の3.5リッターV6エンジンを搭載する「RC350」の“Fスポーツ”グレードと、“走りのレクサス”としては「LFA」に次ぐホッテストバージョンであった「IS F」に採用された、5リッターV8ユニットをリファインした心臓を積むRC F。
そんなRC Fには、エンジンフードやルーフ、リトラクタブル式のリアスポイラー部分を炭素繊維強化プラスチック製アイテムに置き換え、トータルで約10kgの軽量化を実現させた“カーボン エクステリア パッケージ”仕様も用意された。こちらには、「FR車では世界初」とうたわれる電子制御式のトルクベクタリング機構“TVD”がオプション装着されていたことも付け加えておこう。
レーシングスピードに近づくと……
まずは、久々に走るオートポリスの、コースレイアウトの再確認の意味も含め、“素”のRC Fでピットロードを後にする。実はこのモデルは、最寄りの熊本空港からここオートポリスまで、移動のために小一時間を自らドライブしてきたものと同仕様だ。
そうした移動区間内の不整路面で時折、抱かされた「振動のダンピングは素早いものの、揺すられ感はちょっと強いかな」という印象も、“完全舗装”のサーキットではさすがにほとんど気にならない。ちなみに、コンソール上のモードセレクターダイヤルで変更可能なのは、アクセル線形やシフトのプログラムなど。サスペンションそのものに電子制御デバイスが採用されないのは、IS F時代と同様に、「まずはコンベンショナルなシステムで頂点を極めたい」という、開発責任者である矢口幸彦チーフエンジニア(CE)の意向も大いに影響しているに違いない。
ボディーのしっかり感と剛性感溢(あふ)れるブレーキのタッチが、レクサス車で随一……というよりも、「日本車の中にあっては間違いなくトップのレベル」という、やはりオートポリスに至るまでに受けた印象は、徐々に走りのペースを上げていっても変わることはなかった。
さらに、空港からの“リエゾン区間”ではとても試すことのできなかったフルアクセルを体験して実感できたのは、言うまでもなく際立った絶対加速力と、FRレイアウトの持ち主ながら想像以上にトラクション能力に長(た)けていたことだった。
一方で、レーシングスピードに近づくにつれ、ちょっとだけ気になり始めたのが、タイトなコーナーからの立ち上がりでも簡単にはグリップ力を失わない後輪に対し、バランス上、前輪グリップ力が物足りなく思えてしまうシーンが皆無ではなかったこと。
特に、高速コーナーになるほどにそうした印象が強まっていく。そう、端的に言えば、そこでは「アンダーステアが気になる」のだ。
TVDはサーキット派のマストアイテム
そうした走りの印象が「ここまで大きく変わるんだ!」と思わされたのは、同じRC Fでも“カーボン エクステリア パッケージ”付きに乗り換えた時だった。それは、前述したわずかな軽量化に伴う違いではない。少なくともここオートポリスのサーキットでは、オプション装着されていた例のTVDが、予想以上に大きな威力を発揮していると実感できたのだ。
前出のモードセレクターダイヤル脇のスイッチ操作によって選べるのは、「スタンダード」「スラローム」「サーキット」という3つのモード。「ステアリングレスポンスを重視した」という「スラローム」が最も顕著に介入し、「高速時の安定性を重視」という「サーキット」モードが、最も介入が穏やかになる。
昨今ありがちな“ブレーキの片利き”でヨーモーメントを生み出す方式ではなく、プラネタリーギアを用いた増速機構の助けも借りて加速側でも左右輪間に大きな駆動トルクの差を作り出すことが可能になる効果は、なるほど明白だった。「スラローム」モードを選択すれば「アクセルオンでガンガン曲がっていける」感覚だし、「サーキット」モードでもノーマルRC Fで感じられた高速アンダーの傾向は、確実に弱まってくれる。
と同時に、そもそも高いレベルにあったトラクション能力がさらに上乗せされたとも感じられたのは、トルクベクタリングの効果に加えて、TVDの約30kgという重量が、そのまま「低い位置でリアアクスルを押さえつける」という副次的な効果も無視できなかったはず。
いずれにしても、不自然さは伴わない範囲の中でこうした大きな効果を実感できるTVDは、少なくとも「サーキットを走る機会が想定されるなら、ぜひ注文したいマストアイテム」というのが筆者の結論だ。その価格は40万円超と決して安いものではない。が、装着によって得られる満足度も、その分大きな一品なのだ。
「RC350」の速さも想像以上
一方、さすがにサーキットという舞台ではRC Fの陰に隠れがちとなってしまうか……と予想したRC350“Fスポーツ”の走りも、いざふたを開けてみればなかなか侮れないものだった。
まず、侮れないのはその加速力。むろんRC Fの絶対的な速さや、V8サウンドも含めての迫力には及ばないにしても、6000rpmを超えても頭打ち感を示さないそのエンジンのフィーリングは、「意外に高回転域にも強いんだナ」という好印象が抱けるもの。
そもそも、300psを大きく超える最高出力を発する心臓を8段トランスミッションと組み合わせて搭載するのだから、スポーツクーペとしても十分納得の動力性能を提供してくれるのは、むしろ当然と言うべきなのかもしれない。
加えて発見だったのは、“曲がる能力”に関しても十分満足すべき実力を味わわせてくれたということ。中でも、高い横G領域まで踏み込んでも、さらなる“追い込み舵(だ)”の利きが簡単には失われない感覚は、筆者が予想し、期待した以上だった。
もちろん、そうした挙動が実現された背景には、まずしっかりとしたボディー骨格の作り込みが効いているはず。さまざまな部位に専用の補強ブレースが加えられたRC Fほどではないとはいえ、こちらRCでもボディーの剛性感はなかなか高い。加えて、大いに効果を生んでいると実感できたのが、フロントにギア比可変メカニズムを用いた4WSシステムだった。
こちらもまた違和感のない範囲内で4輪にコーナリングフォースを素早く立ち上げ、その後も前述のように高い次元まで舵の利きの自由度がしっかり確保されるという感覚には、率直なところ「RC Fでもコレを試してみればいいのに」と思えたほど。
もっとも、そうした印象を矢口CEに伝えたところ、やはり首を縦には振らない。これもまた予想通りの展開である。実は“IS F時代”から、電子制御式ダンパーの採用を進言する当方に対して、一貫して「NO!」という回答を返してきたのが矢口CEなのだ。こちらもしつこいけれど、矢口サンも相当に頑固なのである……。
ついにここまで来たか
そんなこんなで4時間近く用意をされていたサーキットでの試乗時間帯は無事終了。その頃になると、フロント6ピストン/リア4ピストンというアルミ・モノブロックキャリパーを採用したRC Fのブレンボ製ブレーキシステムも、かすかな振動を発したりペダルタッチに微妙な変化を示したりするなど、さすがに多少、音を上げ始めた印象は否定できなかった。
もっとも、そこにクレームをつけるのは、さすがに酷というものだろう。
何しろそれは900m超のストレートを駆け抜け、40Rという“直角”の1コーナーに向けて230km/h超からのフルブレーキングを終えた後、その先では“ジェットコースター・ストレート”なる400mに及ぶ10%の下り勾配から再度のフルブレーキングを試されるというすこぶるタフなコースを、複数のドライバーが次々と乗り換えて試乗するという、「余りに過酷な条件でのハナシ」ゆえ。同様のシチュエーションであれば、さしもの“ポルシェブレーキ”であっても、何らかの変化を生じた可能性は否定できないからだ。
それよりも、むしろこうしたテストイベントが企画され、しかもそこではスピンやコースアウトといった軽微な出来事さえも一切生じなかったという事実に、RC/RC Fの走りのポテンシャルの高さの一端が証明されているのではないかとも思えた。
1989年にレクサスというブランドが立ち上げられて以来、今年で四半世紀。この最新のクーペたちは、「ついにここまでやって来たか」と、純粋に感慨にひたれる内容の持ち主でもあったのだ。
(文=河村康彦/写真=トヨタ自動車)
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テスト車のデータ
レクサスRC F
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4705×1850×1390mm
ホイールベース:2730mm
車重:1790kg
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:477ps(351kW)/7100rpm
最大トルク:54.0kgm(530Nm)/4800-5600rpm
タイヤ:(前)255/35ZR19 92Y/(後)275/35ZR19 96Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:8.2km/リッター(JC08モード)
価格:953万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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レクサスRC F“カーボン エクステリア パッケージ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4705×1850×1390mm
ホイールベース:2730mm
車重:1780kg
駆動方式:FR
エンジン:5リッターV8 DOHC 32バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:477ps(351kW)/7100rpm
最大トルク:54.0kgm(530Nm)/4800-5600rpm
タイヤ:(前)255/35ZR19 92Y/(後)275/35ZR19 96Y(ミシュラン・パイロットスーパースポーツ)
燃費:8.2km/リッター(JC08モード)
価格:1030万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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レクサスRC350“Fスポーツ”
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1840×1395mm
ホイールベース:2730mm
車重:1700kg
駆動方式:FR
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:318ps(234kW)/6400rpm
最大トルク:38.7kgm(380Nm)/4800rpm
タイヤ:(前)235/40R19 92Y/(後)265/35R19 94Y(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:9.8km/リッター(JC08モード)
価格:678万円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:2014年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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